第9話 発明王
大ピラミッドから脱出したのぶおはギジプトの町の方角から高く上る黒煙に気が付きました。街に何かあったに違いないと、砂漠に足をもつれさせながらも懸命に走り、大急ぎで戻ってきたのぶおたちが目にしたのは、火の海に包まれるギジプトの市街でした。命からがら、火の手から逃げ延びた住民に話しかけると、「突然モンスターがやってきて……、勇者はどこだと言って、街を焼き尽くしていったのです」と言いました。「魔王だ、魔王がやってきたんだ」とのぶおは言いました。別の住民に話しかけると、「モンスターは彼方へと飛んで行ったんじゃ」と言いました。自分のせいでこんなことになってしまった、自分を探して魔王はこの街を破壊したのだ、とのぶおの心は自責の念と魔王への怒りでいっぱいになりました。
ますます燃え盛る街を前に、のぶおはまだ中に残っている人がいるかもしれないと思い、身の危険をも顧みず、火の粉を払いながら、街の中へと突入していきました。
煙と炎で視界の悪い中を進み、見覚えのある武器屋の通りへ出たのぶおは、倒れてきた木に挟まれて、動けなくなっていた妖精を発見しました。すぐさま駆け寄ったのぶおは妖精に声を掛けました。
「助けに来ました。もう大丈夫ですよ!」
「あなたは、この前お会いした……」
「そうです、さあ、いっしょに逃げましょう」
しかし、大木は重く、のぶおたちの力ではびくともしませんでした。
「私はもうダメです。せっかく月桂樹の葉を手に入れたのに……。旅の人、あなたにお願いがあります。この葉を私の村まで届けてもらえませんか?」
「しかし、そんな。大丈夫、きっと助かります!」
「私が助からなかったとしても、これを、これがあれば村のみんなは助かります。お願いします……」
そういうと妖精はのぶおに月桂樹の葉を渡して、力尽きてしました。火の手はのぶおたちの近くまで迫ってきて、倒れた木にも燃え移り始めました。
「わかりました。必ず村に届けます」
妖精を助けることができず忸怩たる気分でしたが、のぶおはその場を離れ、街から脱出しました。
結果として、大ピラミッドに行く前と戻ってきてからで、計二枚の月桂樹の葉を手に入れました。安全な場所まで戻ってきて冷静を取り戻したのぶおは、月桂樹の葉はピラミッドに行く前に渡してもらっていたことを思い出しました。たった一枚しかないと言っていたはずの葉をどうして二回も渡すことができるのだろうと、のぶおは起こり得るはずのないおかしな出来事に理解が及ばず、明確な答えが出せませんでした。
そうやって考えている間にも、炎の勢いはさらに増していき、あっという間にギジプトの街は燃え尽きて、無彩色の灰燼となってしまいました。
のぶおたちは街を襲った魔王と思われるモンスターの後を追うため、今すぐにでも真っすぐギジプトから東へ向かいたいところでしたが、そのまえに北東方向にあるはずの妖精の村のことがやはり気になり、魔王の事も、イルバートの事も一旦置いておいて、森を抜けて、妖精の村を探してみることにしました。
このあたりの森は、砂漠気候に隣接しているので乾燥しており、植生も背の低い木がまばらに生えているだけで、暗い森のような、旅人の行く手を阻む地形ではありませんでした。けもの道を歩く程度の容易さで歩いていると、モンスターが現れました。殺人アリやパワフルヒヒでした。やがて森を抜けると、そこには草原が広がっており、唯一の手掛かりである北東方向へと進んでいくとまた別のモンスターが現れました。キラーマンティスやヘルカンでした。ヘルカンというのは動物に例えるとカンガルーのようなサイズと形をしていますが、表面は体毛ではなくうろこに覆われた、ドラゴンの遠縁にあたるようなモンスターです。のこぎり状の牙で噛みついてきたり、太い尻尾で叩いてきたりしました。
様々なモンスターの攻撃に耐えつつも歩いていると、やがて小さな集落が見えてきました。そこが妖精の村であろうとなかろうと、のぶおたちは体力的に限界だったので、集落を訪ねることにしました。迎えてくれたのはギジプトの村で出会ったあの妖精と同じ容姿をしたモンスターたちでした。ここが妖精の村だったのです。
