第55話 小豆
兄様達の話が終わってから、俺はまた1人でシスタシア王国の王都を歩いていた。
あの食材がどこかにあるはず……
そう思って、回ることしばらく、俺はようやくそれを見つけることが出来た。
目立たないように隅に置かれてる商品。
それは、間違いなく俺が探し求めていた品だ。
「うん?いらっしゃい、何か買っていくかい?」
「おじさん、その赤褐色のやつは……」
「ああ、見たことないか?小豆って豆さ」
やはりあった!
そう、俺が探していたのは小豆だ。
餅が無いのが痛いが、色々と料理にも使えるし、欲しかったのだ。
我が故郷のスレインド王国には無くて、シスタシア王国ならあると聞いていたが……まさか、こんな店の隅にポツンと置いてあるとはなぁ……
「買ってくかい?とはいえ、あまり好まれてないそうだが」
「そうなの?」
「前に買った貴族さんが、食べて体にブツブツが出来たり、息が苦しくなったりして、嫌煙されてるらしい」
「あー、多分アレルギーだね」
確か、大豆アレルギーとか言ったかな?
それに小豆も含まれてたような気がする。
「アレルギー?なんだそりゃ」
「まあ、簡単に言うと、特定の人だけに出る毒みたいなものかな。他の人が食べても害はないけど、アレルギーを持ってる人が食べると毒みたいに効果を発揮するんだ」
アレルギーは甘え!
とか、アホみたいなことを言ってた爺さんが最初の前世の職場では居たが、一度アレルギーの症状を見ないと多分理解出来ないんだろうねぇ。
まあ、そのために苦しい思いをする人は可哀想だけど、アレルギーの説明って難しいからね。
お客さんの中に、アレルギー持ちも何人か居て、大変さはよく分かってるつもりだ。
小麦アレルギーとかで好きなのにパンとかケーキを食べれないとか聞くと、本当に可哀想になる。
前世なら、一応治療もできるけど、この世界ではアレルギーは認知されてないのだろう。
まあ、そりゃ、大勢が食べれてごく一部が食べれないというのは、あまり信じられないだろう。
こればかりはなってみないとね。
「……毒か、危険はないのか?」
「普通ならね。まあ、こればっかりは体質的なものだから、普通に食べれる人なら問題ないよ」
「そうなのか……坊主は随分と詳しいんだな」
「知り合いにそんな人が居たからね」
感心したような表情の店主だが、まあ、アレルギーなんて話してもあんまり大勢には理解されないだろう。
特に、貴族でそうなった人が居るのなら、印象はそう易々と覆らない。
この世界でも、なんとか医学が進歩することを祈りつつも、その点においては魔法があるのである程度対処も出来るから前世よりいいのかな?などと考えつつも俺は店主に聞いた。
「おじさん、小豆ってここにあるのだけ?」
「いや、裏にもいくつかあるな」
「じゃあ、あるだけ頂戴」
「助かるが……坊主、金はあるのか?」
「うん、はい」
ポンと渡すと驚きつつも小豆を出してくる店主。
「あんまり買われないし、買ってくれて助かるから、少し割り引くな」
「本当に?ありがとう」
まあ、値引きして貰えるならその好意に甘えよう。
「他には無いよね?」
「すまんな、これだけしか今はない。作ってるところに行けばあるが……」
「場所とか教えて貰える?」
「ああ、構わんぞ。でも、そんなに必要なのか?」
「まあね」
不思議そうな店主に、生産元を教えて貰ってから、店を離れていく。
途中で、誰も居ない路地裏にて、空間魔法で大量の小豆をしまいこむが、あまり大勢の前で空間魔法は見せたくないので、仕方ない。
そうして、俺は目的の小豆を手に入れた訳だが……やっぱり、もち米もある所探したいな。
おはぎとか、美味しそうだし……そういえば、おはぎに針が入ってるアニメがあったっけ、などと思い出すが、アニメかぁ……流石に作れないなぁ。
アニメーターとかの育成には時間かかりそうだし、俺は個人で楽しめる趣味だけに特化するべきだろう。
決して、ぼっち色が強いからではないよ?
知らない知識の再現って、どうやっても時間がかかるし、実際に知識がないと出来ないからね。
何より、映像媒体がないのが致命的か。
テレビとかネットとか、そういうのが普及しだすまでには長い年月が必要だろうし、魔法が一般的なこの世界では化学の進歩には更に時間がかかるだろう。
まあ、魔法方面で色々と進化するかもだが、魔力で映像を残す技術はまだまだ実用化には程遠い位置にあるのは明白だった。
魔法も科学も発展した世界があれば、凄そうだけど、それはそれで大変そうな世界だなぁと思うし、俺には今世のような世界があってるのかもしれない。
うん、やっぱり今世最高だな。
そう思ってほくそ笑みつつも、俺は夕飯の準備の時間までのんびりと観光を楽しむのだった。
婚約者連れて回るのも楽しみだけど、おひとり様の時間も悪くないね。
リンゴは特に美味しかったので、大量にストックしておいたが、アップルパイとかもいいかもしれない。
まあ、今夜は俺が食べたくて作ったレシピ中心になるだろうけど、フローラやローザ姉様達に少しでも美味しいと思って貰えるように頑張るとしますか。
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