第14話 婚約祝い

「しかし、シリウスがご令嬢連れて戻ってきた時は驚いたよ」


婚約の報告も兼ねて、皆で食事を――ということになって、久しぶりに家族皆が揃って食事をとる中で、レグルス兄様がくすりと笑いながらそんなことを言った。


「一目惚れしまして」

「あのシリウスが一目惚れかぁ……まあ、とりあえずこれで側室迎えれば大丈夫かな?」

「……やっぱり迎えないとダメですか?」

「そりゃね」


父様の方を向くと頷いていた。


まあ、ダメ元だったけど……フィリアだけでいいのになぁ……と思ってしまう。


どうせ、末っ子なんだし、正妻のフィリアのみで良くね?


とは申せ、父様も母様も家族全員が無言で頷くので仕方ない。


というか、5歳になったばかりで、もう側室の話って……王族であり、領地持ち貴族にもなるから仕方ないけどさ……


まあ、俺が頑張って修正した領地でフィリアとゆったり過ごせるのは悪くない。


フィリアには弟がいて、アスタルテ伯爵家の家督はその子が継ぐらしいから、俺の元に嫁ぐのは問題ない。


あとは、フィリアより家格が下の令嬢を1人側室に……気が乗らないなぁ……


まあ、どうせなら仲良くやれそうな人だといいけど、フィリアと険悪だと困るし、やっぱりスローライフは遠そうだなぁ……


「そういえば、姉様も学園を卒業したらすぐに嫁ぐのですよね?」

「ええ、シリウスと離れるのは寂しいけど、遊びに行くからね」


そう言って微笑むレシア姉様。


学園の卒業まであと少し、少し前に15歳の誕生日を迎えた姉様は、向こうでの生活の準備も色々とあって大変そうだ。


まあ、侯爵夫人になるのだから、仕方ないか。


「そういや、シリウス。領地の方は大丈夫なのか?なんか、色々大変だって聞いたが」


ふと、そんなことを聞いてくるラウル兄様。


「どこ情報ですか?」

「いや、お前の護衛に行ってる奴らがそんな話をしててな」


ふむ、なるほど。


「特に問題ありませんよ。治安も良くてとってもいい街ですから」


まあ、ほんの少しだけ俺が風通しを良くしたけど。


「そうか、まあ、何かあったら頼れよ」

「心強いです、ラウル兄様」

「兄貴だからな」


ニヤリと笑う兄様。


不思議だ……兄貴って言い方もピッタリだけど、頭とかでも似合いそうな雰囲気がする。


流石爽やかイケメンなレグルス兄様とは対極な剛毅なお方だ。


「そうそう、皆が揃ってる今、報告があるんだ」

「何ですか父上?」

「なに、些細なことだ。次の国王を決めたぞ」


その言葉に質問をしたレグルス兄様どころか、他の皆が驚いて――ないな。


あれ?驚いたの俺だけ?


俺だけその言葉にピキーンと空気が張り詰めるイメージがあったのだが……兄や姉は普通に聞いてる。


母様は知ってるのか、天ぷらを美味しそうに食べている。


かき揚げ美味しいですよねぇ。


なんて思っていると、父様はそのままサラリと告げた。


「次の国王は、ラウルにやってもらう。レグルスはラウルの補佐を頼んだぞ」

「おう、分かった 」

「分かりました」


……軽くね?


それでいいの?


まあ、俺は元々玉座に興味無いしいいけど、今日の何気ない報告みたいな感じで済ませて良かったのだろうか?


「シリウスには公爵位を与えるつもりだが、成人してからで良いな?」

「はい、構いません」

「必要ないだろうが、一応学園には通うように」


まあ、別に学ぶことそんなに無いしなぁ……


別に、貴族家の当主になるのに必要な知識は今でも集められるし、学園へ通う理由はあんまり無いが……


「では、魔法科にフィリアと通いますね」

「ん?フィリア嬢は魔法を使えるのかい?」

「ええ、有望そうですよ」


貴族の学科だと、フィリアに対して五月蝿い奴らが多いから、実力主義でも魔法科の方がフィリアも安心だろう。


ちなみに、フィリアは水と風の属性の適性を持ってるようだ。


「ほう、そうなのか。まあ、でも、その方がいいかもな。有望そうなのが居たら領地にでもスカウトすればいいしな」


この世界でも、魔法使いはそれなりに貴重なので、仕事は山ほどある。


まあ、使えそうな人が居たらスカウトするのもいいだろう。


「ふむ……そういえば、あの娘っ子は変わった容姿をしてたが、見たところ両親の遺伝では無さそうだな」

「祖父母の遺伝だそうです」

「確か、アスタルテ前伯爵の夫人がエデルの村の出身だったかと」


エデルの村というのは、この国より北方の雪深い地にある小さな村で、そこの住人は浮世離れした容姿をしているということだ。


まあ、あくまでそういう噂ということだが、フィリアのあの天使のような容姿の説明にはなるか。


というか、流石レグルス兄様。


博識だなぁ。


「まあでも、シリウスには下手なご令嬢より、フィリア嬢の方がいいかもね。アスタルテ伯爵は良くも悪くも普通だし、権力争いにもそこまで積極的じゃないし、第3王子が正妻を迎えるのに悪くない条件だよ」


その辺は別に狙っては無かったけど……まあ、結果オーライって感じかな?


フィリアみたいな、心根の綺麗な娘が側に居れば、きっと落ち着けるだろうし。


「あ、そうそう。シリウスにこれを渡そうと思ってたんだ」


思い出したように、レグルス兄様は使用人から何かを受け取るとそれを俺に渡してきた。


シルバーのシンプルな装飾の2つの指輪、ただ、それはただの指輪ではないようだ。


「これは……魔術具ですか?」

「うん、認識阻害の術式が組み込まれてるよ」


魔道具と魔術具、その2つの違いは、動力源があるか無いかの違いだ。


魔道具は、魔物から取れる魔石と呼ばれるものを核にして動く。


魔術具は、魔石を使わずに、使用者が魔力を通すと刻まれた術式にそって効果を発揮するというものだ。


そして、今回、レグルス兄様から渡されたのは後者の方、魔術具だった。


「シリウスのことだから、そのうち1人で城を抜け出しそうだから、これを前もって渡しておくよ。大きくなったら、それでフィリア嬢とデートするといい」


なんともイケメンなセリフだ。


ガツガツと揚げ物を食べてるラウル兄様にも見習って欲しいものだ。


まあ、こんなんでもラウル兄様も2人の奥さんいるし勝ち組なんだろうけどさ。


そんな訳で、転移魔法の時の丁度いい便利グッズを手に入れたのだった。



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