のぶおは妖精の村人に、託された月桂樹の葉を渡しました。妖精たちはとても感謝し、「これでこの村の弱っている妖精たちを救うことができます。なんと感謝を申し上げてよいやら」と言いました。
妖精たちは村を救ってくれたお礼にと、妖精の衣、妖精の帽子、フェアリーロッドをくれました。それらはマリにぴったりのサイズで装備してみると、素早く動けるようになり、魔法も強力になった気がしました。妖精は人間よりもずっと小柄なのに、どうして人間サイズの装備があるのか、あるいは妖精サイズの衣や帽子をどうやって人間が装備したのかについては、描写を省くことで装備できたという事実を確定させています。
もう一枚の月桂樹の葉を村人に渡すと、また妖精の衣と妖精の帽子とフェアリーロッドをくれました。しかしどれもマリにしか装備できないので、「後で売れば多少は金になるか」と思いました。
この妖精の村には魔法を自由に操る事の出来る長老がいました。村の北の端にある家に住んでいる長老に話しかけると、
「我々を助けてくれたお礼じゃ。これは我々に伝わる魔法を記した書物。好きなものをひとつ持っていくがよい」
と言って三つの本を差し出してくれました。それぞれ表紙に、ストップ、クイック、リバイブと書いてありました。のぶおは、「どうしてひとつなのか。三つとも持っていかせてくれよ」と誰かが言った声が聞こえた気がしましたが、悩んだ挙句、ストップの本を受け取りました。本をマリが読んでみたところ、マリはストップの魔法を使えるようになりました。「読むだけで使えるようになるのなら、三冊とも読ませてくれたらいいのに」と誰かが言ったような気がして、のぶおはもう一度長老に話しかけてみました。長老は、
「我々を助けてくれたお礼じゃ。これは我々に伝わる魔法の記した書物。好きなものをひとつ持っていくがよい」
と言って二冊の本を見せてくれました。のぶおは一瞬何が起こっているのか理解できませんでしたが、クイックの本を手に取り、マリに渡すと、マリはその場で読んでクイックの魔法を使うことができるようになりました。のぶおはまさかと思いつつ再度長老に話しかけてみると、長老は、
「我々を助けてくれたお礼じゃ。これは我々に伝わる魔法の記した書物。好きなものをひとつ持っていくがよい」
と言って一冊の本を見せてくれました。本にはリバイブと書いてありました。マリがその本を読むとリバイブの魔法を使えるようになりました。のぶおはさらに長老に話しかけると、
「我々を助けてくれたお礼じゃ。これは我々に伝わる魔法の記した書物。好きなものをひとつ持っていくがよい」
と言ってゼロ冊の本を見せてくれました。それ以降長老は反応しなくなりました。妙な胸騒ぎがしたのぶおたちは、家を出て青く光る地面の上に行きました。
妖精の村の宿屋で一泊した後、のぶおたちは妖精の村の周辺をうろうろしました。キラーマンティスやヘルカン以外にも、泥まみれの人の形をしたマッドマンや、高温のガスを吐くフレイムリザードなどが襲い掛かってきて、どれもある程度歯ごたえのある連中で、のぶおたちにとっては自分たちのレベルを上げるための格好の相手となりました。
妖精の村でさらに何泊かし、妖精の村の道具屋で、余っていた装備を売り払い、店にあった貴重そうなアイテムも買い込んだ一行は、魔王が向かったであろうギジプトの東にある街へと向かうことにしました。もはや説明するまでもありませんが、この世界の時計は勇者の行動を基準にして回ります。
妖精の村から一旦南に進み、森を抜けて、海岸線まで辿り着くと、そこから海岸線沿いに東へと向かいました。海岸線は徐々に南東方向へと角度を変えていき、のぶおたちもそれに沿って歩きました。
長い距離を歩いた末に、のぶおたちは街にたどり着きました。街の中に入り、その辺にいた人に話しかけると「ようこそ、ゴゴのまちへ!」と言いました。その隣にいた人に話しかけると「この街は金属加工で有名なんだ」と言いました。
