第54話 車椅子
フィリアの優しさに癒されて寝たので、翌日には体力は回復していた。
そんな俺たちは朝食を終えてから、セシルとシャルティアも連れてフローラの部屋へと訪れていた。
「フローラ、体調は大丈夫そう?」
「はい、シリウス様のお陰です」
ニッコリとベッドの上で微笑むフローラ。
久しぶりにしっかりと睡眠や食事が出来たようで良かった。
「それで、そちらの方々がシリウス様の婚約者さん達ですか?」
「うん、正妻のフィリアと側室のセシルとシャルティアだよ」
そう紹介すると、フィリア達が挨拶をする。
貴族の令嬢として粛々と挨拶するフィリア、いつも通りに短く名乗るセシル、そして、やや緊張気味のシャルティア。
そんな3人からの挨拶にフローラも答えるが、その後は仲良さそうに話し始めたので、俺は退席することにした。
元々、フローラの様子を見たかったのだが、とりあえず大丈夫そうなので一安心する。
厄集めの呪いの体質から、最低でも週一で治療……まあ、キスが必要なのだが、その辺はフローラにも説明できたし、後はゆっくりと関係を深めればいいだろう。
「ん?やあ、シリウス。フローラとの話しは終わったのかな?」
そんなことを思って歩いていると、ヘルメス義兄様とレグルス兄様が歩いており、声をかけられた。
「ええ、今は婚約者だけで楽しそうに話してますよ」
「それなら良かった。フローラはそちらに嫁いでも馴染めそうだね」
「シリウスはどこかに出掛けるのかい?」
「ええ、少し用事がありまして」
昨日は見つけることが出来なかったが、この国にある事は聞いてるのでとある物を入手したかったのだ。
「じゃあ、その前に一度父上に報告に行かないかな?僕とヘルメスも父上に用事があって頼みたかったんだ」
「いいですよ」
どのみち、フローラとの婚約の報告はする予定だったので、頷いて2人と共に転移魔法で父様の元に向かうと、父様はどこか苦笑気味に言った。
「まさか、着いて早々婚約者を増やすとはな……だが、友好関係の強化という点では、フローラ姫との婚約は丁度いい。私たちの血が向こうに流れたように、向こうの血がこちらにも流れるからな」
ローザ姉様がシスタシア王国へと嫁ぎ、フローラがスレインド王国へと嫁ぐ。
なるほど、確かにどっちも姫様が嫁いでバランスは取れてるのか?
最も、フローラは正妻ではないが、その辺は上手く貴族を丸め込むと、ヘルメス義兄様は言っていた。
元々、フローラは庶民との隠し子のような存在で、城でも異質な存在だったそうだが、父親である国王が亡くなり、ヘルメス義兄様が政権を握ってからは、フローラを疎むような連中は意図的に黙らせたそうだ。
フローラの義母にあたる側室連中も、強制的に隠居させられたそうだ。
それで、少しでも妹が過ごしやすいようにしたのだから、ヘルメス義兄様ってばいいお兄さんだ。
生憎と俺には妹は居ないが、居たらこういうカッコイイ兄になりたいと心底思う。
「しかし、4人か……やっぱり、ラウルやレグルスも増やす必要があるかもしれないな」
「いえいえ、要りませんよ」
「俺もだな!父上が増やすなら考えよう!」
「私は妻以外を娶る気など毛頭ない」
ラウル兄様の言葉にキッパリと言い切る父様。
なんか、マジでカッコイイ……婚約者が既に4人居る俺が言っても効力が薄そうだが、真似てみようかな?
「まあ、その辺は上手く流すしかないでしょうね。それよりお義父さま。フローラの結婚式に関してなのですが……」
「足が不自由ということだったな……ふむ、どうしたものか……」
フローラもフィリア達と同じ時に結婚式を上げたいのだが、歩けないのでどうしたものかと思案げな3人。
ラウル兄様?
特に気にせずにお茶を飲んでお菓子を食べてるよ。
「当日は専用の席を用意……移動はシリウスか使用人に任せるという感じか?」
「参列する貴族が何か言い出しかねませんね……正妻より扱いがいいとか、アホなこと言うかもですし」
自分の結婚式なのに、アホ貴族に考慮するとかダルいなぁ……。
そんなことを思いつつも、そういえば、この世界では車椅子を見たことがないと今更ながら思い出していた。
普通、病気や怪我で歩けないなら、寝かしておくので、特に編み出すことも無かったのだろう。
「では、こんな物はどうでしょう?」
俺は、さり気なく土魔法で車椅子を作成すると、プレゼンでもするように車椅子を勧めてみた。
すると、思ったより好意的な反応が返ってきたので、その意見が採用され、すぐに城の職人によって作られることになった。
なお、これの販売に関しては、母様とヘルメス義兄様の話し合いがあったそうだが、時期を見て販売するそうだ。
まあ、俺はフローラが自由に動けるなら問題はないし、フローラの車椅子を押す役目というのも、他の婚約者には無い点なので新鮮で楽しみでもあった。
それにしても、フローラのウェディングドレス姿かぁ……他の婚約者に負けず劣らず楽しみだと心底思いつつも、色々準備も頑張らないと、少し先の楽しみに思いを馳せるのだった。
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