第10話 魔王の強襲

 発明王が繰り出してきたロボット三体を見事撃破し、飛空艇製造の約束を取り付けた一行でしたが、すぐには出来上がらないということなので、仕方なく一旦、ゴゴの町へと戻ることにしました。

 発明王の家を出て、すこし歩いた頃、地震が起こりました。地面や空気の震えは何かとても嫌なことが起きる前触れのように感じられました。さいわい、発明王の家やその周辺に被害は無かったので、一行は地震が収まった後、再び歩き出しました。ロボットたちとの戦闘で疲弊していたので、今はただ、爆弾ロックに出遭わない事だけを祈りながら帰路を進みました。幸運にも爆弾ロックは現れず、ブラックスライムとマンドレイクの死体をいくつか増やしただけでした。

 ゴゴの町に戻ってみると、先ほどの地震の影響なのか、城壁のレンガが欠けていたり、石道の石畳ひび割れていたりしていました。崩壊している民家もありました。町に戻ってくる途中の道では被害は特に見られなかったのに、どうして街の中だけがこんなにも被害を受けているのかが不思議に思われました。

 さらに、噴水広場には人だかりができて、なんだか騒がしい事になっていました。騒然とした人ごみをかき分けて噴水まで近づき、そこで目にしたのは、無残にも破壊され、血で真っ赤に染まった噴水と、恐ろしげなモンスターの姿でした。その光景をさらに恐ろしくしていたのは、そのモンスターが首を刈られ、死んでいたということでした。そのモンスターはゴルゴンでした。たとえ死体でも、のぶおにはモンスターの名前がわかるのです。

 近くにいた人に話しかけると「なんということじゃ、街のシンボルの噴水が破壊されてしもうた」と言いました。別の人に話しかけると「空からモンスターがやってきて、それを追うようにこのモンスターがやってきたんだ」と言いました。その隣の女に話しかけると、「剣で首を斬ったの。一瞬の出来事だったわ」と言いました。

 のぶおたち三人はこのゴルゴンについて知っているわけではありませんでしたが、その相貌と大きさから、自分たちが今まで戦ってきたモンスターとは明らかに違う次元の強さを備えていたであろうことはすぐに分かりました。そして、何者かわからないもう一匹のモンスターが、このゴルゴンを一撃で仕留めてしまったことが、さらに恐怖を倍加させました。最初は、ギジプトの市街地を燃やしつくしたのと同じく、また魔王の仕業のようにも思えましたが、魔王に対してこのような凶暴なモンスターが襲い掛かり、魔王が逆に殺してしまったのか、どうしてものぶおには理解ができませんでした。


 ゴルゴンの血の匂いを敏感に感じ取ったガーゴイルたちがどこからともなく上空に集まってきて、ロボットとの戦闘でもはや疲労困憊ののぶおたちでしたが、逃げ惑う街の人々を無視するわけにもいかず、準備もできぬまま、なし崩し的に戦闘に突入しました。

 ガーゴイルは真っ黒な全身に細長い手足と大きな翼を持ち、目は大きく真っ赤で、耳の辺りまで割けた口には鋭い牙が光りました。素早くひらひらと空中を浮遊し、爪で引っ掻いてきたり、噛みついてきたりするのも厄介でしたが、なによりも厄介なのは即死する魔法を使ってくる事でした。のぶおやヨハンは何度も即死しました。マリがなんとかリバイブの魔法で復活させました。時には、もうすぐ即死するだろうと予想してあらかじめ魔法を詠唱し始めて置き、即死してすぐに復活させたりもしました。

 のぶおが装備している雷鳴刀は斬りつけて攻撃するだけでなく、天に向けて振りかざすと、周囲に幾筋もの稲妻が走りました。稲妻はガーゴイル全員にダメージを与え、さらに電流の力によって体を痺れさせることでひらひらと動き回るガーゴイルの素早さを抑制することができました。