街の中央には円形の広場があり、広場の真ん中には優雅で立派な噴水がありました。噴水はこの街の人々の憩いの場であり、人々は噴水のふちに腰掛けたり、誰かと待ち合わせをしたりと思い思いの時間を過ごしていました。
噴水の近くにいた人に話しかけると、「さっき、上空を鳥のようなモンスターが人間を抱えて南の方角へ飛んで行ったんじゃ。ジャングル島にモンスターの巣でもあるんかのう」と言いました。別の人に話しかけると、「この街から少し歩いたところに一人暮らしのおじいさんがいて発明王と呼ばれているの。でも、気難しい人だからあまり誰も近づかないわ」と言いました。
自分にとっての行動のヒントを街の人が与えてくれるということに慣れてきたのぶおは、この先、ジャングル島へ行くための手段が必要なるので、その発明王と呼ばれている変人の元へ向かうべきなのだろうと推察しました。その予想は概ねあっていました。
その前に、まずは装備の確認です。武器屋では、のぶおのために雷鳴刀を、ヨハンのために水神の槍を買いました。防具屋では、ヨハンのためにミステリウムの鎧を買いました。ヨハンがのぶおと出会って以来ずっと装備してきた黄銅の鎧とはついにお別れです。あっさりと売却し、わずかばかりのゴールドを手に入れました。ミステリウムという素材は黄銅と比べて圧倒的に軽く、そして柔軟性と頑丈さを兼ね備えていました。このような素材を鎧に用いるとは、さすが、金属加工産業で有名な街だけの事はあります。
ゴゴの街から、発明王が住んでいるという小屋までは平坦な草原が続いていました。途中何匹かのモンスターに遭遇しました。爆弾ロックという岩のモンスターは打たれ強く、無心で攻撃し続けていると、突然爆発し、のぶおは瀕死の状態に陥りました。モンスターの中には自爆して相手にダメージを与えるやっかいな種もいるのだと一行は知らされました。爆弾ロックに出会わないようにとドキドキしながら一旦ゴゴに引き返した一行は宿屋でのぶおの体力を回復させたのち、再び小屋へと向かいました。運悪くまた爆弾ロックの、しかも今度は5匹の群れに出くわし、これはまずいと思い、逃げようと試みました。爆弾ロックは球状の岩の見た目とは裏腹に動きは素早く、逃げようとする行く手を阻みました。爆発するなよと願いながらなんどか逃走を試みて、なんとか振り切ることができました。
精神をすり減らしつつやっと辿り着いた小屋は質素な外観でしたが、マットな質感の外壁と屋根は一切錆びているところがなく、特殊な金属のように見えました。今まで見てきた民家とは異質の、普通ではない雰囲気を漂わせていました。ノックもせずに中に入ると、白衣を着た白髪交じりの爺さんが奥におり、のぶおたちの姿を見つけると怒鳴りつけるように「何じゃお前らは、何の用じゃ」と言いました。のぶおは自己紹介もせずに「発明王さんですか」と訪ねました。爺さんは「街の者が勝手にそう呼んどるだけじゃ」とぶっきらぼうに答えました。のぶおは「私たちの仲間がジャングル島へとモンスターに連れ去られてしまったのです。どうにかしてジャングル島に行く方法はありませんか」と唐突に聞きました。爺さんは「ジャングル島じゃと? あそこは船ではたどり着けん。飛空艇が必要じゃ。ま、わしなら作ることができるがな」と言いました。ヨハンが「飛空艇を作っていただけませんか」と聞くと「誰かも知らぬお前たちの願いを聞いているほどわしは暇人でない。お前らの力、試してみるぞい、出でよ、わが子(チルドレン)よ!」と言うと、ロボットが襲い掛かってきました。
ロボットは三体おり、R1号、R2号、R3号という名前が付けられていました。のぶおは相手がモンスターではないのに、相手の名前が分かったのを特に不思議さは感じず、深くは考えませんでしたが、このロボットたちは、発明王が野生のモンスターの細胞を機械に組み込んで作ったバイオロボットだったのです。
