第15話 送り届けて

 時刻は、午後9時から少し過ぎたぐらい。


 そろそろ、彼女たちを家に戻さないとな。俺は、陽菜乃と千尋の2人を自宅に送り届けるために、テレビの電源を切ってソファーから立ち上がった。この辺りは、特に治安が悪いというわけではないけれども、外は暗くなっているから念の為に家までは送り届ける。それが日課だった。


「そろそろ、家に帰るぞ」

「えー。もうちょっと、ハルトと一緒に居たいのに」


 家まで送ると告げると、渋り始める千尋。ソファーの上で横になったまま、身体の力を抜いたように緩んでいる。立ち上がる様子はない。


「ほら。遅くなったら親御さんが心配するから。帰るぞ」

「うー、もう。仕方ないなぁ……」


 横になっている千尋の腕を引っ張り、無理矢理ソファーから立ち上がらせた。顔は嫌そうだ。俺も一緒に居たいという気持ちはあるけれど、夜遅くなると彼女の両親が心配してしまうから帰さないと。


「はい。ちーちゃんの荷物」

「ありがとう、ひなちゃん」


 既に家を出る準備をしていた陽菜乃が、ソファーから立ち上がった千尋にカバンを運んで手渡す。これで、すぐに家から出られる。


 俺は部屋着のまま、陽菜乃も白いシャツに膝丈スカートというカジュアルな格好。千尋だけ部活帰りなので、制服姿のまま学生カバンを肩に掛けて家を出る。




「それじゃあ、また明日」

「おう。ゆっくり休めよ」

「バイバイ、ひなちゃん」

「じゃあね、ちーちゃん」


 陽菜乃は家が隣なので、すぐ別れることになった。別れを告げながら手を振って、家の中に入っていく彼女を見送る。後は、千尋を家まで送り届けるだけ。


「じゃあ、行くか」

「うん」


 彼女の家がある場所は近くて、ここから5分ほど歩くだけの距離だった。そこまで送っていく。


「ふんふ~ん♪」


 2人で住宅街の夜道を歩く。千尋は、俺の横で楽しそうに鼻歌を歌っていた。家を出るときは渋っていたが、もう機嫌が良くなっている。俺は黙ったまま、彼女の横を歩いていた。2人の間に会話は無いけれど、嫌な雰囲気ではない。


「もう、着いちゃった」

「そうだな」

「ねぇ。ちょっとだけ手、貸して?」

「手? いいぞ」


 そう言われて俺は、千尋に向けて手を差し伸べた。すると彼女は両手で、ギュッと握ってくる。痛くはないが、どういう意図なのだろうか。少し暖かな体温を感じる、彼女の手の感触。


「ありがとう。じゃあ、また明日ね」

「ん? あぁ、また明日」


 いきなりパッと手を離すと、さっさと家の中に入って見えなくなった。手を握ったのは単純に、触れ合いたいだけだったのかな。


 まぁいっか、と俺は1人で来た道を戻って家に帰ってきた。1人だけだど、広々とした一軒家である。とても静かだった。


 とりあえず、風呂でも入ろうかな。

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