第123話 教育という素晴らしきシステム

「我ら、ダークエルフの里と妖精界が繋がったのは、先代のダークエルフ族長……我が父であり、これの祖父の頃のことだそうだ」


その門は突如として、ダークエルフの里のとある場所に現れたそうだ。


「一族の中で、族長のみが立ち入ることを許されている、祈りの間。そこに突如として妖精界へと繋がる門が現れた。シリウス殿程に当時神々への知識があった訳ではないらしいが、信託と妖精達の話から、邪神の仕業だということはすぐに分かったらしい」


族長が生まれる前の話なので、伝聞にはなるらしいが、生き証人とも言える、先代を知る妖精達からも話は聞いてるようで、その口調には真実味があった。


「とはいえ、邪神の気まぐれなんてものを妖精達は考慮しないので、我ら……否、この世界の生き物はその時点でほぼ終焉の道しか残されて居なかったが……そこを救って下さったのが、この世界の創造神と、我らが崇める神であったそうだ」


この世界の創造神、つまりはあの男装の麗人の女神様だろうが、5歳の頃に洗礼で一度しか会ったことないのに、くっきりと記憶に残っているのは、やはり神ならではの権能とかなのだろうか?


それ以上に色濃く残っているのが、俺の敬愛する女神様とのやり取りなのだが……こちらは、まあ、俺の信仰の高さ故もあるのだろう。


随分と信心深くなったものだなぁと、しみじみ思う今日この頃。


「着いたぞ。ここが祈りの間の入口だ」


案内されたのは、ダークエルフの里の更に奥……結界のより強いその場所には、見張りに凄腕が配置されている程に厳重ではあったが、見張りの居る祈りの間の入口部分……神社の鳥居のようなものが置かれており、そこから入るのだろうが、霧が掛かったように先は見えなかった。


恐らく、幻覚系の魔法など更に複数の魔法が掛けられれているので、視覚の認識を惑わしているのだろうが……これは、ダークエルフだけの魔法ではないな。


「族長さん。これって、妖精さんも協力してのものですよね?」

「やはり分かるか」

「ええ、まあ」


魔法の行使の無駄の無さとか、細かい点も勿論気づきポイントではあったが、1番の要因は、この魔力の流れには覚えがあったからだ。


これは、ほぼ間違いなく妖精による魔力行使だろ。


「すげぇな、俺にはそもそもこれが何なのかすら分からんが……エデルは分かるか?」

「私も少ししかまだ分からない。そのうち全てマスターしたいものだ」

「ほう、言うではないか、エデル。では、それ相応の試練をかそう」


思わぬ失言での父からの言葉に、顔を引くつかせるエデル。


その様子から、試練の大変さは察したが、次期族長ガンバとエールを送っておくことにする。


「参考までに聞くが、シリウス殿はこれらの魔法を全て理解出来てるか?」

「一応は。とはいえ、少しだけダークエルフ独特の魔法もあるので、完璧とは言えないでしょうが」


妖精の魔法の部分も、再現は難しいが、限りなく近づける事くらいなら不可能では無かった。


手取り足取りなんて、優しい環境では無かったから、見て覚えるが基本の俺なので、その辺は恐らく他の人とは多少感覚が違うのかもしれない。


最初の前世では、分からないことを聞くことさえ許されず、失敗には厳しい罰が付くので、必死であったし、英雄時代は、最初の頃は師匠という存在も居たが……あの人も適当な所があったし、大雑把な感覚派でもあったので、それはそれで苦労したものだ。


『こう、ズキューン!ってするといいと思う』


この説明は、師匠が俺にとある奥義を教えた時の言葉だ。


剣の奥義に、『ズキューン!』なんて、単語が出てくるとは俺は知る由もなく、結果的に1度見た事で覚えることは出来たが、この説明で分かった人は天才だと断言する。


この世界に来て、手取り足取りの優しさを知ってしまったら、余計に前世が虚しく思えたが……まあ、無駄になってないし、気にしたら負けだよね。





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