ロボットたちは、金属の骨格で作られており、その剛腕で殴りかかってきました。のぶおもヨハンもマリもまとめて吹っ飛ばされました。しかもそんな恐ろしいロボットが三台もいるのですから、たまりません。
ヨハンはロボットの猛攻に屈し、戦闘不能の状態に陥りましたが、マリが妖精の村で覚えたリバイブの魔法によって復活できました。妖精の村に寄り道しておいて正解でした。さらにクイックの魔法を使うことで、行動のスピードが増して、ロボットたちよりも先手先手で攻めることできるようになり、少しずつ戦況を自分たちの方へと手繰り寄せていきました。ストップの魔法はロボットには通用しませんでした。脳や意識や心をもつ有機的な生命体でないと効かないのかもしれません。
のぶおの雷鳴刀は電撃を併せて攻撃し、ヨハンの水神の槍は水撃を併せて攻撃するので、電気と水に弱いロボットには効果的でした。
戦略的な攻撃で主導権を握り、効率よくダメージを与え続けて、ロボット三体を撃破すると、発明王は「ほほー、わしの子(チルドレン)を倒すとは大したもんじゃ。よし、おまえらの願いをきいやるぞい。じゃが、飛行艇を作るには時間がかかる。しばらくしたら、また来るがよい!」と言って、小走りで奥の部屋へと消えていきました。
* * *
ギジプト偵察中のジェイマから届いたテレパスにカールは思わず声を荒げた。
「これは一体どういうことだ」
ギジプトの街が完全に破壊され、火の海と化し、黒煙が濛々と上っているのである。大都市ギジプト規模の街を破壊できるほどの力を持ったモンスターなどごく一部である。カールが仕組んだのでないのだとすれば、自ずと犯人は一人しかいない。カールは直感的に、ザラの仕業だと見抜いた。ここから姿を消した後、カールや臣下たちとは別行動をとり、単独で勇者の命を狙ったのだとカールは考えた。カールは創造主との関係や物語の制約に縛られていたが、ザラにとっては何もかもお構いないに行動ができてしまう。実際、そのとおりであり、勇者を名乗る若者がギジプト周辺にいることをつかんだザラは、躊躇なくギジプトの街を破壊したのだった。勇者が街にいればその場で殺せて好都合、いなくても勇者に対する殺意のメッセージを届けるために、大都市を丸ごと破壊したのである。
予想だにしていなかったザラの暴挙に完全に計画を乱されたカールであったが、イルバートを連れ去り、逃亡したガルーダの事も気がかりであった。ガルーダの後を追わせたケイマからのテレパスによると、ガルーダはギジプトからはるか南東の沖合にあるジャングル島に向かったようであった。
ジャングル島は周囲を広く岩礁に囲まれており、船で近づくことができない。行くとすれば、空から飛んでいくしかない。ガルーダなどの翼を持ったモンスターであれば空を飛んでいくのは容易であるが、勇者たち人間には自分たちの力で空から侵入するのは不可能なので、魔王は何らかの手段を提供する必要があった。そこで、ゴゴの町の郊外にいた独居老人に目を付けた。発明が特技のこの老人であればジャングル島ぐらいまでの距離を飛行する飛空艇であれば作ることができるであろう。そこで、ゴゴの町の住人をコントロールし、勇者に発明家の小屋へ向かわせるためのアドバイスを言わせるようにした。
近頃は、魔王の思惑や考えをモンスターたちは理解し始めており、魔王が事細かに手配を行わなくても、適当な強さのモンスターが勇者に向かうようになってきていた。今回も勇者たちがゴゴの街に向かう前に、妖精の村に立ち寄って装備や魔法を強化するという予想外の行動があったが、それでも、それに合わせて、最初の予定にはなかった強めのモンスター、爆弾ロックが派遣されるなど、モンスターたちも徐々に勇者の強さや行動に合わせて振る舞うことをし始めるようになったのである。魔王としても、もちろん、臣下からの報告によって勇者たちの強さや状態は把握していたが、現地の特性や環境に応じた事細かな手配は完璧には行えないので、モンスターの行動の変化には助かっていた。
