第99話 故意のキューピット???

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文庫版4巻発売記念。

11月1日に角川スニーカー文庫より第4巻が発売されます!

今回が最終回!

燈子がなぜ鴨倉と付き合っていたのか、その理由が明らかになります。

ぜひ読んでみて下さい。

https://www.amazon.co.jp/dp/4041136482


なお文庫版とWEB版では、違うお話になっています。

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※ タイトルですが、誤字ではありません!(笑)


「えええっ、石田君って一美の事をそんな風に思っていたの?」


俺が作戦について話し始めた時の、燈子さんの第一声はコレだ。


「どうやらそうだったみたいです。俺も最近知ったばかりなんですが」


「石田君って、一美を女性として見ている雰囲気は無かったんだけど……」


「ですよね~。ドッチかと言うと漫才って言うかコントっていうか、そんな感じで二人でバカ言い合っているみたいで」


燈子さんは何かを考えている様子だった。

それを見て、俺は不安になる。


「燈子さんはどう思いますか? 石田と一美さんって……」


「私は、石田君は友達思いだし律儀だし気配りも出来る。それでいて場を和ませるからイイ人だと思うけど……」


「けど?」


「一美にとってどうかなって思って。二人の様子を見ていると、一美は完全に石田君を後輩としてしか見ていないと思えるの。恋愛対象になるのかな?」


「やっぱり、そう思えますよねぇ」


俺がタメ息を漏らすように言うと、燈子さんは慌てて訂正した。


「でも……彼がそう思ってくれているなら、それはいいニュースだよ! 私も石田君は魅力がある人だと思うし、彼が一美の彼氏になってくれるのなら最高だと思う。きっと私たちとも楽しく過ごせるんじゃないかな? 今の問題も解決するしね」


「じゃあ協力してくれますね?」


「もちろんだよ!」


燈子さんは明るい表情でそう答えてくれた。

良かった。

俺は一人でもこのプランを押し進めるつもりだったが、燈子さんが協力してくれるなら百人力だ。

燈子さんが俺の顔を覗き込んだ。


「それでまずはどうするつもり?」


「最初は二人を舞台に上げる事が必要ですね。まずは石田から」


俺は燈子さんに最初の作戦について説明した。



家に帰った俺は、さっそく石田に電話をした。

こういう時はメールやメッセージより、相手の反応が感じられる電話がいい。


「石田、この次の日曜日、空いているか?」


「ああ、空いているけど」


「じゃあ相模湖の方に行かないか?」


「相模湖? またなんでそんな所に?」


「アソコにはいま話題の巨大アスレチックがあるんだよ。高い所にロープが張ってあって、そこで色んなイベントをクリアするっていうアトラクション。テレビでもよく紹介されているだろ」


