閑話 セシルの癒し

生まれた時から、私は人とは違うものを2つ持っていた。


1つは、片目だけ瞳の色が金色だということ。


2つ目は、滅多に使い手の居ない闇魔法の使い手ということ。


私の左目の金色が、人々には異質に見えるらしい。


片目だけ色が違う。


ただ、それだけの理由で私は家族にも周りの人達にも嫌われていた。


それでも、1人だけ私にも味方がいたのだ。


『きっと、この金色の瞳はお母さんからの贈り物だよ』


そう微笑んでくれた父。


母が亡くなってから、私のことを支えてくれた父だったが、ある日にそれは豹変してしまった。


それは、私が初めて魔法を使った時のこと。


嬉しくて、それが闇魔法だと知らないまま、私は父に魔法を見せてしまった。


それを見た瞬間、優しかった父は消えてしまった。


父は『お前のせいか!』と、激怒して、私の首を絞めた。


近くの松明に火を灯すと、その炎で私の左目を徹底的に焼いたのだ。


止めてと何度も叫んだ。


でも、父は憎しみの篭った瞳を私に向けるばかり。


苦しくて、辛くて、私はよく分からないうちに魔法を使ってしまった。


どんな魔法だったのか、今でも思い出せない。


でも、それが父の命を奪ったのは確実だった。


気絶をしていて、朝に目が覚めると、左目は見えなくなっていた。


そして、うっすらと見える右目に写るのは、ぐったりとして動かない父の姿。


怖かったが、何度か呼びかけた。


でも、それに答えることはなかった。


そう、私が父の命を奪ったのだ。


奪ってしまったのだと分かってしまった。


それが分かった瞬間、思わずその場で吐いてしまった。


胃の中が空っぽになるまで。


様子が変だと、気づいた村人が、見に来てくれたが、その時にこの状況を見てその人は悟ってしまったのだろう。


何かがあって、私を殺そうとした父が殺されたのだと。


私は、これからどうなるか疼く左目を抑えて蹲っていたが、その人は懐から薬草の塗り薬を出すと私の左目に塗ってから、綺麗な布で左目を覆ったのだ。


そして、幾らかのお金と冒険者ギルドへの紹介状とギルマスへの手紙を渡してから、私に言った。


『この村から出て、近くの街の冒険者ギルドへ行きなさい。これを見せれば、ギルマスが君を保護してくれるはずだから』


どうしてそこまでしてくれるのかと、聞くと、その人は言った。


『君のお母さんを殺したのは、私の妻だったんだ。だけど、親友の私をアイツは……君のお父さんは憎めなかった。だから、妻と闇魔法を憎むようになった。君が闇魔法を使ったのを見て、仇だと思ったのだろうね』


父は、随分前から壊れていたらしい。


それと、父の親友だというこの人は、私が闇魔法を練習してるところを目撃していたそうだ。


だから、こうして来てくれたと言っていた。


それからは、無我夢中だったが、そこの冒険者ギルドのギルドマスターがいい人で、私は早くに冒険者となって身を立てることが出来るようになった。


だけど、あの時の恐怖とこの左目が傷が消えることはなく、むしろ、私はこの左目の傷が嫌で堪らなかった。


愛していたはずの母の瞳を焼いた父。


何故闇魔法を見せたら瞳を焼いたのか……それでは、父が愛したはずの人を消したようで凄く嫌だったのだ。


私が憎くて仕方なかったのだろうか。


でも、こんなこと誰にも話せない。


だから、左目を隠して生きていく。


冒険者をしてると、左目について聞かれるが、変な同情とかは要らないので、傷跡を見せることにしていた。


ただ、大抵は皆気持ち悪がったが、今一緒のパーティーのシャルティアだけは、この目を見ても何も言わずに頭を撫でるだけだった。


『気にするな、お前にも運命の相手が居るだろうからな』


夢見がちな乙女思考のシャルティアの言葉ではないが、昔同じパーティーで組んだ先輩の冒険者がそんなことを言っていた。


居るわけないと、そう思っていたのだが、それは予想外の所から現れたのだ。


ある時、その街の領主が現在の王国の第3王子になるという話を耳にした。


最初は気にして無かったが、ある時に私はそれを見た。


ブラウンの髪と、幼さが色濃い少女のような少年の姿を。


その人が噂の第3王子だと知ったのはそれからすぐのこと。


領内の不正を全て正し、時には魔法の力で全てを解決するその人は、誰にでも等しく接していた。


その人のことが何となく気になってはいたが、会う機会もないだろうと、思っていた時にサンダータイガーが現れたと冒険者ギルドで噂になっていた。


「あ、皆さんいらしたんですね。ギルマスがお呼びですよ」


このタイミングでの呼び出し。


間違いなく、サンダータイガーのことだろう。


それでも、話を聞かないといけなくて部屋に入った時に違和感を覚えた。


そして、その後のこと。


透明化していたペガサスと小鳥を頭に乗せた少年が唐突に現れたのだ。


その少年は、第3王子のシリウス様。


この地では既に領主扱いされており、領民から慕われているその人はペガサスを従えてサンダータイガーを倒しに行くとのこと。


普通に考えれば無謀でしかない。


だが、シャルティアと私は彼が高度な魔法を使うところを見ていた。


更に、聖獣であるペガサスを従えてるのだ。


不思議と勝算がある気がした。


まあ、シャルティアは子供を戦わせるのを嫌がったが、守ればいいという言葉で上手く丸め込めた。


ちょろいね。


準備の買い物でその人と話してみて、親しみやすい人だと思ったが、無表情な私と話してて楽しいのか分からなかった。


だから、癖でシャルティアを挟んでしまったが、彼は構わずに話しかけてくれた。


その時に、左目に関しての話になり、私はいつも通り眼帯をずらして醜い焼け跡を見せた。


少しは歪むかと思っていたその人の顔は、特に変わらずに何かを考えるようにそっと左目に手を当ててきた。


そして、『治せるけどどうする?』と聞いてくれたのだ。


そんな馬鹿なとは思ったが、領主様は光の治癒魔法を使えると聞いたことがある。


私とは違う、光魔法。


同時に、この父の罪を消せるならと私は彼に頼んでしまった。


すると、彼はすぐに了承して光の治癒魔法で私の左目を見えるようにしてくれたのだ。


傷跡も残ってないそれを、久しぶりに感じた左目からの光が、真っ先にとらえたのはその人だった。


その人は、私の金色の瞳を見て綺麗だと言ってくれた。


生まれて初めて、この目を肯定してくれたその人が私には救いの女神のよにも見えて思わず笑っていた。


多分、これが彼……シリウス様に私が恋した瞬間だったのだろうと後に思う。









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