第5話 初めてのおつかい

フライドポテトの件から、俺は厨房に出入りする機会が増えていた。


いくつか、ゼフスにレシピを渡したり、俺自身が作ったりと楽しいのだが、やはり厨房に入り浸る王族とは珍しいのだろうか、好機の視線はなかなか消えないものだ。


そんな中で、俺はとあるデザート作りに挑戦していた。


冷やして作るそれは、氷の魔道具という高価なものか、水魔法の中でも難易度の高い氷魔法を使えないと出来ない代物だが、王族ともなると氷の魔道具が当たり前にあるのだから、凄い。


まあ、氷魔法使えるから、俺としてはあってもなくても大丈夫なのだが、あれば楽なので良しだろう。


「さて……行くとするか」


完成品を持って向かうのは、王都にある大きな学園。


魔法やら、剣術やら、貴族向けから庶民向けと、色んな学科があるそこに、俺は向かっていた。


何故って?


フライドポテトの時に、レシア姉様に「デザートの時は私に真っ先に食べさせてね」とお願いされていたからだ。


仲の良いレシア姉様のお願いを無為に出来ない弟である俺は護衛を連れて、学園へと向かう。


エリア以外にも、エリアの夫である護衛のルドルフを初め、何人かの手練を連れてるが……末っ子でも王族ともなるとやっぱり少し出掛けるのも大変だなぁとしみじみ思う。


今度、1人で転移魔法で外を周る予定だが、身バレしないように気をつけないと。


そんなことを思いながら、学園に着くと、やっぱり目立つ。


英雄の前世の時に注目には慣れてたつもりだが、所詮俺如きでは、慣れというのは程遠いのだろう。


学園の広さに感心しつつも、貴族用の豪華な校舎に入ると、注目の意味合いが変わってくる。


あまり注目されることのない、末っ子の第3王子でも、貴族の子供ともなると、顔を知ってる者が多いようで、『小さい子供が何故ここに?』というより、『何故第3王子がここに?』という感じかな?


そんな注目の中で、俺は教師にレシア姉様の居る教室を教えて貰うと迷わずにたどり着く。


教室の中には、レシア姉様が親しげに友達と話しているのが見えたが、視線が俺と合うと嬉しそうに立ち上がってこちらに抱きついてきた。


「シリウス! どうしたの?」

「姉様に用事がありまして……お邪魔じゃ無かったですか?」

「ううん、全然。それでどうしたの?」

「早めに食べて貰おうと思いまして……こちらをどうぞ」


そうして渡したのは、皆大好きプリンだ。


簡単に作れるのだが、最初と2番目の人生においては、俺自身が口にした回数は片手で足りる程しかない。


作った回数は最初の人生で何十と作ったのだが……まあ、食欲が無さすぎて食べれなかったという事情があり、こうして作ってみた。


「わぁ……! なんだか可愛いね。これはお菓子?」

「はい、プリンというお菓子です」


お菓子と聞いてか、姉様の友達やクラスメイトが興味深そうに見ていたが……残念ながら、姉様の分しか持ってきてないのだ。


「プリンか……わ、プルプルしてる」


容器に入ったプリンを揺らして微笑む姉様。


その笑みに何人かの貴族の子息が見惚れてるのを弟の俺は見逃さない。


まあ、姉様可愛いし、王女様だし気になるのは仕方ないが、俺だったら高嶺の花過ぎて諦めるかもしれない。


本当に惚れれば、分からないけど、少し気になるくらいなら、ゆったりとした人生を選んでしまうかもしれない。


うん、やっぱり俺は姉様の弟で良かったかも。


「シリウスの分はあるの?」

「いえ、姉様に食べて貰う分しか持ってきてません」

「じゃあ、私の少し分けてあげるから一緒に食べようよ」


俺の手を引いて、自分の席まで案内してくれる姉様。


時刻は昼休みなので、まだ時間的には問題ないようだ。


レシア姉様の友人達は俺に挨拶をしてから、お菓子について尋ねてきたので、手作りだと答えれば大層驚かれた。


まあ、4歳児の王子がお菓子作りって字面だけでもカオスだよね。


「じゃあ、食べようか」

「では、姉様からどうぞ」

「そう? じゃあ、貰うね」


そう言ってから、スプーンで少しプリンを掬うと上品に口へと運ぶ。


すると、姉様は驚いたように目を見開いてから、蕩けるような笑みを浮かべた。


「甘くて美味しい……」


思わず内心ガッツポーズを取ってしまうが、こうして嬉しいリアクションをくれるからこの人生の家族は大好きだ。


最初の人生は賄い作っても、当然の仕事として誰も感謝なんて無かったし、少しでも口に合わないと目の前で生ゴミのゴミ箱に捨てるということも多かったので、あまり作る喜びは無かった。


二度目の人生は、自分の分しか作らなかったし、とりあえず栄養重視で作ってたから、そんなに余裕は無かった。


うん、今世最高だね。


「ほら、シリウスも食べてみて」

「はい、姉様」


それはいいけど、人前で食べさせるのはどうなんだろう?


まあ、年の離れた弟の面倒を見てる優しい姉という絵面になるし、姉様のプラスになるから甘んじて受け入れるけど。


姉様からあーんをして、食べさせられたプリンは、冷たくて程よい甘さが良かった。


うん、いい仕事したな。


今度からは、ゼフスが作ってくれるから、もっと美味しいのが出るだろうし、楽しみだ。


「あの、レシア様、シリウス様。私にも分けて貰えませんか?」

「あの、私も!」

「私もですわ!」


1人が言い出せば、続々と立候補は増える。


女の子が甘い物に目がないのは、どの世界だろうと共通なのかもしれないと思いつつ、それを見たレシア姉様が、今度お茶会の時に出すと皆を納得させるのを見て感心してしまう。


なるほど、残りを何人かで分けるより、そうした方が不満も少ないか。


皆の前で新しいお菓子を披露した時の反応を考えずに、姉様が喜ぶことだけを考えていた俺のミスだけど、でも、こうしてフォローしてくれる身内が居るのは嬉しいものだ。


二度も人生を経験してる割に、人生経験が少ないのは、やっぱり一箇所にずっと縛られていた弊害かもしれないな。


そうして後日、姉様のお茶会で出されたプリンはクラスメイト達に大人気だったそうだ。


レシピを売って欲しいと言われたらしいが、姉様がやんわりと断ってくれたそうだ。


まあ、別に売っても構わないけど、王族の手札が多いのはいいことか。

















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