「ああ、あれか。面白そうだな。ところで他には誰が行くんだ?」


「燈子さん。だからあとは一美さんを誘おうと思っている」


「男女2対2って訳か?」


「そう。俺と燈子さん、オマエと一美さんって感じだな」


そこで電話の向こうの石田が沈黙した。


「どうした?」


俺が尋ねると、石田が不信感を滲ませた感じで聞いた。


「まさかと思うけど優、オマエ、俺に変な気を回しているんじゃないだろうな?」


ドキッ、鋭いな、コイツ。


「変な気ってなんだよ」


「俺と一美さんをくっつけようとか、そんな話だよ。だったらゴメンだぞ」


見抜かれたか。

だがこれはオマエだけのためじゃない。

一美さんのためでもあるんだ。


「別にそんな事を考えてないって。今までだって四人で遊んでいただろ。その流れだよ」


「それならいいが……前にも言った通り、俺には一美さんと付き合おうとか、そんな事は全然考えてないんだよ」


う~ん、ここまで石田が消極的だとは……これは少しハッパ掛けておいた方がいいかな。


「分かっているよ。あ、でもそう言えば最近、一美さんの周囲をうろつく男がいるらしいぞ」


だまし討ちに近いが、彼氏がいるんだからまるっきりウソという訳でもないだろう。

「うろつく」という言い方も、ある意味で状況を上手く表している。


「そうなのか?」


石田がちょっと焦り気味に聞いて来た。

やっぱり「告白する気はない」と言いつつ、好きな女に近寄ろうとする男がいるとなれば少しは焦るものだ。


「まぁ今の所はハッキリしている訳じゃないけどな。あくまで『そんな影があるかも』って燈子さんが思っている程度だ」


それを聞いて石田が再び沈黙する。


「別に石田がどうしようが俺には関係ないけど、いつまでも同じ関係ってのはないだろう。石田自身が俺にそう言ったよな?」


俺は最後に一押ししておいた。

これでコイツも、少しは前向きに考えるだろう。



同様に一美さんにも電話をする。


「う~ん、次の日曜日か……」


一美さんの第一声もあまり乗り気ではなかった。

だがその反応は予想していた。

だから対策も用意していた。


「ええ、たまにはみんなで一緒に遊びに行くのもいいじゃないですか」


「アタシは別にいいけど……」


おそらくこの前に燈子さんと言い争いになったのを気にしているのだろう。


「これは燈子さんの希望でもあるんですよ。この前、一美さんに言い過ぎたって反省しているんです。だけど本人からは切り出すのは逆に気まずいみたいで。それで俺経由で言って欲しいって頼まれたんです」


「そりゃアタシだって燈子と気まずいままでは嫌だけど」


「だったらいい機会じゃないですか。俺も、燈子さんと一美さんの雰囲気が悪いのは嫌です。自然の中、しかもアスレチックでパァーっと遊べば、気分も晴れて仲直りできるんじゃないですか? 石田も一緒に行くから大丈夫ですよ」


「そうか。石田君も一緒か。だったらあんまり気兼ねする事もないかもな」


お、一美さんもけっこう石田に対して好印象じゃないか。


「良かった! じゃあ予定は空けておいてください。集合場所や時間は後で連絡しますから」


これで役者は揃った。

後は二人の関係がうまく進展してくれればいいのだが。



こうして俺たちはその週末、相模湖にあるテーマパークに向かった。

今回は珍しく電車だ。

普段はよく使う中央線だが、こんな西側まで来たのは初めてだ。


リフトに乗って山頂まで行くと、話題の『ビル五階建てに相当する巨大アスレチック』がある。


「こ、これに登るの?」


燈子さんは早くもビビリ気味だ。

するとすかさず一美さんがこう言った。


「なんだ燈子、怖いのか? じゃあアタシが手を引いてやろうか?」


いやいや、なに言ってんだ、一美さん!

それじゃあ二重の意味でブチ壊しだ。


「待って下さい! それは俺の役目ですよ!」


慌ててそう言った俺に、一美さんは苦笑いを浮かべた。


「そうだったな、悪い悪い。じゃあ燈子は一色君に任せるよ」


不満感が残りながらも、俺は一美さんに宣言した。


「燈子さんは怖いみたいですから、俺たちは後からゆっくり行きます。一美さんは石田と先に行って下さい」


「そうだな。じゃあ石田君、カップルの邪魔をしないようにアタシらは先に行こうか」


「俺もこれはけっこうビビっているんすけどね……」


そう言いながらも石田は一美さんについてアトラクションを登り始めた。

まったく一美さんと来たら……

燈子さんと仲直りしてくれるのは有難いが、こんな所で発揮しなくてもいいのに。



その後も俺たちは二人ずつのペアになって、様々なアトラクションを楽しんだ。

当然、俺と燈子さん、石田と一美さんのペアだ。


最後のシメは大観覧車に乗る。

当然ペアも同じだ。

山頂にある観覧車からはテーマパーク内と相模湖を見渡せる。

富士山の方角に沈もうとする夕陽を見ながら、俺は言った。


「石田と一美さん、これで少しは仲が深まりますかね?」


燈子さんは頬杖をつき、やはり富士山を見つめながら答えた。


「どうなのかな。今日一日だけでは難しいと思うけど」


「けっこう楽しそうにしていたと思うんですけどね」


俺と燈子さんは少し離れた所で二人を観察していたが、いつも通りバカを言い合いながら二人とも楽しんでいたと思う。


「でもあの感じはいつもと同じよね。恋人としての距離が縮まったかって言うと微妙かな」


「やっぱ、そんなすぐには上手くいかないか」


俺がタメ息まじりにそう言うと、燈子さんが窓から視線を外して俺を見た。


「でも何にも効果が無かったとは思わない。一美がいくら今の彼氏を好きだとしても会うたびに辛い目に合っていたら、やっぱり心は離れて行くでしょ。その逆に今はまだ『ただの後輩』としか思えなくても、一緒にいて楽しい相手ならソッチの方に心は動くと思うの」


「まるでかっての俺たちみたいですね」


俺が自嘲的に笑うと、燈子さんは少し不満そうだった。


「私たちの関係はソレとは違うと思うけど……でも裏切った相手を懲らしめるため一緒に協力していく内に、心の距離は縮まっていったって言うのは確かね」


燈子さんは自分の言葉で自分を納得させると、再び窓の外に目を向けた。


「だから……一美もきっと、いつか自分を思ってくれる存在に気づいて欲しいな」



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この続きは、明日投稿予定です・

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