第9話 ナンパ男たち

「ねぇねぇ、お姉ちゃん。いまひま~?」

「俺たちと、一緒に遊ぼうよ~!」

「……」


 約束をした駅前に来ると、男2人に挟まれている亜寿華あすかを見つけた。ナンパされている。目線も合わせずに、手元のスマホだけ眺めている彼女。黙ってやり過ごそうと無視しているのに、男たちはしつこく絡んでいた。


 この辺、こういうのが多いから心配だったけれど、まさか本当にナンパされているとは。しかも、ちょっと厄介そうだな。俺は早足で、亜寿華のもとに近寄っていく。ナンパ男の対処には、少しばかり慣れている。


「おい」

「ア?」

「なんだよ」


 俺が声を掛けると、男2人がコチラに振り向く。チャラチャラした男たちだった。彼らの間に、俺は身体を割り込ませた。


「あっ、ハルト!」

「この子、俺の彼女なんで。他を当たってくれる?」


 にこりと微笑んで、亜寿華の身体を抱き寄せた。彼女は、嬉しそうな声を上げる。それを見た男たちが一瞬、ケンカしそうな雰囲気を醸し出してきた。やる気なのか。そんな反応をする男たちを、俺はジロリと睨む。それだけで、向こうは怯んでいた。


「ケッ!」

「彼氏持ちかよ。ったくよ」


 悪態をつきながら、男たちは去っていった。ケンカせずに済んで良かった。


「ここら辺り、ナンパが多いからなぁ。店の中に入って待ってたら良かったのに」

「えー、でも待つだけなのにお金が勿体ないし。まだ明るいから、大丈夫かなって」

「本当に危ないから、気をつけろよな。カワイイんだから、変な男に目を付けられて絡まれるぞ」


 亜寿華は友だちの影響で、派手なファッションやメイクをしている。金髪の毛に、日焼けした肌。丈の短い制服のスカートなど。見た目で遊んでいると思われるような格好をしていた。実は、そんなことないのに。


 ナンパしてきた男たちも、彼女のような女の子は声をかけやすいんだろうと思う。しかもカワイイし、あわよくばを狙って。


「う、うん。そっか……、わかった。今度から気をつけるね!」

「よし」


 分かってくれたようだから、それ以上は言わない。気持ちを切り替えて、これから亜寿華とデートを楽しむ。


「それで、どこに行く?」

「えっとね。前に言ってたお店に、洋服を見に行きたいかな」

「わかった。行こうか」


 亜寿華は横に立ち、スルリと腕を絡ませてくる。俺たちは、お店があるデパートに向かって歩き始めた。




 南条亜寿華とは去年、アルバイト先で知り合った。俺が運動部を辞めて、次に何をやろうかと色々取り組んでいる時である。とりあえずアルバイトでもしてみようかと思って、何件か履歴書を送って面接してもらった。その中の1つに、カフェの店員があって働き始めた。そのカフェで知り合ったのが、彼女である。


 俺よりも年が1つ上だった彼女に業務について色々と教えてもらい、お礼にご飯をおごったりして、すぐ親しくなった。もうバイトは辞めてしまったけれど、彼女との関係だけは続いていた。

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