第111話 純愛派
「ここだ、少し狭いが入ってくれ」
「お邪魔します」
「ほー、近づくまで建物の存在に気づかなかったぞ。大したもんだ」
エデルの案内で歩くことしばらく、幻惑系の魔法がかけられたその小屋は、小さめだが中々悪くない趣で、ダークエルフらしさに感心していた俺なのだが、虎太郎的にはむしろ、この小屋にかかっていた魔法に感心していたようであった。
まあ、その気持ちも分からなくはないけど。
俺も何となくでしか把握出来てなかったし、エデルの案内の途中でようやく完全に把握出来たので、かなりの高度な幻惑系の魔法が使われていると見て間違いない。
「ダークエルフ秘蔵の魔道具の力だ。とはいえ、シリウス殿と虎太郎殿なら見破れるレベルではあるのだろうが、大抵の冒険者なら騙せる」
現在地は魔物の楽園、エレクシア山脈で、ここまで来られるのはかなりレベルの高い冒険者なのだろうが、そんな人達でさえ欺ける魔道具というのは凄い。
多分、古代のオーバーテクノロジーの産物をダークエルフも受け継いでるのだろうが……何にしても、見つける気にならないと俺も虎太郎も気づかなかったかもしれないな。
「さて、じゃあシチューをご馳走様させてもらうよ」
空間魔法の亜空間から、先程取り分けたシチューの入った鍋と、器を取り出す。
虎太郎も食べるだろうから、エデルと虎太郎の2人分用意しておく。
俺?俺は流石にお腹いっぱいだし、遠慮しておくよ。
「……今のは、収納の魔道具ではないな。まさか空間魔法か?シリウス殿はとんでもなく凄腕の魔法使いなのだな」
「この坊主はとんでもないからな。とはいえ、気のいい奴だし仲良くしてやってくれ」
「そうだな、虎太郎殿のような強面と普通に話せる時点で心根は良さそうだ」
「抜かすぜ」
何だか早速意気投合し始めている、虎太郎とエデル。
ダークエルフは長命だし、エデルが何歳なのかは不明だが、見た目的には虎太郎と同い年くらいのように見える。
まあ、見た目年齢の話で、俺の予想では恐らくエデルの年齢は100歳前後ではないかと過去のダークエルフとの経験から大体の年齢を算出するが、長命な種族はその辺の価値基準がこちらと違うので気にする必要もないだろう。
「そう言えば、シリウス殿はエルフとハーフエルフ以外にも他にも婚約者が居るのか?」
「うん、まあね」
「坊主ほ七人ほど婚約者が居るからな。とはいえ、まだまだ増えそうだが」
「子孫繁栄か、いい事だが私は一人で十分だな。妻一筋だ」
「お?嫁が居るのか?」
予想はしていたが、やはりエデルは妻帯者だったようだ。
話からして、俺のように複数の妻を持つよりも、一人に全てを捧げたいという考えなのだろう。
気持ちは分からなくもないが、俺は婚約者全員を愛してるし今から一人に絞るなんて真似は無理そうだ。
「ああ、娘も居る。反抗期なのか最近はあまり話してくれないがな……」
「反抗期か……ウチの娘もそのうち来るかもな……」
「む?虎太郎殿も世帯を持ってるのか?」
「うん、未亡人の人を口説いてね。その連れ子と新しく出来た息子と今は4人で暮らしてるよ」
そうして改めて事実を言葉にすると、中々に虎太郎という人物の器の大きさを自覚してしまうが……まあ、男として負けてるのは仕方ない。
その分、きちんと婚約者皆を愛せれば問題ないだろう。
大人の男の魅力は欲しいけど、無理をする必要も無い。
背伸びするのが悪いことではないが、自然体で必要な時にカッコつければいいだろう。
「そうか……虎太郎殿、口説いた時のセリフは覚えているか?」
「まあな。察するにエデルもその手のことは覚えてるんだろ?」
「当たり前だ。一世一代の告白だからな」
「違いない 」
そこから、2人は互いに嫁の惚気と、家族自慢を始めるが、俺はそこには混じらずに2人の話に適度に相槌を打ちつつ、その話のついでに爆走で平らげていくシチューのお代わり係として頑張った。
というか、虎太郎はさっきもかなり食べてたのにまだ食うのか……エデルも見た目の割に物凄く食べるし、シチューのストックがドンドン減っていく。
これは、また作り直す必要が出てくるかもなぁ……。
何にしても、意気投合したようだし、余計な水を差す必要もないか。
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