 三人ともぼろぼろになりながらもなんとかガーゴイルの群れを退治して、街はやっと平穏を取り戻し、のぶおたちは宿屋へと向かいました。もはや全身傷だらけ、自分の血とモンスターの血が混じりあって全身にこびりついている異様な見た目でしたが、宿屋の主人はいつもと同じように、「いらっしゃいませ、お泊りですか」というだけで、他の客と同じように接客しました。まるで感情というものがないかのような振る舞いでした。


 相変わらず、どんな大けがをしても、死んでいない限りは宿で一晩眠れば全快するのがこの世界の理です。きれいさっぱり復活した三人は宿を出て、今後の予定が定まっていないので、することがありませんでした。発明王がいつになれば飛空艇を完成させるのかもはっきりしておらず、完成したからと言って連絡がくる手はずにもなっておらず、この街をぶらぶらするにも、もうすべての店と民家を訪ねてしまったのでやることはありません。住民の声を指針にして行動してきた三人にとっては自由に行動してもよいとなっても、戸惑ってしまい、逆にストレスでした。街にとどまっても時間は進まず、三人は街を出て海岸沿いを南東へと下っていきました。

 時々出遭うモンスターを蹴散らしながら進んでいくと、小さな集落を発見しました。ストラの村でした。集落は住人数十人程度で、民家や掘っ立て小屋が十軒ほどあるだけでした。外を歩いていた村人に話しかけると「ここはストラの村だ。お前も一流のシーフになるためにやってきたのかい?」と言いました。どうやらこの村は、その質素な外観からは想像できませんが、卓越したシーフの技術をもつ人が集まって生活している場所だったのです。

 シーフとは盗賊の事です。この世界においても他人から物を盗むことは犯罪ですが、法に抵触しない活用の仕方も含めて、その技術はシーフ達に伝承されてきました。イルバートがモンスターからアイテムを盗み出すのもシーフの特技のひとつです。本人は明かしていませんが、もしかすると彼もシーフの血を引く者なのかもしれません。のぶおが民家の箪笥の中を調べてやくそうなどを拝借することは、犯罪でしょうか。逮捕されないからと言って合法とは限りません。怖がった住民が通報していないだけかもしれないからです。

 のぶおの手癖の悪さについてははともかくとして、このような村落にイルバートといっしょに来れなかったのが残念でしたが、シーフの村というものがあること自体が、のぶおにとってイルバートがシーフの末裔であることの証左であり、武器屋や防具屋に三人には装備できない武器や防具が売られているなら、それはイルバートが装備できる商品であると判断したのぶおは、イルバートのために、シーフ専用の装備を購入しました。

 さらに、民家に押し入って住民の話を聞いてみると、その男は鍵開けのスペシャリストで、世界中のどんな鍵でも開けることができると豪語しました。男によれば、ギジプトの大ピラミッドの地下に隠されているマジックメタルという金属があればあらゆる扉を開けることのできる鍵を作ることができると言いました。男は「あのピラミッドの地下には恐ろしいモンスターがうようよしてやがる。もし行くんなら、これを一階の階段の前で使えば地下への隠し扉が開くぜ」と行って黒水晶を渡してくれました。

 のぶおは「今からもう一回ギジプトまで戻るのか。めんどくさいなあ」という声を聞いたような気もしましたが、どんな扉でも開けることのできる鍵は魅力的で、さらに飛空艇が完成するまでの間、やることもなく、さらに、強いモンスターと戦うことに興味を持ち始めていたので、再び大ピラミッドまで歩いて向かうことにしました。


 ストラの村から延々と長い距離を歩き、途中で立ち寄ってみたギジプトの街は燃やし尽くされたまま、いまだに復興していませんでしたが、かろうじてテントで営業していた宿屋で、一行は休ませてもらうことにしました。こんな状況で営業する宿屋の商魂とホスピタリティに感服する一行でした。宿屋のテントの隣には道具屋の主人が青空市を開いており、幸運にも火の手から逃れたわずかばかりの商品を販売していました。ピラミッド探索に必要そうなアイテムを購入し、さらに、たいまつという初めて見るアイテムもありましたが、これは特に必要なさそうだったので購入しませんでした。

