第7話 穏やかな日常

甘い甘い殺し屋時代。

乾く前に新たな血で手が赤く染まる毎日。


そんな血生臭い毎日を送っていた僕は偶然、町でサラを発見した。なぜか僕のことは全く覚えていなかったけどね。でも、そんなことは些細なこと。どうでも良かった。会えた喜びの方が、はるかに大きい。


もう二度とこの女を失いたくない。それだけ。


………………………………。

……………………。

…………。


殺し屋を引退して二年。今は、ボロアパートでサラと二人で幸せに暮らしている。

初めてアルバイトにも挑戦し、毎日社員さんに怒られながら何とか仕事を続けている。


昼休み。作業着の繋ぎ姿のまま、唯一の楽しみであるサラの手作り弁当を公園のベンチに座り、食べていた。


その時、日陰から誰かの視線を感じた。



「隠れてないで出てきなよ。エム」


「…………どうして分かったん? 気配は消していたのに」


細い木の影から黒のワンピースを着た少女が姿を現した。


「引退しても勘はある程度働くし。それにエムの匂いがしたから」


「にッ!? 匂いって。そ、そ、そんなに臭い? お風呂入ったのに。えぇ、嘘。もう帰るッ!」


「いや、そういう嫌な匂いじゃなくて。何て言うか、どこか懐かして安心する匂い」


「………バカ」


なぜか上機嫌なエムは、ドカッと僕の隣に座った。珍しそうに僕の腕に抱かれた弁当箱を覗き込んでいる。


「卵焼き食べる? 美味しいよ」


「フンッ! そんなのいらないもん。カップ麺あるし」


いつの間にか、エムの手には小さなカップ麺が一つ。美味しそうな魚介の香りがした。僕は、腕時計で昼休みの残り時間を確認すると、急いでご飯を口に放り込んだ。


食事を終え、立ち上がった僕に。


「やけに幸せそうだな……。ムカつく」


「うん、幸せだよ。またね、エム。これから仕事だからさ。遅れると怒られる」


…………………………。

…………………。

……………。




一人だけになった公園に少女の悲しい声が響いた。


「ほんと……ムカつく」


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