第53話 正妻の貫禄

「なるほど……分かりました。では明日ご挨拶しますね」


土下座覚悟で、フィリアにフローラのことを報告すると、そうすんなりと納得して頂けた。


「ですが、シリウス様……その前にお願いがあります」

「お願い?」

「こちらに来てください」


そう言われてベッドに座ると、フィリアはゆっくりと俺を自分の膝へと招く。


そう、膝枕だ。


「あの……フィリア?」


嬉しいけど、突然のことに驚く。


そんな俺にフィリアは優しく声をかけてくる。


「少しお顔の色が悪いです。きっと、フローラ様のために無茶をなさったんですよね?」


ギクリとするのを抑えるので必死だった。


顔色が悪いって……フローラやヘルメス義兄様には気付かれてないはずなのに……


「……気づいてたの?」

「お部屋に入ってきた時から、少し様子が変でしたので」

「はぁ……フィリアには敵わないな」

「私は、シリウス様の婚約者ですから」


そう言いながら頭を撫でてくるフィリア。


その優しい手に思わず俺は意識を委ねてしまう。


そういえば、初めてかもしれない。


こんな風に誰かに心配されたのは。


例えば、最初の前世。


どれだけ辛かろうと、誰にも言えなかったし、言っても無駄な環境だった。


逃げることも出来なかったし、辛くても仕事は無くならなくて必死だった。


次の前世だって、英雄なんて呼ばれていたが、結局体良く使われただけ。


俺の方が力があるんだし逃げればいいって、思われるかもしれないが、それが出来たなら苦労はない。


出来なかったからこそ――いや、無理だったからこそ、過労で死んだのだろう。


思えば、これまで心配なんてことをしてくれる人は1人も居なかった。


やって当たり前、出来て当然。


出来なきゃ罰があったのは、最初の前世だったかな?


子供の頃から染み付いたものはそう易々とは消えたりしない。


2度目の転生だろうと、それは例外ではないのだろう。


だからこそ――今、こうして俺を優しく包み込んでいるフィリアの温かさには抗えなかった。


「……ねぇ、フィリア」

「はい」

「今夜は一緒に寝てくれる?」

「勿論です。今夜は私がシリウス様を独り占めしちゃいますから」


セシルやシャルティアを含めたメンバーで寝たことはシスタシアへの道中で何度かあった。


だけど、こうして2人きりで寝るのは初めてかもしれない。


セシルとシャルティアはいつの間にか空気を読んだのか部屋を出ていた。


フローラの件も納得してたようだし、説明のために残りの少ない体力を使わずに済むのは助かるが、2人ともまた別々で添い寝する必要があるかもしれない。


婚約者が3人……いや、フローラを入れて4人になったけど、自由に行動した結果増えたのは仕方ないだろう。


一緒の布団に入ると、フィリアは俺を優しく抱きしめる。


情けない姿ばっかりみせてるなぁ……もっとカッコイイ姿も見せたいのに、フィリアの前だとこうして甘える側にもなってしまう。


彼女の優しさだろうか?


こういう娘だから、俺も惚れてしまったのだろう。


「シリウス様、人助けをするなとは言いませんが、ご自身のことも案じて下さい。シリウス様が優しいのは分かってますが、それでも、私は……私達は、シリウス様の安全こそ何より大切なんです」


自身の身を案じろか……そんなこと言われたの初めてかも。


そっか……自分を大切にしてもいいのか。


自由に生きる!なんて、言いながら、そういう気持ちは薄かったかもしれない。


何にも縛られずに、俺がやりたい事をして、したいように生きる――なら、そこに心配してくれる人達のために、多少自分を気づかうことも考えないとな。


フィリアは、そんなことを俺に気付かせてくれる。


やっぱりまだまだダメだなぁ……


「ありがとう、フィリア」

「当然のことですよ」

「じゃあ、そんなフィリアに頼んでもいいかな」

「はい、何でもどうぞ」

「子守り歌って、訳じゃないけど、たまに口ずさむ歌を歌って欲しいかな」


聞いたことがない曲なのだが、膝枕をしてもらうとその曲をフィリアは子守り歌代わりに口ずさんでくれる。


なので、お願いすると、フィリアはくすりと笑って小さく歌を歌う。


その歌を聞きながら、俺の意識は闇へと落ちていくが、不思議と気分は良かった。


なんというか……母性みたいなものを感じてしまう。


この年で母性というスキルが芽生えてそうなフィリアはマジで凄いと思うが、こうして甘えた分、カッコイイところも見せないとね。


まあ、とりあえずは明日フィリア達がフローラと仲良くできるといいけど……フィリアもフローラも良い子だし、きっと大丈夫だろうと俺は勝手に思っている。


そういう娘達だからこそ、好きになったんだしね。


その日の眠りは、普段より心地よく、良質な睡眠になったが……結婚したら、これが待ってると思うと色々と頑張れる気がした。


可愛い婚約者のために、俺は俺で出来ることをしないとね。


そうして、可愛い子守り歌を聞きながら、俺はぐっすりと朝まで眠って体力と魔力を回復させるのだった。


にしても、フィリアさん正妻の貫禄がついてきた気がするのは俺の気のせいだろうか?




























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