第11話 洗礼
領地に関してのあれこれを俺は一切語るつもりはない。
強いて言えば、女子供や善良な人を貶めるような真似をすれば、地獄行きとだけ言っておこう。
そんな訳で、領地に関してゴタゴタしていたら、あっという間に5歳を迎えてしまった。
5歳の誕生日パーティーを明後日に控えて、俺は本日、教会で洗礼を受けることになった。
流石は教会、お金がかかってそうだなぁ……なんて思いながら、ニコニコした愛想笑いの司祭の洗礼もすぐに終わり、俺は件の真っ白な部屋へと入った。
本当に一面真っ白な空間――少し不安になってくるが、祭壇らしきものがあり、俺はそれに祈りを捧げる。
女神様、女神様。
貴女様のお陰でのんびりと日々を過ごせております。
本当にありがとうございます。
『いえいえ、お役に立てたようで何よりです』
ふぁ!?
なに!?今の声ってまさか……
『その通りです、お久しぶりですね。少し待ってくださいね……はい、もう目を開けても大丈夫ですよ』
そう言われて目を開けると、目の前には俺を転生させてくれた女神様がにこやかな表情で立っていた。
「女神様……」
「こんにちは、シリウスさん。お元気みたいですね」
「まさか会えるとは思いませんでした……会えて嬉しいです」
「ここの神とは仲良しなので特別に会いに来ました」
そう言って女神様の向けた視線の先には、優雅に紅茶を飲む男装の麗人が居た。
あれ……女神様?
「ああ、あの方が貴方の国で信仰されてる神様ですよ。男神に見えて、ただの男装趣味の変人ですよ」
「ひっでーな。んで、それがお前お気に入りの人間か?」
紅茶を優雅に置く仕草からは考えられない少し荒い口調だが、鷲のような鋭い眼光はカッコイイと思った。
じーっと俺を観察すると、その神様は、「なるほどな」と納得したような表情を浮かべた。
「面白いな、二度も転生してる割には綺麗な魂だ」
魂?
そんなものとっくに汚れてそうだけど……
「バーカ。んなわけねぇだろ?」
心読まれた。
まあ、神様だし、それくらい容易いか。
「当たり前だっての。それにな、お前らの言う汚れた汚れてないなんて、神からしたら些細なもんなんだよ」
ふむ、なるほど。
「その顔分かってないだろ。まあ、いいが。にしても、お前、同性好きなくせに男に興味示すとはな」
え?女神様ってもしかして……
「あー……まあ、そういうことです」
なるほど、まあ、人の趣味はそれぞれだし、別に俺としては気にしないかな。
人じゃなくて神様だけど。
「変わってるなぁ……あれか?お前コイツに気でもあるのか?」
ええまあ、多分初恋です。
「ウブな奴だなぁ、こんなののどこがいいんだ?確かに乳はデカくてロリ顔だが、お前らからしたらババアだぜ?」
いえいえ、中身の話で……って、なんかさっきから俺心でしか話してない気が……
「おっと悪いな。んじゃ、サクッと終わらせるか」
え?何がするんですか?
「何って、加護を与えるだけだよ。コイツがどうしてもって言うから最初はやる気は無かったが……話してて面白いしな、ちゃんとやってやるよ」
加護ですか……あの、女神様の加護とかは……
「ああ、それなら転生前にしてますよ。ただ、私の加護よりその世界では彼女の加護の方が役に立つかもしれませんね」
「『原初の創造神』が何言ってやがるんだか」
「貴方こそ、『始まりの時空神』兼『アステカルの創造神』じゃないですか」
………あのぉ、お二人は創造神なんですか?
「ええ、私はあらゆる世界での創造神、ただ、厳密に言うと少し違います。その辺の説明は何れまた。あと、彼女は貴方の今いる世界の創造神って解釈で大丈夫ですよ」
……質問いいでしょうか?
「何でもどうぞ」
……女神様のお名前は……?
「私の名前ですか?」
はい、それだけが聞きたいです。
「変わってますね。私の名前は――」
ふむふむ、なるほど。
しかと覚えました。
もう忘れません。
「ただ、人前で私の名前はダメですよ?世界に影響を与えますから」
「んじゃ、終わったならちゃっちゃと済ませんぞー」
そうして、俺はその日、神様から加護を貰うのだった。
これは後で聞いた事だけど、本来神様と話すなんて現象は有り得ないそうで、あっても祝福の証として少し祈ってる本人の前で光が生じる程度らしい。
なるほど、俺は破格の待遇だったと。
まあ、女神様の名前は覚えたし、今度から心の中で祈るのがスムーズになる。
他言無用と言われたので、女神様のことを広めることは出来ないが、恩人のことをずっと覚えてられるのは嬉しいな。
恩人っていうか、神様だけど。
にしても、色々と知らない方がいい事も知ってしまったなぁ……特に教会の神官共には神様が男神でなく、女神だったとは言えないし、あまつさえ本人から加護を受けとか言ったら絶対面倒なことになる。
そういえば、女神様の加護ってどんな効果があるんだろ?
風邪をひかないとか、お腹出して寝ても元気とかかな?
……自分の想像力の無さが嘆かれるが、まあ、そのうち分かるか。
そんな訳で、俺はご機嫌で帰宅するのだった。
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