第77話 スキー旅行!行きのバスの中で(前編)

【二巻発売記念】作者よりお詫びとご挨拶

久しぶりの更新になります。

(お待ちいただいた方、大変申し訳ありません)

半年以上も開いてしまいましたが、今でも多くの方にカクヨム版も読んで頂き、

作者としては土下座感謝モノです!

このパートが終わるまで、週イチでは更新して行きたいと思います。


幸いにして書籍版の方も多くの方にお読み頂き、二巻を発売する事ができました。

なおこちらは今までのカクヨム版に続く話となります。

小説版とは全く違う展開になりますので、その点をご了承ください。

(よって書籍版では違う話を楽しめますので、ご購入いただければ幸いです)

今後とも応援よろしくお願い致します。


*******************************************


「HEY、HEY,HEY~♪♪♪」


バスの車内、女の子の歌声が響き渡る。

曲は女性アイドルグループのラブソングだ。

持っているのはハンディタイプのカラオケマイクなので、エコーなどのエフェクトはそれほどではない。

だが歌っている娘はカラオケに相当に慣れているのだろう。

声はよく通るし、かなり上手だ。

声量が大きくても、彼女の歌声は迷惑ではない。

ビブラート、しゃくり、フォール、ロングトーンなども見事に使いこなしている。

問題はその周囲からの声だった。


「イエーーーッツ!」

「ヒューヒュー!」

「ホッノッカちゃぁ~~ん!!!」


蛮声とも言って過言ではない、複数の男子学生の声がシートの後ろから浴びせ掛かって来る。

ハッキリ言って騒音以外の何物でもない。


歌っていた少女……いや、形容が足らないか。

ロングヘアを見事なまでのプラチナ・ブロンドに染めた白ギャル系美少女・桜島炎佳ほのかは、歌い終わると同時に目元で横Vサインを作り、身体をくねらせてポーズを決めた。


「サイコーーー!」

「カワイイよぉ~~~!」

「L・O・V・E、ラブ、ラブ、炎佳!」

「結婚してくれぇぇぇ!」

「アンコール!アンコール!」


そんな罵声を背後に聞きながら、俺は箱に残った五つほどのクッキーに視線を落とした。


「あの……美味しくなかったですか?」


俺の隣の席で、不安そうにそう聞いた女の子(この子もかなり可愛らしい美少女だ)、石田の妹・明華めいかちゃんが俺の顔を覗き込む。


「いや、そんなことないよ。美味しいよ、とっても」


俺は笑顔を作ってそう答えたが、実際には口の中は粉っぽさで一杯だ。

焼き時間が足らなかったのか、クッキーには焼きムラが多く残り、その小麦粉の粉がけっこう残ってしまっていたのだ。

運が悪い事に、俺はバスに飲み物を持ち込んでいなかった。

よって喉に小麦粉が張り付いた感覚が取れないのだ。


「優さん、美味しくなかったら無理して食べなくても……」


そう言った明華ちゃんの悲しそうな顔を見て、「じゃあ残します」とは俺には言えない。

きっと彼女は慣れない手つきで、一生懸命に俺のためにこのクッキーを作ってくれたのだろう。


「いや、本当に美味しいから。そんな心配しないで。全部いただくよ」


俺はそう言って、残り五個のクッキーを無理やり口に押し込んだ。

サービスエリアに着いたら、真っ先に飲み物を買おう……そう思いながら。


「いっしきさぁ~ん!」


そんな俺に、まるでキスでもするかのように首に抱き着いてきたのは、さっきまでノリノリで歌っていた炎佳だ。

明華ちゃんの上に、その抜群のスタイルを投げ出すようにして。


「エンちゃん、重いよ!」


明華ちゃんが口を尖らせる。


「ゴメンゴメン。でももう交代時間を三分も過ぎているでしょ。その分、待ちきれなかったと言う事で」


明華ちゃんと炎佳は「一時間交代で俺の隣に座る」と決めているらしい。

明華ちゃんはしぶしぶ席を立ちあがると、通路の反対側の空いている席に座った。


「ねえねえ、一色さん。どう?アタシの人気っぷりは?」


炎佳は自信満々の笑顔で、俺の首にかじりつきながらそう聞いた。


「すげー、すげー、すげーよ、っと。これでいいか?」


俺は適当な返事と共に、首に回された炎佳の手をほどいた。


「なによぉ~。せっかくアタシが、他の人の『近くに来て』って言う誘いを断って、一色さんの隣に座ってあげているのに!」


炎佳は一気に不満そうな顔をする。

普通の男なら、この娘のこんな表情も「カワイイ」と思ってしまうだろう。

だが俺はコイツの腹黒さを知っている。


「俺はそんな事、一度も頼んでないだろ?」


すると後ろの席の先輩男子たちが一斉に声を上げた。


「炎佳ちゃん!そんな冷たいヤツは放っておいて、コッチに来なよ!」

「そうそう、俺たちとゲームでもしよう!」

「一色、オマエには燈子とうこさんがいるだろうが!」

