第15話 アイスと空間魔法

レシア姉様の結婚式は豪華なもので、花嫁姿のレシア姉様は凄く綺麗だった。


一緒に参列して貰ったフィリアも、女の子らしくウェディングドレスに見蕩れており、可愛らしかったというのも良かった。


そんなこんなで、レシア姉様は侯爵家に嫁いでいき、慌ただしかった日々も少し落ち着きを見せた頃、俺はとあるお菓子の開発に熱を注いでいた。


まあ、本当に熱を注いだら溶けるお菓子なんだけどね。


冷やして固まらせるそのお菓子は、きっと女の子なら誰もが大好きなあのお菓子。


それを持って、俺はフィリアのいるアスタルテ伯爵家へと向かっていた。


アスタルテ伯爵領は、比較的王都に近いとはいえ、それでも馬車でも移動でかなり時間がかかる。


フィリアのためなら、その程度の時間気にしないが、俺にはとっておきの魔法があるので使わない手はない。


そう、転移魔法だ。


正確には、空間魔法の転移なのだが、そもそも空間魔法とは何か?


それは、転移から始まり、例えばとある別空間に物を閉まっておいたり、相手と自分の位置を入れ替えたりと、空間を支配する魔法のことをそう呼ぶ。


まあ、戦闘に使ったことはほとんどないけど。


俺が良く使うのは転移魔法と、別空間へ物を入れる魔法。


亜空間とも言うかな?


その亜空間では、時間停止が働き、食べ物は腐らず、冷たいものはそのまま保存が出来るという優れもの。


更に容量に限界もなく、複数のものを入れてもすぐに取り出せ、また、指定した物だけを取り出したり、指定した場所へと取り出したりと物凄く便利な魔法なのだ。


まあ、かつては、この魔法の転移がバレて社畜三昧の日々だった訳だが……それがある今、俺はいつでもフィリアの所に行くことが出来るのだ。


まあ、流石にこれを隠して高頻度で通うのは無理だったので、家族とアスタルテ伯爵家の人たちには説明することになったが……皆優しいよね、前世みたいに扱き使う気がないようで、黙っててくれると約束してくれたのだ。


ただ、その代わり、時々母様の暇つぶしに王都にお忍びで連れてくことが増えたが……それでいいのか王妃様と思いつつ、俺も王都を観光することが増えた。


今度は、フィリアを誘って2人でデートする予定だ。


デートか……人生初のデートかもしれない。


最初の人生は、勿論社畜三昧で彼女どころか、家族すら希薄だったし、2番目の人生は、あの思い出すのも辛い姫様のせいで可愛い女の子との接点はほぼ無かった。


そう、フィリアは俺の癒しなのだ。


女神様とフィリアだけが俺の唯一の癒し。


そんな訳で、俺は転移魔法を使って、フィリアの家の一室へと移動する。


その部屋は、俺用にある程度カスタムされてるが、基本的にこの部屋に飛んでくることになっており、人に見られる心配は皆無なのだ。


部屋を出ると、使用人達が挨拶をしてくる。


それに答えながら、俺はフィリアのドアをノックする。


「はーい」

「フィリア、今いいかな?」

「し、シリウス様!はい!」


小さくてもレディーの部屋に入るので、きちんと確認はとる。


俺たちは夫婦になるが、それでも親しき仲にも礼儀ありだ。


そうして、部屋に入ると、フィリアの落ち着く匂いがして心が安らぐ。


「いらっしゃいませ、シリウス様」


本日も綺麗な銀髪と、オレンジと青の澄んだオッドアイが魅力的なフィリア。


うん、可愛いね。


「フィリアに食べて欲しいものがあって遊びに来たんだけど……大丈夫だったかな?」

「はい、勉強も一段落してたので」


真面目なフィリアは、俺に嫁ぐために、色々と学ぶことも増えたようだ。


大変かもしれないが、こうして頑張ってくれてるので、その息抜きくらいになればいいと思い遊びに来てるが、本音は俺がフィリアに会いたいからというのが大きいのは仕方ないだろう。


「じゃあ、座って食べようか」

「はい」


笑みが可愛い、フィリアと共に席に座ると、俺は空間魔法で亜空間からそのお菓子を取り出すとフィリアの目の前にスプーンと一緒に置く。


「シリウス様、これは……?」


フィリアの疑問は空間魔法に関してではなく、目の前のお菓子についてだろう。


転移のことは家族とアスタルテ伯爵家に話してるが、亜空間のことは、フィリアにしか言ってないのだ。


そして、フィリアの目の前には空間魔法で持ってこないとダメな食べ物が置かれている。


白くて、丸く、僅かな冷気が心地よいそれは、皆が大好きなお菓子、そう――


「アイスクリームだよ」

「あいすくりーむですか?」


バニラのアイスクリームの制作には多大な時間がかかったが、その分いい品が出来た。


やっぱり1番は好きな人に食べて貰わないとね。


「とりあえず、食べてみてよ」

「は、はい。では……」


小さな口で、上品にアイスを1口食べる。


すると、フィリアは目を見開いてから、蕩けるような笑みを浮かべて言った。


「はわぁ……美味しいです……」


よしっ!


思わずガッツポーズしたくなるが、それを俺は我慢して微笑んで眺めていた。


アイスクリームは、フィリアに好評なようで、この後も色んな種類を持ってくることになるが、お腹を壊さないようにだけ気をつけていた。


大事な人だからね。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る