第112話 需要があるらしい

「さて、シリウス殿。少し尋ねたいのだが……」


俺の作った、シチューのストックをほぼ全て平らげてから、互いの惚気も一段落したのか居住まいを正してそんなことを口にするエデル。


「うん、何かな?」

「魔法が得意なようだが……治癒系統の魔法に関して心当たりは?」

「それなりには」


自慢ではないが、これでも色んな怪我人や時にはほぼ死人のような状態の相手を治してきた俺なので、大抵の病や怪我には強い自覚はある。


まあ、一番頑張ってたのは自分の精神と体を保つための自己回復魔法だが……それさえ無意味になるくらい働きすぎた前世は、今思い返しても中々に悲惨だったと思う。


そんな訳で、割と治癒の魔法も得意なのだが……その俺の答えにどこか期待してるような表情を浮かべているエデルの様子が、少し気になった。


「そうか……出来ればでいいのだが、その力を貸しては貰えないだろうか?勿論、相応の礼はさせて貰う」

「うーん……力にはなりたいけど、状態が分からないと何とも言えないかな」

「ん?坊主でも無理とかあるのか?」

「まあ、流石に知りもしない患者を100%治せると断言するのは無理かな」


それに、ダークエルフはエルフ同様魔法にもそこそこ精通しているので、そんなダークエルフが治癒魔法の助力を求める……なんて、明らかに面倒事の匂いがしてくる。


別に巻き込まれても構わないが、あんまり遅くなると婚約者達に心配をかけるし、まずは話を聞くのが先だろう。


「そうだな、まず事の発端は2ヶ月ほど前のことだ。我らの里の近くに謎の魔物が住み着くようになってな。その魔物が住むようになってから、倒れる者が続出、しかも原因が分からず我らの治癒魔法では治せないという事態になった」


床に伏せているダークエルフの数は多く、皆苦しそうにしているが、ダークエルフの治癒魔法では治せないらしい。


「討伐とかは無理なのか?」

「ああ、我らダークエルフの魔法は無力化されて、近づいた者は全て石化されてしまった。見たことのない魔物だが……その魔物は自分でテリトリーを決めているのか、我らの里を直接襲うことはなく、今のところは何とか凌げているが、このままの状況というのは良くない。倒れた者、石化した者を救えないものかと我らも奔走しているが……今のところ、成果はない」


自力での討伐は難しい、かといって、ダークエルフの里は人里から離れたこの過酷な魔物楽園、エリクシリア山脈の奥地にあり、他種族の手を借りることも容易ではない。


それに、例え人里に来れても、無事に里までたどり着ける人間というのはそう多くない。


ダークエルフ側としても、そちらへの期待は難しく、自力解決も出来ずに困っていた所に、ノコノコとやって来たのが俺たちのようだ。


「魔物の討伐までは行かずとも、何とか同胞の容態を見ては貰えないだろうか?シリウス殿は空間魔法を使える上に、かなりの魔法の使い手と見る。もしかしたらシリウス殿なら……」

「うん、様子を見せて貰えるなら協力もするけど……俺達が里に入って大丈夫なの?」


俺の懸念の一つは、そんな非常時にすんなりと俺や虎太郎のような人間が里に入れるのかということにある。


変に説得に時間が掛かると帰るのが遅くなるし、無用にダークエルフと事を構えたくはないのだが……。


「その辺は私が何とかする。父……いや、族長には私が話をつけよう。だから頼む」

「……分かった。なら、案内を頼むよ」

「いいのか坊主?」


ダークエルフすら知らない、未知の魔物の存在に護衛として、また友として案じてくれる虎太郎。


とはいえ、俺の場合その未知の魔物や治癒の効かない現象はさして問題でもなく、帰宅のタイムリミットだけが問題であった。


幸いというか、何となくだが話を聞いてその魔物と倒れた者たちの原因くらいは、おおよその見当はつけられた。


「うん、実は話を聞いてもしかしたら……くらいの予想は出来てるから」

「ならいいが、ダメそうならすぐにトンズラするぞ」

「それでいいよ」

「すまない……感謝する」


さてさて、上手く里に入れるといいけど……。


というか、さらりと流したけど、エデルの父親が族長ってことはその息子がエデルなのか……何か思ったよりも大物だったんだな。


何にしてもやるだけやってみますか。












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