第93話 両手に花
虎太郎は数日と経たずに領地に馴染み、そしてどんなコミュ力を発揮したのか、上手いこと理由をつけて母娘の家に住むようになったようだ。
俺への信頼もかなり役立ってそうだが、虎太郎という人間が受け入れやすかったのか、まだ攻略の途中のはずなのに、既に娘の方とは父娘のような気安さになっており、母親の方も虎太郎のことを意識しているような感じになっていたのには流石に驚いた。
前世はエロゲーの主人公だったのでは?
なんて、虎太郎への疑念もあったが、何にしても問題がないならそれに越したことはない。
何かあっても、虎太郎は無意味に人を傷つけるような性格では無いだろうし、このまま結婚して家族を作ってくれた方が俺もしても都合がいいので密かに虎太郎を応援しておく。
「わぁ……いい街ですね」
「そうですね」
そんなリア充な虎太郎はさておき、本日の俺はフィリアとシスタシアからお忍びで連れてきたフローラを連れて、前に手に入れた温泉のある領地へと来ていた。
アンデッドの被害から、大分復興してきており、俺の指示で変わってきた街並みだが、住人たちは俺の領地の人達と同じように温かい人達が多いように感じる。
視察という名目で、未来の正妻のフィリアと、気分転換にフローラも連れてきたが、フローラの車椅子を俺が押しつつ、フィリアと並んで歩いているというのが客観的に見た今の俺たちの姿だろう。
シャルティアとセシル、ソルテは所用でお留守番だが、こちらの領地にも専用の家臣が居るので、影から俺たちを守っているが……まあ、何かあっても2人は俺が絶対に守るので特に問題はないだろう。
「すみません、シリウス様。押してもらって……」
「気にしないでいいよ。これも婚約者の特権だしね」
フローラは毎回、デートの時に俺が車椅子を押すのを少し申し訳なく、でも嬉しそうにしている。
俺もフローラをエスコート出来てるようでこうしているのは嫌いではなかった。
ちなみに、そんなフローラが羨ましいのか、フィリアは俺と腕を組んでおり、まさに両手に花というのが相応しい表現だろう。
「こちらの方は初めて来ましたが、あちらの領地から離れてるのですよね?」
「うん、まあね」
シスタシアに行く途中で、アンデッドの襲撃を受けていたこの街の近くにいて、偶然の結果で俺の領地となったこの街だが、フローラは勿論、実はフィリアも来るのが初めてになるかな?
忙しくて、時間が中々取れなかったというのも理由の一つだが、一番は婚約者達にはある程度回復した頃に見せた方が、余計な心配をさせることもないだろという気持ちからになる。
俺の優しい婚約者達に無用な心配はさせたくないしね。
「温泉街ですか……その、シリウス様」
「何かな?」
「結婚したら、その……一緒に入りたいのですが、よろしいですか?」
上目遣いのフィリアの問いかけにドキリとするが、なんとか笑みを浮かべて頷く。
「勿論、それぞれと二人きりもいいけど、皆でも入ろうか」
「……はい」
「が、頑張ります!」
顔を赤くしながら、頷くフィリアと、同じく恥じらいながらもやる気十分なフローラ。
俺の婚約者の中で清楚系の筆頭の二人だが、他の婚約者の影響か最近はグイグイ来ようと努力しているのが微笑ましい。
まあ、その筆頭になっているのはセシルとセリア、そして意外にもソルテであった。
セシルとセリアは言うまでもなく、あの二人は出会った頃からグイグイ来るのだが、ソルテの場合はシャルティアとは別の意味で俺が放っておけないのと、雛鳥のように俺を純粋に慕っているからか、思いもよらないくらいに積極的なことが多いからだろう。
添い寝のための夜這いなんかが、それに当てはまる。
とはいえ、ソルテはまだ完全に心を癒した訳ではなく、悪夢を見る時もあるので、それくらいはフォローして当然といえた。
「私達も、早く大人の女性になって、シリウス様と暮らせるようにします」
「ですね、頑張ります」
「楽しみにしてるよ」
やる気満々な婚約者二人に、俺も負けじと大人の男になって惚れさせないとなと思えるのは、きっと本当に好きだからだろう。
何にしても、他の婚約者達のように二人とも早く一緒に暮らしたいものだ。
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