第121話 無関心故に
「何となく凄いってのは分かったが、そんな存在と今から会えるってのか?こっちから干渉は出来ないんだろ?」
自分なりの理解で納得した虎太郎だが、肝心の部分は妖精の存在の有無よりも、むしろその点こそ1番の問題と言えた。
「うん、本来はね。ただ、現実的じゃない方法なら一応方法もあるにはあるんだよ」
「そうなのか?」
「……シリウス殿はどこまで知っているのだ?」
虎太郎に説明していると、その様子から思ってたよりも俺がその手の知識に通じてると思ったのか、問いかけてくる族長。
「さて、俺は少し知識欲が旺盛なだけなので、その辺は何とも」
「……そうか」
何かを探るような視線を向けられるが、疚しいことは何も無いのでサラッとその視線を受け流す。
まあ、確かに2度も人生を終えてるとはいえ、その人生で人よりも多少忙しなく生きてきただけの俺なので、決してズルとか反則技を使っては居ないと思う。
……多分。
「父上、シリウス殿は普通の子供ではないのでしょうし、詮索はしない方が。それに、シリウス殿は我らダークエルフの恩人とも言える存在ですよ」
「そうだな……すまないな、話の腰を折ってしまって」
エデルの言葉に頷くと、族長はひとまず納得したように姿勢を正す。
流石は会って間もないのに俺達を信じて里まで案内してくれた柔軟な男、エデル。
エデルなりに族長との間を取り持ってくれたようだし、後で何か娘さんとの距離が近づきそうなアイテムでも渡そうかな?
「じゃあ、話を戻すけど……その前に、虎太郎なら本来行けない別の世界にどうやったら行けると思う?」
「ん?うーん……神を殴って言うこと聞かせるとか?」
……脳筋すぎやしませんか?
あと、その神様が俺の敬愛すべき女神様だった場合は、いくら虎太郎だろうと俺の敵なのでそこは気をつけたまえ。
「……何か寒気が」
「気のせいだよ。まあ、その方法はそもそも神様に会えた時点でそれ相応の能力を得てることになるから、間違ってはないけど少し違うかな」
「それもそうだな。じゃあ、どうするだ?」
「一番確実なのは、妖精側からのアプローチかな」
人間には、妖精界に至るための力は無い。
でも、妖精にはその力もあるので、彼女たちがその気になればこちらへのアクセスは容易であった。
「まあ、そうは言ってもその確率は極めて低いけど」
「確か、さっき坊主は妖精は人間には興味ない……みたいなこと言ってたな」
見た目の割に、虎太郎は理解も早いし話も聞いているので、説明のしがいがあるが……なるほど、この聞き手の力も虎太郎があの初対面からのナンパを成功させた鍵の一つなのだろうとしょうもない事も思ってしまう。
「そう、基本的に無関心と言えるね」
「何でだ?」
「うーん、その辺は妖精ならではの考え方かな」
妖精には基本的に寿命の概念はない。
老いることも死ぬことも一部を除き無いのだが、彼女たちのほとんどは妖精界に居ることに満足しており、他種族や他の存在への興味が薄いのだろう。
「そんな彼女たちだけど、ごくごく稀に、その中で気まぐれに他の世界へと妖精界を繋げる妖精が出ることもあるらしいよ。まあ、その場合は大半はすぐにその妖精へと通じる門を閉じるために世界を一つ潰すこともあるらしいけど……まあ、これは極めて稀と言えるね」
身近で分かりやすいのは、今、目の前に居る異国の侍の虎太郎や、俺の婚約者の自称エルフらしくないスフィアとその妹セリアの2人辺りがイメージしやすいだろうか?
要するに、その種族の中で一人出るかどうかの本当に稀な存在なのだ。
「世界を潰す?門ってのは、普通には閉じれないのか?」
「閉じられるよ。ただ、一度でも向こうからのアクセスがあれば、その門の残滓のようなものが残るから、妖精達からしたら、その時の面倒事の種を潰すために世界を消すことくらいはわけないよ」
妖精の力の影響力は大きい。
一度でも向こうから門を開けば、その力が僅かでも世界に残り、開いた場所は人間側からでもアクセスしやすくなる。
その時、妖精が害されることはほぼ有り得ないが……彼女たちのテリトリーを侵すようなことは向こうとしても本意ではないので、その場合は開いた世界を消すのが通例であった。
無関心な世界丸ごと消してでも、楽園を守りたいのだろう。
「ゾッとする話だが……そうすると、ダークエルフ達の場所はそれとは違うってことか?その場合だと、俺らはとうの昔に消されてるだろ?」
「そう、だから次の方法になるけど……これは、より一層の現実味のない、ある意味矛盾と言えるべき答え。人間側から何らかの方法でアクセスするって方法」
言ってみて何だけど、俺はこの答えも違うと思っているが、確認のためにエデルや族長の反応を見ながら虎太郎に説明を続ける。
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