第62話 白ギャルの正体(後編)

 ーー前回までのお話ーー

 一色優が出会った白ギャル系美少女。

 だが白ギャルは巧みに優を誘いこみ、「彼女がセクハラをされている写真」をデッチ上げた。

 白ギャルは「自分は燈子の妹、桜島炎佳だ」と正体を明かす。

 彼女の要求は2つあり、その一つ目は

 「燈子と別れろ」と迫る。

 ……



「ただ別れろって言っている訳じゃない。他に彼女を作ればいいじゃない。それはアタシが責任を持って面倒見るよ」


「オマエ、そんなに簡単に……」


「大丈夫だよ。それにこれが二つ目の要求」


 ……何が要求だって?……


 俺は疑惑の目で見つめていると、炎佳は言った。


「一色さんは、『石田明華』と付き合う事!」


「ハアッツ?」


 今度は掛け値なしに、大きな疑問の声が出た。

 なぜここで明華ちゃんの名前が出てくる?

 そんな俺を見て、炎佳がおかしそうに笑う。


「そんなに驚かないでよ。アタシ達、中学から同級なんだ。勿論、高校も一緒だよ。それで明華からよく一色さんの話は聞いていたから」


 俺は唖然としていた。

 世間って狭いと言うか、何と言うか。

 だが明華ちゃんも高二、コイツも高二だ。

 そして中学は燈子先輩も石田も同じエリアだから、この二人が知り合いなのは不思議でも何でもない。


 炎佳がさらに笑いながら言った。


「でも明華のお気に入りの人が、まさかお姉の彼氏になるなんて、予想もしてなかったけどね。それにお兄さんに会って、ちょっとガッカリかな?もっと素敵な人を想像してたのに」


 彼女は欧米人がやるように、両手を広げて肩を竦めた。

 好き放題いいやがって。

 だが俺はなぜか、この件についてはそこまで腹が立たなかった。

 もっと重要問題が目前にあったせいか?


「あのな、俺と明華ちゃんはそういう間柄じゃないんだよ。明華ちゃんは俺の親友の妹なんだ。そんな相手に手なんか出せる訳ないだろ?」


 すると炎佳の表情がマジになった。


「親友の妹だとか、兄貴の親友だとか、そんなこと関係ないじゃん。好きなものは好き。ただそれだけだよ。そして明華はアンタをずっと前から想っている」


 そして彼女は腕組みをして仁王立ちになった。

 そういうポーズを取ると、なおさら燈子先輩と似ていると思ってしまった。


「アタシにとっても明華は親友って呼べる存在なんだ。そして明華はすごくイイ子だよ。こんなアタシでも、明華にだけは素直に接する事が出来る。そんな明華が悲しい顔をしているのは見たくないんだよ」


 そして再び、「ビシッ」と言う感じで俺を指差す。


「だから一色さんは『お姉と別れて、明華と付き合う』。これが誰に取っても一番いいんだよ。これで決定!」


「勝手に決めるな!」


 俺は踵を返して、その場から立ち去ろうとした。

 これ以上、付き合っていられない。


「いいのかなぁ~、この写真、お姉に見せちゃっても」


 一瞬、足が止まる。


「それだけじゃないよ。ウチのお父さんに知られたら大変な事になるよ。警察沙汰になるかもね」


 クソッ、もう俺はコイツの罠の中って事なのか?

 炎佳が俺の横に並んだ。


「悪い事は言わないから、アタシの言う通りにしなって。誰も損をしないし、結果的には一番イイんだから」


「俺が姉とくっつくのは嫌なのに、親友とくっつくのはOKなのか?」


 俺はそう言って炎佳を睨みつける。


「そうだね。明華に一色さんは合ってそうだし、一色さんは頼りない分、安全そうだしね。何より明華が一色さんを好きだからね」


 それを聞いて俺は不安になった。

 コイツの話によると、燈子さんは俺を好きではない、と言う事になる。


 しばらく無言で歩く。

 なぜか炎佳は俺の隣についてくる。

 いつの間にか、海浜幕張駅が見える所まで来ていた。


「なぁ、スマホを失くしたってのはウソだったんだよな?だったらもう家に帰れるはずだろ?」


 あえて言外に「着いて来るな」と匂わせる。

 だが炎佳は別の事を口にした。


「まずはさぁ、一色さんの連絡先を教えて。電話番号、メールアドレス、SNSのID」


「なんで俺がオマエに教えなきゃならないんだ?」


「だって連絡取る方法が無いじゃん。嫌でしょ、予告なしにあの写真がお姉とかにバラされたら」


 俺ば渋々、スマホに電話番号とメールアドレスを表示させて、彼女に見せる。

 炎佳はそれを自分のスマホに登録しながら、また別の事を言い出した。


「一色さん、まだお姉の事、諦める気はないでしょ?」


 俺は返事をしなかった。

 するとワザとらしいタメ息が聞える。


「仕方ない。一週間だけ猶予を上げるよ。その間に気持ちの整理を着けるんだね」


「なんでそんな事、オマエに決められるんだよ!」


 苛立ちを隠さずに炎佳を見た。

 しかし彼女は悪びれずにスマホを掲げて左右に振る。


「写真、忘れないでね!」


 コイツに反応すると、余計に話に巻き込まれそうだ。

 俺は再び前を向いた。

 するとまたもや炎佳が口を開く。


「どうせさぁ、『恋人』って言ったって、何もしてないんでしょ?だったらいいじゃん、さっさと別れても」


 コイツは一体、どこまで何を知っているんだろう。

 ともかく、この娘をいま相手にしない方がいい。

 俺は炎佳に関して何も知らないし、そして炎佳は俺に関して何を知っているか解らない。

 相手の情報も無いのに戦えない。


 急に炎佳が俺の行く手を遮るように、前に回った。


「なんだよ」


「アタシの質問に答えてないじゃん」


「何の質問だよ」


「お姉と何もしてないんでしょ、って事。Hは勿論、キスさえも」


「そんな事、オマエに関係ないだろ」


「図星だったね」


 彼女は「ヘヘッ」とイタズラっぽく笑った。


「じゃあアタシの方が先に、一色さんとキスしたんだ!」


「オマエ、アレがキスしたって言えるのか?ただ単に口と口が当っただけ……」


「ヨシ!お姉に勝った!」


 炎佳は俺の話を全く聞かずに、小さくガッツ・ポーズを取った。


「何が『勝った』だ、そんなもん……」


「じゃあアタシ、これで帰るね。ちゃんとお姉と上手く別れてよ。また連絡するからね!」


 それだけ言うと、炎佳は海浜幕張駅に向かって走り出した。

 俺の話を聞かないだけじゃない。

 俺に何かを言う隙も与えない。


「いったい、何なんだ、あの子」


 桜島炎佳。

 燈子先輩の妹で、高校二年生。

 燈子先輩とはあまりに違うあの性格。


 ……俺はもしかして、トンデモない子に関わってしまったのかもしれない……



>この続きは本日(1/29)夕方に投稿予定です。

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