発明家と勇者を引き合わせること、つまり、そういう物語を紡ぐこと、は運よく勇者が街人と会話したおかげで上手くいったが、このままあっさりと発明家に飛空艇を作られては平板な物語になってしまう。物語にはリスクとリターンが必要であり、飛空艇というハイリターンを得るためには、勇者たち一行には相応のハイリスクを負ってもらわなければならない。すなわち、なにかしらの強敵と勇者たちを戦わせる必要があった。
独居老人と勇者の出会いにどうやって戦闘を組み合わせるのか。例えば、独居老人をモンスターに襲わせるという方法が考えられる。しかし、老発明家をモンスターに襲わせるにはそれといった大義名分が必要であり、何の目的もなくモンスターを発明家の小屋に向かわせても、意味がない。魔王やモンスターにとって有益な、つまり、それによって世界征服が加速するような兵器や技術を生み出せるほどの高度な発明家であればよかったが、所詮は機械いじりが好きな程度の老人である。しかるに奪うものが何もないのでは、モンスターに襲わせる案は使えなかった。仕方ないので、発明家の心を魔王がコントロールし、急場しのぎで勇者が来るまでに戦闘用ロボットを作らせた。思いのほか、勇者が早くやってきたので結局三台しか間に合わなかったがそれなりに戦闘力の高いロボットができたので、あとは発明家に適当な理由をしゃべらせて、勇者たちとロボットが戦闘するように仕向けた。
これまでずっとモンスターや猛獣などと戦ってきた勇者たちであったから、初めての機械との戦いということになり、物語の変化としても芳しい結果になったのではないかと魔王は思った。
一方で、この先のジャングル島へのモンスターの手配も必要であった。ジャングル島は外界との接触がほとんどない途絶された環境であり、魔王のこれまでの行動もほとんど知れ渡っていない。ジャングル島にどのようなモンスターがおり、行動しているのかを予めて把握し、現地のモンスターに対して魔王とは何者であり、今後何が起きるのかを周知しておく必要があった。
ケイマからの報告によれば、ジャングル島に生息しているモンスターは、サーベルタイガー、マンドラゴラ、ゴクラクチョウ、カメンザルなどであり、今の勇者たちの強さからすればやや強すぎるモンスターばかりであったが、ここ最近順調に進んできている事を考えれば、このぐらいの強さのモンスターをぶつけても勇者たちであればギリギリ乗り得られるのではないかと考えて、外から別のモンスターを送り込むことはせず、島内のモンスターだけで戦力は全て賄うことにした。
ジャングル島は、大昔に起こった海底火山の噴火によってできた火山島であり、いまも島の中心にそびえている名もなき峰は大量のマグマを山体に抱えている活火山であった。どうやらガルーダは冒険者を掴んだままこの山の頂上付近へと向かったようであった。
勇者が様々な冒険を経て、仲間と出会い、幾多の戦闘を繰り返すうちに、少しずつ成長してきていることや、モンスターたちも段々と状況を把握して、自主的に行動し始めていることなどは、神から、勇者と魔王の物語を紡ぐことを使命とされた魔王にとっては正しい方向に進んでいることを示していた。
しかしながら、目下最大の問題はザラであった。自分の過去の決断の不十分さによって生きながらえさせてしまった息子ザラの存在がカールを苦悩させていた。自分や臣下たちのモンスターとしての側面を強烈に意識させることになったザラの言動。実際、ザラが魔王の城にやってきて以来、直接ではないが、臣下たちからも、勇者をただ育てていくことが自分たちにとって本当にやるべきことであるのかという迷いが、言葉の所々からニュアンスとして伝わってきているのがカールには分かっていた。
このままザラを野放しにしておけば、破壊と殺戮を繰り返すことは明らかであった。そうなれば、せっかくここまで積み上げてきた物語が瓦解してしまう。カールは早急に決断をしなければならなかった。
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