第97話 傷痕
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文庫版4巻発売記念。
11月1日に角川スニーカー文庫より第4巻が発売されます!
今回が最終回!
燈子がなぜ鴨倉と付き合っていたのか、その理由が明らかになります。
ぜひ読んでみて下さい。
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なお文庫版とWEB版では、違うお話になっています。
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四限目の授業が終わり、その日も石田と一緒に帰っていた。
俺たちがJRの改札を通ろうとした時、石田が不思議そうに言った。
「アレ、一美さんじゃね?」
石田の視線の先には、丸の内線の改札口に歩いていく一美さんの姿があった。
「ホントだ、一美さんだな」
「一美さん、なんで丸の内線の方に向かっているんだ?」
確かに疑問だ。
一美さんの最寄り駅はJR総武線の検見川駅だ。
普段は俺たちと同じく、総武線各駅停車で通学している。
何度か一緒になった事もあるから間違いない。
だが俺は一つの事が頭に思い浮かんでいた。
少し前に燈子さんから聞いた話だ。
「一美は中野の方にアパートを借りていて、そこに彼氏が転がり込んでいる」
(もしかして一美さん、彼氏の所に行くつもりなのか?)
俺の足が止まった。
(もし一美さんが彼氏の所に行くつもりなら……)
彼女をこのまま行かせるのは良くないような気がする。
だが自分にも何も出来ない事に気づく。
一美さんは俺には何も話していないし、燈子さんからも口留めされている。
そもそも一美さんが誰と付き合おうと、それに口出しする権利は誰にもない。
俺がここで出来る事なんて何もないのだ。
「おい、優。どうしたんだ、急に立ち止まって」
石田がそう声を掛けて来た。
「あ? いや、別に。何でもない」
俺は視線を前に戻すと、そのままJRの改札を通り抜けた。
(まだ一美さんが彼氏と会うって、決まった訳じゃないんだ)
俺はそう自分を納得させる事にした。
電車に乗った時、石田が再び話し始めた。
「サークルで何か買いに行くものとか、あったっけ?」
「無いと思うけど。どうしてそんな事を聞くんだ?」
「さっき一美さんが丸の内線の方に向かったじゃん。ここから丸の内線に乗るって事は銀座に買い物かなって思ったんだ。新宿ならJRで中央線快速の方が早いだろ」
「ん……そうかもな」
そう言いつつ、俺は別の可能性を考えていた。
(中野なら丸の内線で一本で行けるよな。そうなるとやっぱり……)
そんな不安があったせいか、俺はつい口走ってしまった。
「石田から見て、一美さんってどう思う?」
石田が意表を突かれたような顔をする。
「一美さんかぁ、まぁ信頼できる人ではあるな。性格はサバサバしているし、物事ハッキリさせるし」
(そうだよな。それなのにあの一美さんが、そんなクズ男とズルズル付き合っているなんて……)
「それに美人だよな。スタイルだっていいし。ちょっと男っぽい言動もあるけど、そこがけっこう魅力的なんだよな。時々あの人の仕草にゾクッとする時がある」
(えっ?)
思いがけない発言に、俺は思わず石田の顔を凝視した。
「話しやすいし、今まで周囲には居なかったタイプだ。俺、もしかして燈子先輩より一美さんの方が好みかも」
「オマエ、一美さんの事をそんな風に思っていたの? もしかして気があるのか?」
俺は目を丸くした。
「いや、気があるって言うより、気になるって方が正しいかもしれない。最近、何となくあの人の事を目で追っているような気がする」
石田が照れ臭そうに頭を掻いた。
石田からこんな事を聞くのは初めてだ。
「俺はてっきり、オマエはアニメキャラみたいな女の子にしか興味がないんだと思っていたよ」
「そうだな。自分でもちょっと意外なんだけど」
「今までそんな素振りは見せなかったよな? どっちかと言うと漫才のボケとツッコミ的なノリに見えたけど」
「あの人と話していると、何となくそんな感じになっちゃうんだよ。だからこそ話しやすいし楽しいと感じるのかな」
「一美さんに気持ちを伝えようとは思わなかったのか?」
「そんな気はねーよ。告るとか考えていない。俺は今の一美さんとの関係がいいんだ。こういう友達って言うか、軽い感じでバカを言い合っていられる関係がさ。そこにマジっぽい雰囲気を入れたくないんだよ」
石田はサッパリとした感じで、そう答えた。
(俺が燈子さんとの関係を前に進めたいって言うのとは、全然違う感じなんだな。でもそういう好きって気持ちもアリなのかもな。石田らしいって言えば石田らしいんだけど)
俺はそう思いつつも、一美さんの彼氏の事を考えると憂鬱にならざるをえなかった。
しかしそうとばかりも言っていられない事態が起きていた。
次の日、サークルの集まりで一美さんに会った時だ。
最初にそれに気がついたのは、一美さんと同じ経済学部3年の美奈さんだ。
「あれ、一美。どうしたの? その目の横」
まなみさんがその後に続く。
「本当だ。少し黒ずんでいるみたい。それってアザ?」
その言葉に思わず俺も反応してしまった。
確かにファンデーションで隠してはいるが、左目の横が黒ずんでいる。
一美さんが左目の横に手を添えながら言った。
「あ~、コレ? 昨日、家のドアでぶつけちゃってさ。アザになっちゃったんだよね。カッコ悪いからファンデで誤魔化したんだけど、やっぱ近くで見ると分かるかぁ~」
そう言って彼女は笑っていた。
だけどドアでぶつけたくらいで、あんなアザになろうだろうか?
そもそも目の横なんてぶつけないと思う。
そして何よりも……
燈子さんが隣で心配そうな顔をして一美さんを見つめていた。
(まさかと思うけど、あのアザって彼氏につけられたんじゃ……)
俺の視線に気づいたのか、一美さんがさらに笑いながら言った。
「アタシもけっこうドジだよな~。せっかくの美人が台無しだよ。そう思うだろ、一色君も!」
「はぁ……そうですね」
その時の俺には、それしか返す事ができなかった。
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この続きは明日投稿します。
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