「美少女姉妹を二人とも独占してるんじゃねぇ!炎佳ちゃんぐらい、コッチに回せ!」

「二人どころじゃないぞ。明華ちゃんも入れれば美少女三人を一色は独占してる!これは富の不平等だ!再分配を求める!」


そんな先輩連中に俺は言い返した。


「別に俺は独占なんてしてませんよ!それから女子をそんなモノみたいに言うのは問題じゃないっすかねえ!」


すると悔しそうな声が後ろからいくつも飛んでくる。


「くっそぉ、一色ばっかりイイ思いしやがって」

「一色、爆発しろ!」

「雪の中に埋めちゃる!」


その後もブツブツ言っているのが聞こえる。

俺は苦笑した。


そんな声を背後に、炎佳は再び両手を俺の肩に掛けるようにした。

ムニュ

十七歳とは思えない豊かなバストが俺の左腕に押し付けられる。

かなりの弾力だ。

そして俺の肩に顎を乗せるような感じで囁いた。


「でもさ、さすがに一色さんも、アタシの事、『惜しいな』って思うようになったんじゃない?」


その吐息が俺の頬にかかる。

だがそんな炎佳から、俺は身をずらした。


「別に。おまえが誰にモテようが、誰にチヤホヤされようが、俺には関係ないよ」


「ん、もう!冷たいんだから!」


俺が身体をずらした事で体勢が不自然になった炎佳は、身体を起こすと改めてシートに座り直した。


「やっぱお姉が相手じゃ、アタシじゃ敵わないって事かな……」


そう寂しそうに呟く。


……少し邪険にし過ぎたかな?……


そんな炎佳の様子を見せらえると、俺としても罪悪感が沸き起こって来る。


「だからそう言うんじゃないって言っただろ。おまえはおまえで十分に魅力的だよ。現にこの一時間足らずで、おまえはこのサークルの多くの男子にモテモテじゃないか」


「ヘタな慰めなんていらないよ!」


炎佳が拗ねたように言う。

マズイ、コイツは気分が落ちる方に向かうと、けっこうトコトン落ち込むタイプだ。

特に姉の燈子さんに対するコンプレックスは大きい。


「慰めじゃないって。俺だっておまえの可愛さは認めている。だけどな、俺はおまえの姉である燈子さんと付き合っているんだ。それなのに妹のおまえと変な雰囲気になる訳にはいかないだろ?」


「アタシの方は、その『変な雰囲気』に持ち込んで、お姉から一色さんを奪いたいんだけどね!」


「デカイ声で言うな!ここはバスの中で、周りに聞こえるだろうが」


「デヘヘ~」


炎佳は自分の頭を「コツン」と叩くマネをしながら、ペロッと舌を出す。

どうやら気分は持ち直したようだ。

そんな炎佳と、通路の向こう側から俺たちの様子をじっと見ている明華ちゃんを見て、俺は今回のスキー合宿までの事を改めて思い出していた。



二月の終わり、俺たちはサークルのスキー合宿に参加していた。

だがここで問題が一つあった。

それは「合宿の参加希望者が、最低予約人数を下回ってしまった」と言う事だ。


この責任の一端は俺にある。

クリスマス・パーティの場で俺と燈子さんは、互いの交際相手・鴨倉とカレンに「二人の浮気の証拠」を突きつけてフルという圧倒的な報復をブチかました。


その結果、カレンと鴨倉はサークルには居られなくなった。

そしてカレンをアイドルのごとく崇めていた男子四人と、鴨倉のファンである女子大の女の子十人以上がサークルを抜けたのだ。


そこで急遽、最低予約人数を満たすための数名を探す事になった。

それを聞きつけたのが、燈子さんの妹である炎佳と、石田の妹である明華ちゃんだ。

二人とも高校二年生で、ちょうどテストが終わった後の休みの期間だと言う。

それで彼女たちが、このスキー合宿に参加する事になったのだが……


俺としては非常に気まずかった。

と言うのは、この一か月ほど前に、俺はこの二人に『恋人立候補宣言』をされていたためだ。


明華ちゃんはまだ解る。

彼女は俺の親友である石田の妹だし、中学の時からの知り合いだ。

そして以前に石田から「明華は優に気がある」という話を(一応)聞いていた。

だが炎佳が「俺の恋人に立候補する」と言い出したのにはビックリした。

何しろ彼女は『俺と燈子さんを別れさせ、明華ちゃんとくっつけるため』に俺に接近したのだ。

そのため、当初は俺の炎佳に対する印象は最悪だった。

彼女は美人局的な罠で俺を脅迫して来たのだ。



……それが何をどう間違ったら、こんな事になるんだ?……

俺は改めて数週間前の事を思い出して、半分呆れた感じで炎佳を見た。

炎佳はスマホをイジっている。

だが俺の視線に気づいたのだろう。

俺の方を見ると、ニコッと笑顔を作る。

俺は思わず、その表情にドキッとしてしまった。

……確かにコイツは普通にみて、とびきりの美少女なんだよな……

俺はそんな思うを打ち消すように、窓の外に目を向けた。

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