 再び訪れた大ピラミッドの一階、前回は上へと続く階段をそのまま真っすぐ進んだ場所の床によくみるとサッツ芋ほどの大きさの窪みがあり、そこに鍵開け職人から渡された黒水晶を嵌め込んでみると、床の一区画が轟音とともにせり上がり、立方体の巨石がそのまま空中に浮かび静止しました。ポッカリと空いた床の穴を覗き込むと、地下へと続く階段があり、三人は階段を降りて地下へと向かいました。

 ピラミッドの地下は真っ暗で何も見えませんでした。その時になって、のぶおは先程ギジプトの道具屋で見たたいまつのことを思い出して、買っておけばよかったと後悔しました。面倒ではありましたが、この暗さでは前に進むこともままならず、仕方なく一旦退却し、ギジプトまで戻って、たいまつを数本買い込みました。道具屋に見慣れぬアイテムが売られているということは近々必要になるはずである、という経験則を失念してしまっていた自分を責めました。

 ストレスのたまる無駄な往復を経て、やっと潜り込んだピラミッドの地下は、まさにモンスターの巣窟でした。魔法を駆使するブラックシャドウ、噛み付いてこちらの体力を吸収してしまうゾンビー、包帯でぐるぐる巻きのマミーとメイジマミー、天井からぶら下がる巨大なひとつ目モンスターのビッグアイ、さらに宝箱がモンスター化したトラップなど、次から次へとモンスターが襲いかかってきました。

 地下は深くまで続いており、階を下るごとにモンスターは強さを増していきました。身の危険を感じた一行は地下三階まで下ったところで撤退を決めました。今の自分たちには到底敵わないレベルのモンスターだと感じたからです。マジックメタルの事は気になりましたが、今は諦めることにしました。

 得るものもなく、余ったたいまつはひとつ10ゴールドで道具屋に売り払い、もうそろそろ完成している頃だろうと思い、一行はゴゴの町で一泊した後、発明家の家に向かいました。

 中に入ると、発明家は待ち構えていたかのように「おー、お前たちか。待っておったぞ。望みのものは完成しておる。外に出るがよいぞ。こっちじゃ」と言いました。発明家に連れられて、勝手口から家の裏庭に出ると、そこには艶めかしい光沢を放つ金属製の飛空艇がありました。「軽量で耐熱性に優れた合金でできておる。この合金をこれだけの大きさで成形できるのはゴゴの町の職人だけじゃよん」と発明家は飛空艇の説明をしてくれました。さらに「この飛空艇は短距離用じゃ。ここからジャングル島の往復ほどしか飛ぶことはできん。くれぐれも燃料切れには気を付けるんじゃよい」と言いました。

 のぶおたちは発明家に礼を言うと早速飛空艇に乗り込みました。飛空艇はリシアーの町の宿屋のバスタブをひっくり返したような形をしていました。垂直離着陸が可能で、滑走路は不要なので、この発明家の家の裏庭からダイレクトに出発することができました。飛空艇が浮上するとどこからともなく軽快な音楽が流れました。

 十字キーで移動します。Aボタンで離陸と着陸を行います。Bボタンを押しながら十字キーを押すと高速移動が可能です。高い山は越えることができません。もう一度説明を聞きますか?

 のぶおは「いいえ」と答えて、空へと飛び立ち、ガルーダとイルバートがいるであろうジャングル島へといざ向かったのでした。


 * * *


 ゴゴの町に滞在する勇者たちを狙ってザラもギジプトから東へ向かったようだ、というジェイマからの報せを受けて、カールは、これまでの思索の逡巡を絶ち、もはやこれ以上の猶予は不要であると決断して、ゴルゴンをゴゴの町に召喚することにした。

 ゴルゴンは、ザラがオスティアの入り江に召喚したシーサーペントと同じく神話界に住む伝説のモンスターである。太古の時代に、あまりに強くなりすぎた十数種類のモンスターに対して、人類の滅亡とこの世界の崩壊の危機を抱いた人間は、敵対するのではなく、逆に崇拝することで自分たちにとってそのモンスター達を神格化した。モンスターを神獣として扱うことで、この世界から別の世界、すなわち神話界へと送り込み、そしてそのまま封印したのである。

