第12話 誕生日パーティー

洗礼を終えて2日後、とうとう俺の5歳の誕生日パーティーの日となった。


色んな貴族が参加しており、その子供達もいるが……帰りたくて仕方ない。


何だって自分の誕生日をこんな面倒そうな貴族に祝われねばならないのか。


これが5歳ごとにあるとか……まあ、王族に生まれてしまった以上仕方ないけどさ……泣けてくる。


「皆、本日はよく集まってくれた!今日は、我が息子である第3王子、シリウスの5歳の生誕祭だ。心ゆくまで楽しんでいってくれ!」


そんな父様の言葉でパーティーは始まるが……公爵から始まり、色んな貴族に挨拶をしないといけない辛さ。


しかも、さり気なく娘を紹介してくるけど……その手には乗らんぞ!


そうして甘い香りを漂わせて俺をコキ使う気だろ!とそんなことを言うわけもなく、笑顔で受け流す大人な対応って奴を頑張ってたさ。


そうして、パーティーも半分を過ぎた頃、ふと、お手洗いに行きたくなって、断りを入れて抜け出す。


挨拶も一通り終わっていたし、今は兄様2人が有力者達と話しているので、俺が抜けてもそこまで影響は無いだろうとのんびりと城を眺めながらお手洗いから戻る。


と――


「おい!聞いてるのか!」


何やら、反対側、壁の向こうから言い争うような……いや、イチャモンつけるのか?そんな感じの声が聞こえてきた。


とはいえ、高い壁なので、気のせいかもだが、俺の誕生日パーティーで揉め事は勘弁して欲しいなぁ……仕方ない。


そう思って、壁際を静かに走ると、声のする木に飛び移った。


きっと、見られていたら、俺が暗殺者にでも見えたかもしれないと思い、下を覗く。


幸い、静かな着地で、木の下で争ってる奴らには気づかれてないようで、俺は様子を見てみると、そこには複数人の貴族の子供が1人の少女を囲んで責めてるという胸糞悪い光景があった。


だが、俺はその胸糞悪い光景の前に、思わず見惚れてしまっていた。


その貴族達ではなく、彼ら彼女らに囲まれている少女は、この世界でも初めてみる長く綺麗な白銀の髪と、両目で違う色の綺麗なオレンジと青い瞳を持つ、天使と言っても過言ではない程に愛らしい少女だった。


だが、他の連中はそうは思ってないようで……


「聞いてるのか!この吸血鬼!化け物!なんだよその髪!気持ち悪い!」

「そんな姿で殿下の誕生日パーティーに来るなんて信じられませんわ!」

「気持ち悪い目しやがって!おぞましい呪いの目だろ!」

「帰れよ!」

「そうだそうだ!」


……おk。ぶち転がしていいよね?


それを言われた少女は何か言い返すのかと思ったが……ポツリと呟いた。


「で、殿下の……殿下の誕生日……お、お祝い……したかったから……」


震えながら、そんなことを言う少女。


その言葉に余計にエキサイトする彼らだが……俺はそこで我慢出来なくなって木から飛び降りていた。


綺麗な着地で少女とそれを囲む奴らの中間に降り立つと突然の俺の登場に場は騒然とした。


そりゃそうだ。


祝われてる本人が空から降りてきたのだから、そうなる。


だけど、本当に我慢出来なくなったから仕方ない。


「で、殿下!何故このような場所に……!?」

「なに、散歩をしていたら、やけに愉快な囀りが聞こえてきてな」


ギロりと睨むと奴らはそのまま理由をつけて立ち去って行ったが……あんな奴らどうでもいいので、俺はその少女の方を向いて微笑みかけた。


「さっきの、本心で言ってくれてたんだね」

「え……?」

「俺の誕生日……祝いたくて頑張って来てくれたんだね」

「ど、どうして……」

「それは内緒」


きっと、これがあの時の神様からの加護の効果の1つなのだろう。


俺への好意的な声が……本音が自然と分かるのだ。


この目の前の銀髪の少女は俺のためにここに頑張って来てくれたのだ。


「綺麗な髪だね……触ってもいいかな?」

「え……?」


その言葉に再びの絶句。


まあ、きっと、この娘は今まで外見を良く言われたことは無いのだろう。


だから、突然のことに驚いているようだが……ポツリと零すように少女は言った。


「……気味悪く……ないのですか……?」

「君の外見ということかな?」


こくりと頷く少女。


「こんな他の人と違う……髪は吸血鬼みたいで……目だって変だし……化け物みたいって、皆……」


涙を堪える少女、そんな彼女の髪を俺はゆっくりと撫でると、その綺麗な髪の感触を確かめて言った。


「とっても綺麗だよ。雪のように輝く白銀の髪も、その星空みたいな綺麗な瞳も……まるで白銀の天使様かと思うほどに」

「――――!?うぅ……」


その言葉に少女は涙を流してしまった。


その雫を指で掬い取ると、俺はその少女を守りたいと確かに思った。


「名前を聞いてもいいかな?」

「……フィリア……です……フィリア・アスタルテ……」

「フィリアか……いい名前だね。俺はシリウス。よろしくね、フィリア」

「……はい」


その時に見せた、フィリアの笑顔。


その余りにも無垢で綺麗なそれを見て……守ってあげたい以上の感情が芽生えてしまった。


女神様、ごめんなさい……俺は多分、今、生まれて初めて、人間の女の子に恋をしてしまったんだと思います。


それが、俺がフィリアに出会った日のこと。


そして――フィリアに初めて恋した日のことだった。




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