第119話 お礼の行方
ラーニョセルペンティの討伐はスムーズに終わり、その後の後処理……石化したダークエルフの戦士たちの石化解除もすんなり終えることが出来た。
互いに生存を喜ぶダークエルフ達は、今夜は宴会だと何とも楽しそうに食材探しに出掛けたり、それなりに残っている復興作業を進めている中、俺はといえば、話があると言われて、虎太郎と共にダークエルフの族長とその息子のエデルに連れられて、族長宅にある応接間で向かい合って座っていた。
「改めて感謝を」
まず族長から出てきたのはそんな言葉であった。
エデルと共に深々と頭を下げられるが……何だかこうまで感謝されるのはこちらが申し訳なくなるので、遠慮して貰ってもいいでしょうか?
「出来ることをしたまで。お気になさらず」
「そうは行きません。あなた方が来て下さらねば我らはあの魔物に滅ぼされていた」
「父の言う通りだ。ありがとう」
「あー、俺は坊主のお供で護衛だし、倒したのは坊主だから感謝するならそっちにな」
虎太郎め、早々に面倒に感じで俺に押し付けて気やがった。
「そんなことないさ。虎太郎がラーニョセルペンティと剣を交えた時のあの雄々しさ……是非ともご家族にお見せしたかったなぁ。きっと奥さんも虎太郎に惚れ直すはずだし」
「坊主こそ、あの魔物のことを熟知して行動を呼んで、しかも見知らぬ魔法でトドメを刺す……きっと、嬢ちゃん達が見てたら坊主にもっと惚れ込んでただろうなぁ」
互いに笑いつつも、功績を押し付けようとしていると、向かいに座っている族長とエデルはそれに気づいて苦笑していた。
「存外、欲がないのですな」
「まあ、通りがかりのお節介だし、必要以上に持ち上げられるのはちょっとねぇ……」
そもそも、人助けは英雄時代の前世では義務として見かけた端からやっていたが、いつの間にか感謝されることの方が稀になってたし、俺自身あまり自分を持ち上げられるのは好かないというか、恥ずかしく思うので、軽くありがとうと言われる程度でも構わなかったりする。
「2人が謙虚なのは理解した。しかし、私たちダークエルフとしては、そのお節介に対して少なからず何かしら感謝の意を示したい」
望みは無いかと言わんばかりに、視線を向けられるが……別にお礼欲しさのお節介では無かったし、そもそも急に言われても思いつくものも特には……
「じゃあ、ラーニョセルペンティの死体の権利とかどう?」
貰う前提で考えていたものだが、念の為それを口にする。
これで引き下がってくれるなら、この話は終わり……
「それは当然の権利で我らの感謝の気持ちにはなり得ない」
……ですよねぇ。
変に真面目な部分のあるこの感じ……世界は違えど、種族としての性格は早々変わることはないようだ。
「んー、じゃあ、ここに別荘というか、家を作る許可とかでどうでしょう?」
「シリウス殿は移住されるのか?」
少し期待するような視線をエデルに向けられるが……残念ながらその期待には答えられそうになかった。
領地もあるし、俺も貴族としてこれから父様の跡を継いだ、レグルス兄様やラウル兄様、そしてその友好国の国王のヘルメス義兄様を陰ながら支えるつもりなので、すぐに隠居という訳にはいかなかった。
「運動にはこの辺は丁度いいし、里の近くなら安全だろうから、今度婚約者達も連れてきたいんだけど……その時の為に別荘というか寛げる家が欲しくて。それで、どうでしょう?」
「無論構わない。そちらの手配は我々で行っても?」
「その辺は要相談かな?里の近くで民家から少し離れた結界内の良さげな場所の御提供と、ダークエルフの人達が見てても違和感のないデザインにしたいから、ゆっくり話しましょう」
「承知した」
これで、泊まりになった時も安心だ。
余所者である俺たちの別荘の受け入れなので、少し心配したが……族長とエデル曰く、ラーニョセルペンティを倒して、里の人たちを癒した俺の好感度は比較的高いらしく、受け入れ拒否はないだろうとのこと。
そういえば、虎太郎も先程里に戻ってきた時に、ダークエルフのお嬢様方から、偉く熱烈な視線を受けていたような……まあ、本人はそれに気づいて困った顔をしていたが、得体の知れない子供の俺が倒したと言うよりも、虎太郎のような如何にもな凄腕が倒したと言われた方が納得もしやすいか。
ふむ、やはり虎太郎は雇って正解だったね。
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