第28話 道中の一幕

準備が終わると、ギルドカードを受け取ってそのまま俺たちはサンダータイガーが目撃された場所へと向かうのだった。


ただ、気になることが少し……


「セシル」

「……なに?」

「……近くない?」


馬車での移動だが、馬より早い俺の召喚獣の白熊に馬車を引いて貰ってるのだが、その馬車の中でセシルが俺の隣にピッタリと張り付いてきて離れなかった。


ちなみに、この馬車の中には俺とシャルティアとセシルの3人のみで、残りの2人であるアインとクレイは御者台に座っていた。


まあ、貴族の俺と一緒が居心地悪いのだろう。


それはいいんだが、セシルがさっきから俺に引っ付いて離れない件はどういうことだろう?


ちなみに、シャルティアは向かいに座ってチラチラと俺を見ていたが……俺何かしたのだろうか?


うーん……


「……シリウス様」

「ん?何かな?」

「……治療のお礼したい」


呼び方が領主様から変わったが……お礼ねぇ。


別に、治癒魔法自体慣れてるから特にお礼は必要ないのだが……


「うーん、じゃあ、考えておくよ」

「……うん、身体で払うのもあり」

「……それは、もう数年先の話かな」


……冗談だよね?


俺が成人するのは7年後。


その頃にはセシルは丁度20歳になる。


つまり、セシルは今13歳。


年齢的にはそう離れてないが……こうして、誘ってるように思える抱きつき方に関しては俺の気のせいだろうか?


ほのかに香る甘い匂いと、少し膨らんでる胸の感触にドキドキするのは、俺の女性への耐性が低いからだろう。


うん、向こうは子供の相手をしてるから無防備なのであって、俺に特別な情などないはず。


だから、セシルの行動はひとまず置いておくとして……


「シャルティア」

「はい」

「どうかしたの?」


俺をチラチラ見ては、落ち着きのない様子の彼女にそう聞くと、シャルティアは何でもないとばかりの表情で答えた。


「いえ、何でもありません領主様」

「そう?」

「……シャルティアも素直になるべき」

「な、何の話だ?」

「……子供をそういう対象として見るのはダメとか、本当に待ち人なのかとか真面目に考えすぎ。チャンスを逃すと行き遅れる」

「やかましいわ!」


いつも通りそうで、何よりだ。


「……そういえば、シリウス様のギルドランクは?」

「確か、Cランクだったはずだよ」


冒険者にはギルドのランクがあり、一番下のFランクから、最高クラスのSランクまで分かれており、実力や功績によってランクが上がっていく仕組みだ。


ギルドに入りたては、大抵一番下ののFランクなのだが、特例である今回はある程度ギルドからの補助が受けやすいCランクになったと見るべきだろう。


「入ってすぐにCランクは凄いですね。確かに、セシルは紹介状ありでEランクだったはず」

「……私は、年齢的なものもあったから」


どうやら、セシルも年齢制限より下の特例でギルドに入ったようだ。


まあ、現在Bランクなのだから、当然と言えば当然かもしれないが。


「……ところで、シリウス様は婚約者がいるの?」

「まあね」

「……側室さんとかは?」

「取らないとダメって言われてるけど、まだ候補すら居なくてね」

「……なら、チャンスはあるかも」


何やら頷くセシル。


まあ、本当はセシルとかシャルティアみたいな女性が側室なら良さそうなんだけどね。


接してて楽しいし、好感が持てる。


何より、それぞれに魅力があるし、身分差があっても偏見とか持たずにフィリアと仲良く出来そうだし……まあ、向こうは俺を子供しか思ってないだろうから、無理強いは良くないか。


まあ、人によっては俺との結婚を玉の輿と喜ぶ人もいるのだろうが、2人がそういうタイプには見えないし、何よりそういう人はウチの領地には居ないと俺としては思っている。


視察してみた感じの話だけどね。


皆、気の良い人達ばかりだし。


「あれ?この子も領主様のですか?」


ふと、そんなことを聞いてくるシャルティア。


見れば、ユニコーンのナイトがシャルティアの膝の上に乗っていた。


「……さっきまで、居なかった」

「いつの間にか膝の上に居たのですが……」

「懐いてるみたいだね」


ユニコーンは清らかな乙女の前にだけ姿を見せる。


つまり、2人とも清らかな乙女……うん、考えるのはよそう。


経験の有無は人それぞれだし、俺としては貞操観念が強いのはいい事だと思う。


また小さくなって膝の上を占領してるペガサスのクイーンと頭の上のフェニックスのフレイアちゃん。


場所を取られたので、シャルティアの膝の上なのだろうが、その愛らしさに表情を緩ませるシャルティアはギャップもあり可愛く感じた。


「……シリウス様、あの子もしかして……」

「うーん、それはまた後で教えるよ」


どうやら、何かに気づいたらしいセシル。


本当に教えるかはさておき、2人の前にナイトが姿を見せたということは、2人は安心できるということだろう。


それなら、今後も仲良くできるかもしれない。


ただ、前の御者台にいる2人の前には出てこないことから、この2人にのみ心を開いたと見るべきだろう。


まあ、ただ前の2人が経験者なだけかもしれないけど、ナイト基準の合格点は高いのだ。














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