第92話 虎太郎と領地

「おお!転移なんて魔法も使えるのか!凄いな、初めて見た!」


虎太郎の勧誘に成功したので、たらふく食べた虎太郎を連れて領地に転移魔法で飛ぶと、虎太郎はこの転移に驚いてはしゃいでいた。


まあ、あんまり使える人居ないしね。


「虎太郎、ここが俺の領地だよ」

「へー、いい所みたいだな」


物珍しそうにあっちこっちを見ては、俺の連れということで、サービスして貰う虎太郎。


コミュ力も高いのか、すんなりと領民たちに溶け込んでいた。


うむ、これなら問題はなさそうだな。


「坊主、人気者だな」


ウチの領地の名産である、白銀を貰って食べながらそんなことを言う虎太郎。


「そう?」

「領民たちの目が他のところと違うよな。本人が居ることを差し引いても、俺の回ってきた他のところとは段違いに慕われてる。聞こえないように悪口言うヤツらが居ないのが新鮮だ」


耳もいいのか、そう言われるが……まあ、そういった人がゼロではなくても、良い人が多いからね。


虎太郎の言葉に、先程までは警戒気味だったシャルティアも少しだけ得意げな顔をしていた。


なんというか、俺が褒められて嬉しいのだろう。


セシルも、心做しかドヤ顔気味であった。


「領主様!」

「お久しぶりでございます、領主様」


そんなことを思っていると、見覚えのある少女とその母親が話しかけてくる。


確か、前に俺を訪ねてきて領主館に来て、母親を助けて欲しいと願ってきた女の子と、その母親だったはず。


あれから大分経ってるけど、顔色も良さそうだし、普通に生活出来てるようで良かった。


「こんにちは、元気そうだね」

「はい、これも領主様のお陰です。本当にありがとうございました」


セシルとシャルティアを婚約者にした頃だったかな?


思えば遠くに来たものだ……


「坊主、坊主」


そんなことを思い出していると、小声で俺に声をかけて来る虎太郎。


「なに?」


何となく内緒話かと思い声を潜めると、虎太郎はチラリと母親の方を見てから尋ねてきた。


「こちらの奥方は、旦那さんは?」

「ん?確か亡くなってるって聞いたけど……」

「そうか……」


記憶を掘り返してみて、思い出すが、母娘二人で父親は亡くなってたと聞いたような気がするのでそう答えると虎太郎はその目にやる気を漲らせてその強面に親しみやすい笑顔を浮かべて母娘に声をかける。


「こんにちは、お嬢様方。俺は虎太郎。今日から領主様の元で働くことになったんだ。よろしくな」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


さり気なく俺の名前を出して、安心感を与えつつ、虎太郎は見事なコミュ力で母娘の心に入っていく。


というか……多分、母親の方が虎太郎の好みだったのだろうなぁ。


上手いこと娘さんに気に入られつつ、母親の方にアプローチをかける虎太郎。


……正直、めちゃくちゃ手馴れてそうな様子で、口説いているが、短い付き合いでもこんなに真剣な虎太郎は初めて見た気がする。


まあ、好みの女性を堕とすために先に本気を見ることになるとは思ってなかったけど……


しかもそれに満更でもなさそうな母親と、仲良くなれると思ったのか楽しげな娘という、上手いこと二人の心を掴むことに成功しているようであった。


「……シリウス様、あれ本当に雇うの?」


雇い主を放っておいて、口説き始めた虎太郎にセシルがあからさまに呆れた表情を浮かべて聞いてくる。


俺も正直、迷いそうになるが……短い付き合いながら、虎太郎という人物のことを考えると、遊びで女性に手を出すような性格ではなさそうなので、本気で母親との再婚を狙ってるだろう。


虎太郎がこの地で所帯を持つなら、益々働いてくれそうだし、何かあったらこの母親か娘さんに言えば虎太郎を動かしやすくなりそうなので俺はセシルの言葉に頷いておく。


「まあ、家族が出来れば、もう少し楽に使えそうだし」

「ですが、変に女性問題とかを抱え込んだりもしそうでは?」

「……大丈夫、シャルティアは確実に守備範囲外だから」

「お前もだろうが。というか、別にそれは悔しくないしな」

「……まあ、私達にはシリウス様が居るから。あんなのと比べる意味もないくらいにシリウス様は素敵」


そう言いながら抱きついてくるセシルと、同感とばかりに頷くシャルティア。


そうして、俺が二人に褒められて少しむず痒くなっている間に、虎太郎は順調に母娘の攻略を進めていたが……なんというか、傍目から見てもめちゃくちゃ上手く攻略している虎太郎に男として負けた気になるが、婚約者だけにカッコよく思われれば負けてもいいなかなぁと思ってしまうのであった。















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