第6話 母は強し
今日は、母上とゆったりとお茶を楽しんでいる。
父上同様に多忙な母上なのだが、こうしてたまに子供をお茶に誘ってくれるので、家族のことを気にしてくれてるのだろう。
長い栗色の髪が綺麗なスタイルのいい美女、見た目からして、王妃様って感じで凄い。
「シリウス、今日の紅茶はどうかしら?」
「美味しいです、母様」
「ふふ、いい茶葉を貰ったの。レシア達には内緒よ?」
茶目っ気のある笑みを浮かべるが、こういう所が父を虜にしたのだろうと納得する。
この世界は一夫多妻の考えが強い。
庶民は大抵、経済的な理由などで一夫一妻だが、貴族や王族は、複数の妻を娶って家を存続させ、また、少しでも多く養うことを求められる。
女性が貴族の当主の所も勿論あるが、その場合は多夫一妻などということはまず無い。
全くないとは言わないが、複数の夫を養うよりも、男は力仕事などさせた方が有意義だという考えがあり、それなら雇うだけの方が圧倒的に楽なのだ。
そもそも、貴族の当主になるような女性はそこまで男好きでもなく、仕事の方がむしろ好きな人が多いので、子供を作ったら仕事に打ち込むという人も結構いる。
まあ、適材適所というのが、1番簡潔な言葉かもしれない。
そして、王族であり、国王である父も本来なら側室を取らないといけないのだが……父は頑なに母以外を娶る気はないと断言して実行してみせたのだ。
まあ、その結果俺を含めて5人も子供が居るから、周りからの文句もそう無いが、兄達はそういう訳にはいかず、2人とも正妻と側室で合わせて2人と結婚してるのだ。
ハーレムかぁ……凄いねぇ。
まだ4歳の俺には遠い話にも思えるけど、俺も早めに婚約者を決めた方がいいということは何度か言われていた。
4歳児に言う台詞か?と疑問にも思ったが、兄2人の派閥以外で選ぶのが望ましいらしい。
まあ、これはレグルス兄様からの受け売りだけど。
どっちかの派閥から選べば、俺がそちらに味方したと思われるという貴族の面倒なシチュエーションに顔が渋くなるが、まあ、前とその前の前世より楽しい人生を送れてるのでそのくらいは仕方ないと目をつぶるつもりだ。
さて、何故こんな話をしたかといえば、それはこの後の母からの言葉によるものが大きい。
「シリウスも5歳のお誕生日には婚約者決めたいわね〜」
「もうですか?」
「私も可愛い息子をまだお嫁さんに渡したくないけど、シリウスはきっとこの後争奪戦になるからねぇ」
争奪戦?
末っ子の第3王子の付加価値とは一体と思ったが、答えはすぐに分かった。
どうやら、俺が食べたくてぜブスに渡したレシピを使った料理が出た夜会があったそうで、そこで俺がこれらのレシピの発明者だと知られたらしい。
なるほど、新しい料理を作れる、商売にもなりそうで、利用価値も高いというのが俺への新しい大人達の評価なのだろう。
全くもって嬉しくないが。
そんな大人の娘と結婚したら、間違いなく前世並みに利用される可能性が高いしね。
「5歳のお誕生日のお祝いの時に招待するご令嬢から正妻は決めておきたいわねぇ」
どうやら、俺も王族の端くれとして2人は最低娶れと言われてるらしい。
やっほーい!ハーレムだぁ!
……なんて、喜べないのが、現状なんだよなぁ。
だって、このタイミングでアプローチしてくる令嬢と結婚したら、英雄時代の前世と似た展開になりかねないし……まあ、今回は俺が上の立場だからあそこまで酷くはないだろうけど、トラウマとは早々消えないものだ。
「その前に、教会にも洗礼を受けに行かないとね」
5歳になると、この国では教会で神父様に洗礼の儀式をして貰うそうだ。
洗礼自体は数分で終わるが、その後に奥にある真っ白な部屋で神様に祈りを捧げるのだそうだが、そこは出てくるまでに個人差があるという。
神に祝福されれば、それなりに時間がかかるそうだが、そうでない場合は祈ってすぐに出れるらしい。
出来れば、女神様にお礼を言いたいけど……流石に会えないかなぁ。
とりあえず真剣に祈りを捧げるとしよう。
「そういえば、このお菓子もシリウスが考えたのよね?」
「ええ、お口に合いますか?」
「勿論よ、とっても美味しいわ」
今日のお茶菓子は俺が用意したモンブランのケーキだ。
生クリームなどは無かったが、作れる材料は存在していたので、足りないものは取り寄せて貰って作ったが、なかなかの出来だと思う。
現に、母様は美味しそうに食べてるのでホッとする。
普通の生クリームのケーキも前に家族に試食して貰ったのだが、母様はこちらの方がお好みらしい。
俺も、チーズケーキとかの方が好きなので気持ちは分かる。
チーズケーキか……なんか、ピザ食べたくなったし、今度はピザ作ろうかな。
チーズも、確か少し田舎に行けば作ってる所があると聞いたし。
にしても、太るものばっかり作ってるけど、家族の誰も肥えた様子が無いのは流石だよね。
俺も大丈夫だろうけど、何となく気にしてしまう。
剣術の稽古で運動してるし大丈夫かな?
ちなみに、母様主導で今度俺の考えた(前世からの流用)レシピのメニューが出るお店をオープンさせる計画があるらしい。
レシピのアイディア料として俺にもお金が入るらしいが、その金額が既にとんでもなさそうなので、働く必要が減ってきてるが……まあ、一応仕事はしないとね。
そんな感じで、久しぶりの母とのお茶の時間は和やかに過ぎていくのだった。
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