 具体的に、どのようにして凶暴なモンスターを神話の世界へと送り込んだのか、その詳細な方法は有史以前の出来事であり、もはやそれ自体が神話の一部と化しているので現在の人間の誰は知らない。神が最初にいて人間が崇拝する関係を転倒させ、人間が崇拝することで対象を神獣にしてしまうなどというやり方が本当に可能であるのかどうか、今となっては証明は難しい。存在として神獣であるからこそ崇拝されるのであって、崇拝されたからと言って神獣になるのかどうかについて判断することは、現在の人間には不可知の領域である。

 いずれにせよ、そんな、常識や力が通用しない神話界のモンスターの中でも、特に凶暴で卓越した魔力を誇る、トップクラスに位置するモンスターがゴルゴンである。

 ゴルゴンは獣のような体躯をしており背中には金色に輝く羽が生えていて、自由自在に空中を、さらに時間をも行き来すると言われている。巨体の頭部には髪ではなく無数の蛇が生えており、大きく開く口には鋭く長い牙が並び、時空を喰らう。その魔力は強く、目を見ただけで誰もが全身を石にされてしまうという。さらに、強靭な四肢が穿つ穴は地底深くまで続くとされている。

 カールは、こんな異次元のモンスターを、ザラを襲わせるために、人間が住む街の上空に召喚すると決めたのである。コントロールを誤れば、自分の下した決断によって、ギジプトに続いてまた街が破壊されてしまう。あえて、そんなリスクを負ってでも、今のうちにザラの行く手を阻まねばならないとカールは考えのである。あの時、自らの迷いによって生きながらえさせてしまった我が息子の命を、ここで奪わなければ、カールが紡いできた物語は遅かれ早かれ破綻してしまう。もはや一刻の猶予もないとカールは危惧した。だからこそ、今打つことのできる最も強力な手を真正面からぶつけることで、カールは、自分の過去の失敗をここで終わらせようと、ゴルゴンにザラを殺すよう命じた。


 ギジプトの市街地をいとも容易く燃やしつくしたザラは、その後に姿を消した。ザラのテレポーテーション能力は空間を瞬間移動できるだけでなく、今いるこの世界とは別の世界に身を隠すこともできるのである。ザラが身を隠している間は魔王であるカールにも居場所を感知することができない驚異の能力であった。

 勇者と魔王とザラの時間と空間が交差し、一直線状に並行した時、どこからともなく再び姿を現したザラは、今度はゴゴの町へと向かった。ジェイマの報告では勇者を追いかけるためにゴゴの町へと向かったと断定されていたが、ザラにしてみれば、勇者がいるかどうかなどそれほど重要ではなかった。こうやってのらりくらりと見つけた街をひとつずつ破壊していけば、正義感溢れるちんけな勇者はいずれ自分の前に現れるだろう。のこのことやってきたら、その時に殺してしまえばよいと考えたのであった。勇者を殺すために、街をいくつ破壊しようとも、何万、何十万の人間が死のうともザラにはどうでもよかった。どうしてかといえば、ザラはモンスターであり、モンスターは純粋な悪であるからである。

 最終的に、勇者を名乗る呑気で馬鹿げた人間一人を殺しさえすれば、神が作り出した、勇者とモンスターとメタモンスターの奇妙な関係など、そこで終わる。それががザラの算段であった。物語のことを考えているのはメタモンスターだけなのである。


 ゴゴの町の上空にやって来たザラはまたも魔法で街ごと焼き尽くそうとした。そこに物語の制約などないから、破壊の方法のバリエーションを考える必要もない。ひたすらに壊せばよいのである。ギジプトよりも人口が一桁少ないゴゴの町であれば、ザラが魔法の名前を頭に思い浮かべる程度でこの世界からきれいさっぱり消し去ってしまえる。気合を入れる必要も、手の動きとともに詠唱する必要もない。世界はザラという異分子に対してあまりにも華奢である。

