第20話 異世界

謎の男と二人で歩いていると、たくさんの町人が集まってきた。握手を求めたり、涙を流しながら拝む年寄りもいた。

この男は人気者と言うより、英雄に近い存在らしい。


「この先に会員制の飲み屋がある。そこで話そう」


そう言うと、男は風になった。羽根のように体が軽く、重力を感じさせない特殊な走り。

速いなんてもんじゃない。

姿を見失うと男の残り香を頼りに全神経を集中して探した。


「遅いっ! 時間を無駄にするな」


「はぁ……はぁ……ぁ」


化け物か、コイツ。息切れすらしていない。


店先に小さな妖精が三匹飛び回っていた。僕等を品定めしている。男は、無視して店の中に入った。店内は、コンサートホール並の広さがあり。外からは想像出来ない客の多さと活気に満ちている。


「違和感あるだろ? この広さ。これは、魔法の一種。この世界には、魔法を扱える奴等がいてな。この店の主もそうなんだけど。みんな隠れて、こうやって生計を立ててる」


「隠れて?」


「あぁ……。この国では、王の命令で魔法が全面的に禁止されてるからな。まぁ、こんなくだらない話はこれぐらいにしよう。ここからが、本題だ」



「…………………」


「お前と一緒にいた女だが、実はこっち側の世界の住人なんだよ。女は、あの穴から逃げた。お前も知っての通り、あの穴はこっちの世界とお前達の世界を繋いでいる」


「サラは、どうして逃げた?」


「奴隷としての生活に耐えられなかったからだろう」


「っ!?」


「サラは、身売りされた奴隷だ。最底辺の人間。まぁ今は、城で働いているが……。一生こき使われても借金は返済出来ないだろうな」


「………助ける。必ず」


黒い感情が体を支配する。


「無理無理。その前に、お前は死ぬから。あの時はかなり手加減してやったが、次は本気でお前を殺る。………でも、そんなお前にもサラを救うチャンスがない訳じゃない。それが、これから話す俺との取引だ」


「…………」


「実は、サラ以外にも厄介な奴らが向こうの世界に何人も逃げててな。しかも、そいつらの体には高額の値段がつけられてる。目玉一つだけでも欲しいって言う物好きもいるぐらいだ。お前は奴らを捕らえ、俺に売り、サラの借金を返済してもらう。借金を完済出来たら、サラを返してやる。どうだ? かなり厳しい条件だが、不可能ではないはず。あっ、一つ言っておくが、向こうの円やドル等の通貨はこっちでは紙くずと変わらないからな。換金は一切出来ない」


「…………分かった。やるよ」


「いい判断だ。もし今、断っていたら殺していた」


「期限は?」


「あの穴が閉じるまで。閉じたらゲームオーバー。いつ閉じるかは、俺含め誰にも分からない」


………………………。

………………。

…………。



男が消えた店内で、一口も飲んでいなかったミルクをイッキ飲みした。



やるよ。


そして必ず、サラを取り戻す。


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