第16話 お風呂
最近、俺は贅沢になってる気がする。
とはいえ、こればかりはどうしても譲れない。
「今日こそ……今日こそ1人でお風呂に……!」
男の入浴にメイドさん10人がかりっておかしいよね?
父様や兄様達は1人で入ってるのに、俺だけ何故かメイドさんに隅々まで洗われて乙女かと思えるほどのタマゴ肌にされてしまう……
フィリアに知られたくない秘密の1つだが……俺が1人で入るといくら言っても、母様の命令だとメイドさんも引かずにあっという間に風呂へと連行されるのだ。
その事で、母様に抗議したが、『シリウスは可愛いからねぇ』と涼し気な顔でスルーされてしまった。
妥協案として提示されるのは、母様かレシア姉様と一緒に入るという案だったが……それって、結局メイドさん達居るよね?
母様もレシア姉様もメイドさんにお風呂でタマゴ肌にされてるし、妥協どころか、むしろ悪化してない?
というか、姉様嫁いでもう居ないし……
家族だから、別に裸を見せるのは恥ずかしいとは思わない。
ましてや、俺は子供だし、俺も母親や姉の裸でどうこうなる事は有り得ない。
フィリアなら別だろうけど……それは好きな人だし、仕方ない。
そんな訳で、俺はなんとか1人でお風呂に入ろうと、メイドさん達の目を掻い潜ってお風呂に潜入していた。
王族専用のお風呂は、一応、時間ごとに男女が決まってるが、それらは仮に定めたもの で、守ってる人は少ない。
とはいえ、だからこそ、かえって今の時間誰も居ないのでホッとした。
服を脱いで、浴室に入ると、いつもと違って景色が新鮮に思えた。
まあ、いつもはメイドさんに連行されて、そのまま全身くまなく洗われて――あ、思い出すだけで泣けてくる。
そんなほろりと涙を流しつつ、1人でのんびりと髪、顔、体と順番に洗っていく。
最近、シャンプーとリンスを作ってみたことで、髪の毛もサラサラになったと女性陣からは好評らしい。
俺も、シャンプーだけだと何となく不安で、リンスも使うが……やっぱり自分の手で洗うのが1番だね。
そうして洗ってから、だだっ広い浴槽に浸かると、思わずため息がでる。
いつ以来だろう……こんな風に1人でお風呂に入れたのは……
浴槽の段差の2段目に座ると高さ的にはちょうど良くて、手足を伸ばして一息つく。
「やっぱりお風呂はいいねぇ……」
日本人、いや、人としてやっぱり、入浴に手を抜くのは良くないと思うんだ。
一日の疲れをこうして流して、ゆったりと眠りを誘うためにお風呂は不可欠。
うん、とても充実してるな。
ただ、そんな時間長く続くことは有り得ない訳でして……
「あら?シリウス?」
その声にギクリとしてしまう。
恐る恐る後ろを見ると、そこにはメイドさん軍団を引き連れた、裸の母様がいらした。
きっと、普通の男ならその美貌に見惚れるのだろうが、生憎と身内にそんな感情を抱くこともなく、母性の塊である大きな胸に頭を垂れることもなく、俺はいつでも逃げ出せるように足に力を入れる。
だってさ、後ろのメイドさん達のギラギラした瞳が、まるで獲物を前にした肉食獣のようで恐ろしいもの。
「なあに?やっぱり一緒に入りたかったの?」
「いえ……この時間にお風呂は珍しいですね」
「なんとなく、そんな気分だったのよね」
ニコニコしながら近づいてくる母様と、後ずさる俺。
忙しい母様は気まぐれで行動することも多いが今回はわざとな様な気もする。
女性とはいえ、大人の1歩と、子供の後ずさりの速度が同じなわけなく、あっという間に射程圏内に入られてしまう。
転移で逃げる……ダメだ、今は裸で、難しい。
用事があると先に上がる……目の前を通過する前に捕まる。
諦めて一緒に入る……結局、いつも通りメイドさん達にタマゴ肌にされる。
――あ、これ、詰んだな。
ニコニコする、母様とメイドさん達。
その笑みが、諦めろと言わんばかりで、俺の退路はどんどん消える。
……そうだ!これがあった!
思いついたら即実行、俺は脱衣場に転移魔法で転移する。
ふふふ、これでサッと拭いて出れば逃げられ……
「シリウス様、風邪を引きますので、お戻りを」
……る訳がなかったよね。
何故か転移先にニコニコ顔のメイドさんがいて、俺はお風呂場に強制的に戻されてしまう。
その後方には、エリアを初めとするいつも俺をピカピカのタマゴ肌にするメイドさん達も控えており、逃げられないことを再認識させられる。
その後のことは語らずとも分かるだろうが、いつも以上に俺はピカピカに磨かれて、母親とお風呂を共にするのだった。
洗ったと僅かに抗ってはみたが、『磨き残しがありますので』と聞き入れて貰えなかったとだけ言っておく。
第3王子とはなんと非力なのだろうとしみじみ思った。
ちなみに、ラウル兄様やレグルス兄様は割と早く1人で入浴を許されたそうだ。
フィリアにだけは知られたくないが……フィリアとお風呂は将来的に凄く楽しみなので、それを目標に頑張るとしますか。
でも、出来ればその前に1人風呂をさせて貰えると嬉しいかなぁ……と少し思います。
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