第14話 今朝の約束

 夕飯を済ませると、朝と同じように食器の片付けは俺と千尋の2人が請け負う。


 食器洗い洗剤をつけてると、ちょっとだけスポンジが硬さを失っていることに気が付く。泡立ちも悪くなっている。そろそろ、替え時かな。


「このスポンジ、悪くなってる。交換用の予備、ってあったっけ?」

「えっと、確か……。予備は、そっちの上の棚にあると思う」


 陽菜乃に聞いてみると、すぐ答えが返ってきた。俺よりも、家のキッチンについて把握している。


「えーっと、どれどれ?」

「あった。そこにあるよ、ハルト」

「ん? あぁ、これか」


 棚を開けて探していると、千尋に指摘されて予備のスポンジを発見した。古い方を捨てて、新しいのに交換しよう。スポンジは、燃やせないごみだったかな。


「あ、ちょっと捨てるのは待って。掃除用に使うから」

「あぁ、そうか」


 捨てようとすると、陽菜乃から待ったが掛かった。言われてから思い出す。いつも劣化したあとのスポンジを、他の用途に使っていたな。今回は、掃除用に再利用するらしい。本当に、家のことを色々と気遣ってくれる陽菜乃だった。




 夕食後の片付けも終わって、3人でリビングのソファーに並んで座る。右に千尋、左に陽菜乃が座っていた。テレビを眺めたり喋ったりしている。そんな、まったりとした時間を過ごしていた。


 俺たちが見ているチャンネルは、音楽番組が放送されていた。すごく流行っているらしい歌が流れている。


「いい曲だな」

「そうね」

「ねぇ、皆で今度カラオケに行こうよ」


 一言だけ感想を述べると、陽菜乃が小さく頷いて同意してくれた。そして千尋は、カラオケに行きたいと語る。


「行くとしても、試験が終わってからだろうな」

「うぅ、勉強かぁ……苦手だなぁ」


 千尋は、頭が悪いわけじゃないのに勉強に対して苦手意識が強かった。しっかりと集中して勉強すれば、学年上位を狙えると思うんだけど。


「赤単を取ったら、陸上の大会に出られないんでしょ? ちゃんと勉強しないと」

「そうなんだよねぇ。2人とも! また、勉強会をお願い」

「わかった」

「うん」


 集まれる人を家に集めて、皆で勉強会を行うのは試験前の恒例だった。俺は、1人だけだと試験勉強をサボってしまう。だからサボらないように、他の人たちと一緒に勉強して、見張ってもらう。そうやって俺は毎回、試験勉強を頑張って学年で上位の順位に入ることが出来ていた。


「じゃあ、気合を入れるためにも今朝の約束を果たしてよ」

「今朝の約束って……、あぁ」


 そういえば今朝、千尋と約束をしていた。舌を絡めたディープなキスをすると。


「いま、してくれる?」


 約束してしまったから、ちゃんと果たさないとな。タイミングも、今が良さそう。美少女とキス出来るんだから、俺も嬉しいし。


「わかった。おいで」

「うん!」


 手招きすると彼女は、嬉しそうな表情を浮かべて俺のすぐそばに座り直した。顔を覗き込んでくる。顔を寄せ合うと、すぐにキスできる距離だ。


「それじゃあ、今朝の約束の分ね」

「ん」


 ソファーに座ったまま顔を近づけ唇を重ね合わせてから舌を絡めた、濃厚なキスをする。


「はい、終わり」

「……うん」


 顔を離すと、千尋は目を細めてうっとりとした表情。もうちょっと要求されるかと思ったが、意外と彼女は満足してくれたようだ。


「じゃあ、今度は陽菜乃」

「はい」


 左側でおとなしく座っていた彼女とも、もちろんディープキスをする。千尋の話によると、陽菜乃も濃厚なキスをしたいと言っていたらしいし。


 名前を呼ぶと、待ってましたと言わんばかりに身体を寄せてくる。頬を赤くして、待ち構えていた。


「んっ」


 恥ずかしながら、顔を近寄らせてくる陽菜乃の腰を抱き寄せる。彼女の身体は軽くて、スッと俺の胸に密着した。そして、キスをする。舌で彼女の唇を開き、口の中にねじ込む。しばらく堪能して、顔を離した。


「はい、陽菜乃も終わりね」


 これ以上の行為は、まだ致さない。もう少し大人になってからだと自分を制する。あっさりとしたような態度で振る舞っているけれど、かなり努力している。このまま先には進まないように、俺は必死だった。




「うーん、この歌も良いなぁ。カラオケ行くんだったら、歌えるように練習したい」

「……」

「……」


 キスした後、しばらく2人は沈黙していた。3人で黙ったままテレビを見ている。俺を挟んで左右に座っている彼女たちの表情を横目でチラッチラッと眺めてみると、満足してくれたようだから良かった。

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