第8話 トランプ
王族ともなると、学ぶことも多いが、4歳の第3王子という立場であると、上の兄や姉に比べれば求められる水準はそこまで高くない。
俺の将来の選択肢が増えるように、そんな親心と第3王子として恥ずかしくないくらいの教養は必要だが、元々2度の人生を体験した俺からしたらそこまで難しいこともない。
文字は違えど、言葉がちゃんと話せれば覚えるのは容易いものだ。
暇な時間で、のんびりしたり、食べたいものを作ったり、本を読んだりと有意義な時間を過ごしているが、何かが足りない気がした。
一体なんだろう……と思って、ふと気がついた。
あれ? この世界の娯楽の類が少なくね?
娯楽、即ち遊び道具のことだ。
チェスはあるのだ。
ただ、それ以外の例えばトランプだとか、旧型のボードゲームとかそういう類がほとんど無いのだ。
チェスだって、貴族の遊戯という感じの普及で庶民はやってないようだし。
テレビゲームなんてものは、流石にどうしようも無いが、トランプ辺りはあっても不思議じゃなさそう……と思っていたが、どうやらこの世界の人達は娯楽よりも、知識や力の習得の方が好きらしい。
そういう先人達の様子からか、あまり娯楽の方が発展する兆しが無かったというのが答えのようだ。
皆真面目だなぁ……とは思うけど、俺は今までそういう遊びを出来なかった分、やりたいと思うのだ。
チェスも楽しいけど、それ以外もしたい!
そんな訳で、作ることにします。
社畜三昧だった俺にその手の知識があるのかと聞かれれば、最初の人生の時の経験がモノを言うだろう。
旅館には当然ながら、子供連れやお年寄りも多くいる。
彼らが暇つぶしに俺を掴まえて相手をさせるので、その分上から仕事を押し付けられたのだが、その時に色んなゲームを覚えたものだ。
あの時は、仕事でやってて、接待なので負けるのが当たり前だったが、どうせなら実力で勝つか負けるかを体験したいもの。
そんな訳で、最初に作るのは定番中の定番、トランプだ。
デザインをどうするか少し迷ったが、絵本の時の猫のにゃん太と犬のワン次郎をメインにすることにした。
なお、絵本に関しては、きちんと製本されたものが販売されて、かなりの人気になってるそうだ。
作者が俺なのは隠して、あくまで王族の人間という感じになってるが、お城に出入りする人達は俺だと知ってるようだ。
まあ、続編期待してると言われたしね。
描くのは多分もう少し先の話だろうし、今はトランプを作ることに集中する。
とりあえず裏面の絵柄は二匹の可愛いイラストにして……それをコピーして完成になる。
あとは、スペード、ハート、クラブにダイヤと決めて、ジャックとクイーンとキングの絵柄は……流石に本物を使う訳にはいかないので、にゃん太とワン次郎に活躍して貰おう。
ふむ、クイーンはにゃん太の女の子バージョンでニャン美を新しく描いて、女王っぽく……は、なんか背伸び感があるから、姫っぽくしておく。
ジャックはワン次郎の騎士バージョン、キングは王冠のあるワン次郎で……ジョーカーカードに悪そうなにゃん太を使ってよし!
絵柄とデザインが決まれば後は、ちゃんとそれをコピーして貰えば……完成!
「あれ?シリウス何してるの?」
出来上がってきたトランプの出来上がりを確認していると、レシア姉様が部屋を訪ねてきた。
何故か後ろにレグルス兄様がいるが……何だろ?
「トランプの確認してました」
「トランプ?」
「もしかして、また何か作ったのかな?」
レグルス兄様の言葉に頷くと、トランプについて軽く説明する。
「じゃあ、今からやりましょう」
「そうだね」
「あの……兄様は仕事はいいんですか?」
「1回だけだよ。それにシリウスへの用事もあったからね」
そうして、3人で最も王道なババ抜きをしてみたが、2人のポーカーフェイスが強すぎて俺のぼろ負けだったのは仕方ないだろう。
結局、それ以外にも、神経衰弱や七並べ、ポーカーや大富豪をやったが、どれも2人には勝てなかった。
後日、ラウル兄様とやった時は最下位は免れたが、皆強すぎて開発者が結局1番弱かったのだった。
特にポーカーとか、皆平気な顔で嘘つくから、俺には見破れなかったよ……
トランプも母様にバレて商品化され、爆発的に広まったが、それでまた俺の懐にはお金が入るようになって、多分俺の代で子供に貧しい思いをさせる心配は微塵も無くなったレベルなのだが……4歳児でこんなに大金貰っていいのかね?
まあ、家族の役には立ててるし、俺もお小遣い貰えていいことだらけだが、今は母様が色々と手配してくれてるのが、もし家を出ることになったらどうなるか……1人でこれらのことをこなすのは難しいので、有能な人材を確保しておきたいなぁと素直に思う。
現在俺の専属メイドのエリアも、そのうち子供とか出来たら俺のメイドを辞めるかもだし、家を出るとなったら、着いてきてくれる人が居るかも怪しいしね。
まあ、俺の場合は兄達の手伝いか適当に爵位を貰って暮らすかになりそうだが、それでも頼れる人は欲しいものだ。
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