第7話 絵本
「うーん……やっぱり、どれも微妙だなぁ……」
書斎で文字ばかりの本を読んでいたが、たまには絵本でも……そう思って、探してみたが、どの絵本もリアルな絵で可愛くない。
漫画が無いのは仕方ない。
まあ、そもそも、前世では俺が漫画読む時間なんてほとんど無かったし、あっても最初の人生の時にお客様と話を合わせるために好きでもないジャンルの漫画を流し読みした程度だ。
ただ、絵本に関しては小さい子に読み聞かせをしたので、そこそこ読んでいる。
だからこそ、このリアルな感じの絵に違和感があるのだろう。
「うん……やってみるか」
思い立ったが即実行、今世はやりたい事をすると決めてるので、早速行動に移ることにする。
「エリア、紙と書くものお願い」
「かしこまりました」
書斎の机に座って、メイドさんのエリアにお願いして道具を用意して貰う。
まずは題材をどうするか……子供向けの可愛い絵本が大前提。
となると、誰でも知ってる動物をデフォルメして可愛くするのがベターかな?
じゃあ、やっぱりここは猫と犬にしよう。
ウルフとか熊とかの方がこの世界での認知度は高いけど、危険な動物ってイメージだし、それより少し認知度が落ちても可愛くて安全な動物にしとかないとね。
そんな訳で、猫と犬を主人公にした絵本を作り始める。
後ろで控えてるエリアが、俺によって描かれる可愛い猫と犬の絵に少し驚いているようだ。
内容は猫のにゃん太と犬のワン次郎の心温まる物語。
色鉛筆とかは難しいので、下書きをして色をつけていく。
そうして集中すること数時間……俺、力作の『猫犬物語』は完成した。
「エリア、どうかな?」
「可愛らしい絵ですね。こんなに可愛い絵の絵本は初めて見ました」
エリアはお世辞が上手くないので、本心で言ってるのだろう。
まずはエリアに読んで貰ったが、なかなか好評のようだったので、俺は次の人に読んでもらうべくレシア姉様の部屋へと向かう。
「ん?やぁ、シリウス」
……その途中で、レグルス兄様に遭遇してしまったが。
「こんにちは、兄様」
「その手の物はどうしたの?」
「絵本を作ってみたんです」
「絵本?見てもいいかい?」
「はい」
本当は家族ではレシア姉様に最初に読んで欲しかったが、兄様の頼みを断れないのでお願いすることにする。
「へぇー、上手いね。それに何だか可愛い絵だ」
そう言ってパラパラと読み出したレグルス兄様は、読み終わると笑顔で言った。
「いいね、身びいき無しで素晴らしいクオリティだ」
「ありがとうございます」
「これは売るのかい?」
「うーん、どうでしょう。ただ可愛い絵の絵本が読みたくて作っただけなので」
「そっか、でも母上に見せれば確実に売ることになると思うよ?」
「ですよねー」
俺としては自分に絵のセンスは無いと思っていたが、デフォルメしたキャラならそこそこ上手かったということは今回のことで判明した。
まあ、売れるレベルかは分からないけど……
そんな感じで、レグルス兄様の後にレシア姉様に読んで貰ったが、こちらもかなり好評だった。
可愛いものが大好きなレシア姉様はこの本を大層気に入ってくれたようなので、そのまま原本はレシア姉様にあげることにしたのだが、すぐに母様にこの本のことが伝わり、本当に商品化することになったらしい。
王家の資産が増えることで、父もご機嫌そうに俺の絵本を褒めてくれたけど……なんか、作りたいもの作ってそれが順調にお金になるので少し怖いくらいだ。
これで、もう少ししたら波乱の人生になるとか無いよね?
女神様のことは信じてるけど、これまでの自分の境遇から少し不安になってしまう。
やっぱり、いきなりこんなに平穏で幸せな日々を手に入れると、その分不安もあるもので、まあ、何があっても家族は守りたいものだ。
魔法に関しても、魔力量を増やすために訓練しようと思っていたのだが、どうやら魔力量も前世と同じくらいあるのでそこまで必要ないことが判明した。
魔力量を増やすためには、魔法を使って自身の魔力を使い切るのが手っ取り早い。
前世……まあ、英雄だった前世の時は毎日のように魔法使っていたので魔力量は化け物クラスなのでこれ以上の訓練は必要なさそうだが、一応不安なのでしておく。
にしてもまさか異世界で絵本作家になるとはね……続編とか考えた方がいいのかね?
とはいえ、無理強いされるのは嫌なので気長に待って貰おう。
母様ともそういう約束にしたし、俺は社畜には戻りたくない。
描きたい時に描きたいものを描くのだ。
これは料理でも同じ。
食べたいものを食べたい時に作ってみる。
なんて贅沢な時間の使い方……ふかふかベットで睡眠時間8時間というだけでも贅沢なのに、こうしてのんびりと好きなことが出来る生活はなんとも優雅だ。
とはいえ、一応将来も考えておかないとな。
目指せ!今くらい有意義な生活!
こんな感じしかないけど、どうせなら可愛い嫁さんと子供とのんびりライフが嬉しいかな。
……どうか、英雄時代の前世の時のような事だけはありませんようにと切に願っておく。
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