第110話 ダークエルフ

「シリウス殿と虎太郎殿だったな。ここには何用で参られたのだ?」


警戒を緩めた、ダークエルフのエデルと名乗る男性。


俺と虎太郎の様子から、敵対行動を取る相手ではなさそうだと判断したのか、先程の問い詰めようという感じから和らいできているように思えた。


その証拠に、深く被っていたフードを上げると端正な顔立ちの素顔を晒してそう尋ねてきた。


「素材を探しにね。虎太郎の奥さんと俺の婚約者のために魔物狩りだよ」

「婚約者……なるほど、そちらの虎太郎殿が護衛というからにはシリウス殿は貴族か何かの子供なのか。それにしては、このような場所に来れるほどの実力というのは不思議だが……」

「坊主は規格外だからな」


何とも不思議そうな表情をされるが、まあ、そこはあまり深く触れなくてもいい所なのでスルーしておく。


「それよりも、エデルさんだったよね。この辺がダークエルフの縄張りとは知らなかったとはいえ、勝手に立ち入ってごめんね」

「構わない。滅多にこの辺には人は来ないのだが……何にしても、我々ダークエルフを滅ぼしに来た存在でないのなら、それでいい」

「何だか引っかかる言い方だな。どこかと揉めてるのか?」

「少しな」


ふむ、エルフとの抗争以外にも何かあるのだろうか?


何にしても、向こうの警戒も解けたようで何よりだ。


「そうか。にしてもダークエルフってのに会うのは初めてだが、本当にエルフと違うんだな。坊主の嫁さんでエルフは見慣れてるが……あんたみたいな美形なら女も別嬪さんだろな」

「む?シリウス殿の婚約者にエルフが居るのか?」

「ああ、エルフの姉妹とハーフエルフが居るぜ。最も、3人とも変わり者だから、アンタが警戒するような関係を他のエルフ達とは築いてはないがな」


さらりと告げた言葉に、また警戒心が戻りかけたようだが、虎太郎の様子から全て事実だということが伝わったのか、ため息をついてエデルは言った。


「まあ、ハーフを忌み嫌う普通のエルフがハーフエルフと一緒に人間族のシリウス殿に嫁ぐわけもないか……何にしても、こんな所まで来る物好きを信じることにしよう」

「そりゃ、有難いが……いいのか?そんなあっさり」


虎太郎もエデルのことを割かし信じ初めてきているが、まだ警戒してる部分もあるようで、自然体ながらも軽く刀に手を添えているが、それを見てもエデルは態度を変えずに頷く。


「ああ、我らはあの頭でっかちとは違うからな……っと、そんなことを言うとシリウス殿は怒るだろうか?」

「んー、別に俺の婚約者達には当てはまらないしノーコメントで」

「だそうだ」

「面白い御仁だな。立ち話もなんだし、近くに小屋がある。そこで少し話していかないか?里に入るには族長の許可が居るので、少し面倒だ」


本音が半分、念の為の用心が半分かな?


まあ、ダークエルフの里にこのまま直接入るのはリスクも高いし、俺もエデル……というか、この世界のダークエルフに興味もあるので悪くない話だ。


虎太郎の確認の視線に軽く頷いてから、俺はエデルに返事をする。


「じゃあ、お言葉に甘えさせて貰うよ。さっき作ったシチューがあるけど、お昼がまだならご馳走様するよ」

「シチュー?見たところ何も持ってないようだが……というか、素材集めなのに何も持ってないとは、収納の魔道具などでも使ってるのだろうか?」


かなりのレア物だが、俺の空間魔法よりも遥かに身近に感じられるのが、所謂アイテムボックスのような、容量制限はあるけど、持ち運びに便利な空間魔法に類似した魔道具の存在だ。


まあ、それですらかなり高額だし、そもそも市販で出回ってないので、遺跡からの出土品……過去のオーバーテクノロジーの産物なので、今のところそれらがたまに出回る程度なのだが、エデルからすれば、俺と虎太郎はこんなベリーハードな場所に来る程の実力者なので持ってても不思議ではないと思ったのだろう。


実際、俺は数は多くないがその魔道具をいくつか持ってるし間違ってはないかな。


何故持ってるのか……これは、スフィアとの遺跡探索で見つけたものと、10歳の誕生日に母様から貰ったのだ。


何故、母様がそんな貴重なものを持ってたのかは不明だが、母様はたまにミステリアスな部分もあるので気にしない。


空間魔法があるから、要らないと思うかもしれないが、俺にとっては家族からのプレゼントというのはかなり嬉しいものなので、大切にしている。


そういう当たり前に貰える幸せ……いいね。


「まあ、そんな所だよ。じゃあ、案内よろしくね」

「ああ、すぐそこだがな」


そんな内心は悟らせずに、さらりと流して俺と虎太郎はエデルに着いていくことに。


さてさて、どんな話が聞けるのやら。


















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