 その時、背後からザラを狙う姿が出現した。ゴルゴンである。ゴルゴンは全力で勢いをつけて、筋骨隆々の四本の足でザラの背中を蹴り、自分の体もろともそのまま地面に激突させようとした。ところが、ザラはゴルゴンの急襲を予見していたかのように、瞬間的に姿を消した。虚を突かれたゴルゴンは空中で急停止した。その衝撃波だけで民家の屋根瓦が吹き飛んだ。ゴルゴンは辺りを見回したがザラの姿はなく、次いで後ろを振り返ろうとしたその動きよりも先に、ザラはゴルゴンの頭上に現れたかと思うと、躊躇うことなく、肌身離さず持っていたあの細身の剣を上段から大きく振り下ろし、ゴルゴンの首を斬り落としてしまった。断末魔すら出させぬ早業であった。

 たった一撃で絶命したゴルゴンの頭と体は、大量の血を噴き出しながら地面へと落下、ゴゴの町の広場にあった噴水を直撃し、その振動は周囲の石畳までも破壊した。いまだ首から噴き出し続けるゴルゴンの血によって噴水の水は真っ赤に染まった。血しぶきにに触れた通行人は業火の熱さを苦しみ、すぐ死んだ。

 ゴルゴンを追うようにゆっくり地上へと降りてきたザラは、人々の騒乱を気に掛けることもなく、噴水の中に落ちていたゴルゴンの頭の、蛇の頭髪を左手で掴み、自分の顔の高さまで持ち上げた。赤黒い血が斬り口から滴った。ザラはゴルゴンの顔をじっと睨んだ。無言で睨み続けた。死してなお、ゴルゴンの目の石化の魔力はまだわずかに残っており、ザラの背後にいた野次馬たちが灰色の石になった。もちろん、その程度の魔力ではザラには通用せず、ザラはさらにゴルゴンの顔を睨み続けた。

 ザラはゴルゴンの相貌の向こうに父親の顔を見た。カールが、オスティアの入り江でのシーサーペントの件をザラの仕業だと見抜いたのと同じく、同じ神話界のモンスターを自分のもとへ刺客として送り込んでくることのできる者など、魔王以外にいないことをザラも分かっていた。そもそも存在しえない自分という存在を知っているのはカールとその臣下の四人だけ。さらに自分の命を狙うとなれば、裏で糸を引いているのはカール以外に考えられなかった。


 ザラは怒りに震えた。生まれたばかりの自分を山に棄てて殺そうとしたばかりか、今また、こうやって神話界のモンスターを召喚までして自分を始末しようとした父に対する壮絶なる怒りが体から溢れ出そうだった。ザラの怒りの根源、それはすべては神に仕えるメタモンスターゆえの振る舞いに対してであった。怒りは灼熱を左手に宿し、蛇の頭髪を焦がした。

 神とは何様なのか。神に従い、神の言うことを聞くためなら、モンスターとしての悪の自尊心も持たず、神との約束を守るためなら、息子の差し出した助けも無碍に拒絶し、神の求める理想のためならわが子の命をも奪うというのか。かつて、デバッグ山で無限に近い時間をどんな気持ちで過ごしたか。わが身がいつ消滅するとも分からぬ恐怖と何にも頼れぬ孤独と戦い続けたのである。父に我が子を捨てさせた神の教えなどに何の価値があるというのか。これから先もそんな教えを妄信し続けるのならば、もはや父などいらぬ、神などいらぬ。

 父と神への怒りが頂点に達し、ザラは感情を爆発させた。体内に抱えきれなくなった情念を放出させた。その咆哮は空気を震わせ、地面を揺るがし、城壁も民家も崩壊した。

 ザラは決意した。始末をつけてやる。

 取るに足らない勇者のことなど今はどうでもよかった。まずは父とそして神だ。ザラは再び魔王の城へと向かうことにした。

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