第109話 黒い来客

「ん?」

「どうした坊主……って、誰かこっちに来てるな」


昼食も終わり、さて、そろそろ行こうかと思っていると、不意にこちらに向かってくる気配を感じて俺はそちらに視線を向ける。


まだそこそこ距離があるので目視は出来ないが……こんなベリーハードな場所に人とは珍しい事もあるものだ。


俺の感知から少し遅れて、虎太郎もその気配に気づいたのか、ゆらりと立ち上がって念の為俺よりも前に出る。


「どう思う?」

「余程の達人か変人なのは間違いないな。何にしても、坊主に勝てるようなおかしいレベルには思えないし、俺でも何とかなるだろ」


そんなことを話していると、その近づいてくる相手もこちらを把握したように少しだけその速度を落として近づいてくる。


俺達の居る周囲は、虎太郎と俺の狩りで一時的に魔物が寄り付かないレベルにはなっていたが、それでも多少は居る魔物を片手間に倒しながら待っていると、ようやく視認できる距離にその人物は近づいてきた。


フードを被った、背丈の高そうなその人物……体格からして、男性だろうか?


人間ではないな、恐らく。


この覚えのある魔力は、種族的には多分……


「……貴様達、見かけぬ顔だが、冒険者か?それにしては二人だけというのが気になるが」


虎太郎の間合いの外を見極めたように、少し離れた位置に止まるとそんなことを問いかけてくるその人物。


フードで顔は見えないが、警戒してるのはよく分かる。


「まあな。あんたもかなりの強者みたいだが、この辺には詳しいのか?」

「それなりにはな」


若干、ピリピリした空気が漂う中、俺はといえば、その人物をじーっと観察してから、分かりやすく警戒を解いてみせた。


「坊主?」

「……なんのつもりだ?」


向こうも、子供ながらにこの場に居る俺に、それなりには警戒していたので、その様子は分かりやすく伝わったのだろう、虎太郎と共に困惑気味な様子であった。


「こうした方が、話しやすいでしょ?それよりも、お兄さんダークエルフだよね?」


その質問に驚いたように反応する男性。


うむ、どうやら英雄時代に出会った記憶通り、目の前の人はダークエルフという種族のようだ。


ダークエルフ――それは、エルフとは異なる神によって創造されたエルフの对となる存在のこと。


……というと、どちらの種族からも怒られるが、そう説明するのが分かりやすい対称的な種族のことを指す。


白い肌のエルフと異なり、黒い肌のダークエルフは、エルフよりは比較的他種族にも好意的だが、唯一エルフに対してのみは、互いに互いを疎ましく思っているらしい。


人間以上に互いを敵視しており、歴史上互いを滅ぼす戦いが幾度となく行われているほどに犬猿の仲なのだが……俺の婚約者であるスフィアとセリア、そしてハーフエルフのソルテはその辺の事情には無関係なので、そこは別にいい。


スフィア本人ですら、『変わり者のエルフ』と自称してる程に、エルフという種族としては有り得ないほどにスフィアは人間にも友好的だ。


妹のセリアもそれは例外ではなく、そしてハーフエルフのソルテはそもそも人間と自分の父親のエルフ以外の他種族の存在自体を知らなかっただろうから、ダークエルフを敵視することもないだろう。


まあ、向こうにそれを求められるかは分からないが……この場を穏便に終わらせるに限るのは間違いない。


なので、俺は言葉を続ける。


「察するに、この近くにはダークエルフの隠れ里とかがあるじゃない?だとしたら、縄張りに侵入したみたいで申し訳なかったよ」

「坊主、こんな山奥に里なんかあるのか?」

「ダークエルフは、こういう過酷な環境の近くに居ることが多いからね」


前世と今世の知識での発言だが、その言葉にダークエルフの男は俺をしばらく見つめてからため息をついて、空気を緩めた。


「……どうやら、その様子だと我々を襲いに来たという輩でもなさそうだ。そちらの少年の言う通り、私はダークエルフのエデルと申す。貴殿らの名を聞いても?」

「俺はシリウスだよ」

「虎太郎だ。この坊主の友人兼護衛役さ」















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