第7話 教室での会話

「おはよー」

「うん。おはよう」


 教室に入ると、目が合ったクラスメートたちが声を掛けてくれるので笑顔で挨拶を返していく。何人かと挨拶を交わしてから、自分の席に座った。


「おいおい、ハルト! 今日もモテモテだなぁ!」

「おはよう、ノブオ」


 斜め前の席に座っている丸崎信雄まるさきのぶおが俺の席に椅子を寄せてきて、ウキウキしながら話しかけてきた。モテモテ、というのは教室の前で後輩の千鶴との様子を見ていたのだろう。普通にスルーして、朝の挨拶をする。


「羨ましいなぁ。後輩からもモテモテでなぁ!」

「そんなに妬むなよ」


 今日は、やけに突っかかってくる。信雄は、鋭い視線で俺を睨んできた。カバンを机の横に吊り下げて、教科書とノート、筆記用具を取り出した。授業を受ける準備をする。


「俺も、女にモテたいのになぁ。どうしたら、お前みたいにモテるんだ?」

「さぁ? 普通に過ごしてたら、親しくなったからなぁ」

「はぁ……、これだからモテる男は……」


 ため息をついて、俺の机の上に突っ伏す。かなり邪魔だった。


「おい。授業が始まるから、自分の席に戻れよ」

「あぁ、羨ましい……羨ましいぃぃぃ……」


 これは俺が何を言っても、噛み付いてきそうだな。しばらく彼を放置して、授業が始まるのを待つしか無いか。


「聞いてくれよ」

「ん? どうした」


 信雄は机に突っ伏したまま、頭を少しだけ上げて俺に視線を向けてくる。何を言うつもりだろうか。


「昨日、告白したんだよ」

「あぁ、そういえば言ってたな。結果は?」


 周りに聞こえないような小声で、信雄は言った。そういえば少し前に、彼から相談されていたのを思い出した。これで何度目か分からないけれど、信雄は何度も告白を繰り返して、失敗を積み重ねてきた。今回の結果は、どうだったのか。


「ダメだった」

「あー、……ドンマイ」


 一言、彼は辛そうに報告してくれた。今回も、ダメだったのか。とても残念だな。なんとも言えない。とりあえず俺は一言、信雄に励ましのエールを贈った。


「隣のクラスのりんちゃんは、他に好きな人が居るんだって」

「なるほど。告白した相手は、彼女か」


 クラスのマドンナ的存在の1人だった。それは、高望みし過ぎなんだろうと思う。定番の理由で、告白を断られたらしい。こう言ってはなんだけど、信雄にはもう少し身の丈にあった相手がいるはず。そんな相手と出逢って魅力に気付いてもらえたら、すぐ彼女になってくれるだろうに。告白する行動力もあるんだから。


「なぁ。この前みたいにまた、俺と付き合ってくれそうな女性を紹介してくれよぉ。ハルトは、女の友だちが多いだろう?」

「いやいや。この前、何人か紹介しただろ」

「確かに紹介してもらったけど、ギャルはちょっとなぁ」

「はぁ……。お前なぁ」


 俺が親しくしている女性経由で、既に何人か紹介してもらった。なのに、コイツは好みじゃないからと誘いを断りやがった。相手に申し訳なかったから、紹介した俺がコイツの代わりに謝った。彼女たちは優しく、許してくれたけど。


「俺には、もう少し清楚で処女っぽい相手が良いんだけど」

「そんな事を言ってるから、いつまで経っても彼女が出来ないんだよ」


 そういう事を真顔で言うから、男性に慣れていないような子を紹介するのは避けたというのに。それが好みなんだろうけど、相手には隠したり遠慮するべきだ。


「選り好みせずに、まずは一回。紹介した子と付き合ってみろって。な」

「えー」


 不満そうな表情。これは、ダメそうだった。しばらく、信雄に彼女が出来ることは無さそうだな。


 そんな会話をしている間に、教室に先生が来たので信雄は不服そうな表情のまま、自分の席へと戻った。朝のホームルームが行われて、一時限目の授業が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る