第120話 ダークエルフの秘密

「さて、シリウス殿。ここに呼んだのは貴殿たちに感謝を伝えたいのと……もう一つ、こんな事を頼むのはお門違いなのかもしれないが、それでも頼みたいことがあるからだ」


家に関しての相談も終わり、一段落すると、そんな風に話を切り出すダークエルフの族長。


「その、頼みとは?」

「……ある人物に会って貰いたいのだ」


ん?


人に会う?


「えっと、それはどのような方で?」

「……エデル」

「はい、父上」


俺の質問に関する答えの前に、エデルは立ち上がると族長宅のこの部屋限定の強い結界を魔法で張って、盗聴を防ぐ構えを見せた。


内密な話にしても、この里と族長宅に張られている元々の結界はかなり強い。


にも関わらず、更に強固な魔法を使う所を見ると、余程他所には聞かれたくない話なのだろう……なんだか凄く面倒事のような気もするが、帰ると言うには少し遅かったかなぁ……


「えらく厳重ですね」

「我らダークエルフの里の最も大切な秘密に関わることなのでな」


秘密ねぇ……確かに里を見た瞬間に、違和感を少し覚えたのだけど、それは間違ってなかったようだ。


「俺も出た方がいいか?」

「虎太郎殿はシリウス殿の懐刀と見かける。そのまま一緒に聞いて貰って構わない」


虎太郎さんや、いつの間に俺の懐刀になったので?


まあ、信用はしてるし、間違ってはないけど。


「それで、そうまでして俺に会わせたいというのは一体どのようなお方なのでしょう?」

「……妖精族の女王だ」


……予想外の存在に不覚にも一瞬表情を消しそうになった。


妖精族――精霊とは異なる存在で、本来この世界には存在しない種族の名前だ。


彼女たちは、妖精界と呼ばれる場所に住んでおり、本来その世界にはこの世界からアクセスすることは出来ない。


……ただ、手段が無い訳でもないが。


「なるほど……この里は妖精界へと繋がる門の門番も兼ねているんですね」

「流石というべきか……妖精族のこともどうやら知ってるようだな」

「坊主、妖精ってのは、おとぎ話のあれか?」


流石の虎太郎も、妖精には会ったことがないのだろう、そんな曖昧な問いをしてくるが、まあ、間違ってはないかな。


「そう、あの妖精さん。まあ、人間が本来会える存在じゃないけど」

「だが、おとぎ話なんかだと人間を助けてたりするだろ?」

「まあ、そのおとぎ話に出てくる妖精さんは、大抵は精霊のことだけどね」


この世界でも、その手のファンタジー冒険譚などのおとぎ話は存在している。


だが、この世界の場合はそれがリアルな部分が多く、空想上の存在が少ないという違いもあった。


その中で、妖精に関しては神様や天使、悪魔といった種族と同じような空想の扱いを受けていたのだが、元を辿るとその書き手達が出会ったのは皆、精霊だったというのが真相らしい。


「ほー、んで、精霊と妖精って何が違うんだ?」

「精霊が自然界の力を司ってるのに対して、妖精はその上位互換というか、神様の使いみたいなものかな?」


最初のファンタジー要素の欠けらも無い前世で調べた時は、精霊は自然界に宿る力のようなもので、妖精がそれらが形となって姿を見せた存在という説もあったが、残念ながら英雄時代の前世と今世ではそういう訳でも無かった。


精霊がその世界の自然界の力を司ってるいるのに対して、妖精は全ての存在する世界の自然界を司ってる存在と言えた。


だからこそ、上位互換と言えるのだが、厳密には精霊には精霊王という存在がおり、その精霊王が全ての精霊の親と言えた。


故に、神様の子供では無いので、区分が違うのだが……まあ、その辺のややこしい話は省略させて貰います。


全て話すには神話を全て語る必要が出てくるし、ぶっちゃけ長くて面倒なので遠慮したい。


説明相手の虎太郎はとりあえず妖精と精霊は別物と納得したようだし今はいいだろう。


「しかし、会えないってのは何でなんだ?」

「この世界には居ないからだよ。彼女たち妖精は、この世界とは別の次元にある妖精界と呼ばれる世界に居るんだけど……人間側からのアクセスが難しい上に、向こうも基本的に人間には興味ないから、会えないってこと」


とはいえ、何事にも抜け道はある訳でして……それこそが、この里の秘密に繋がるのだろう。











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