第61話 白ギャルの正体(前編)

「アタシの名前は桜島さくらじま炎佳ほのか。桜島燈子の妹だよ」


 勝ち誇ったようにふんぞり返る美少女を、俺は驚愕の思いで見つめていた。


 ……なんで?どうして?燈子先輩の妹?この白ギャルが?ウソだろ?似てる?似てない?全然違うだろうが!目とかソックリ?どうして俺の前に?何のために?何でこんな事?……


 俺の頭の中で、一度に色々な思いが交錯した。

 そんな俺を見て、彼女は『悪魔的な天使の笑み』を浮かべる。


「こんな所で話ってのも何じゃない?とりあえず外に出ようか?」



 外に出てもまだ呆然としている俺に対し、彼女=桜島炎佳はさらに付け加えた。


「まだ信じられない?これでも小さい頃から『お姉ちゃんと似てるね』って言われて来たんだけど」


 確かに、言われてみると似ていると思う。

 目から鼻にかけて、そして顎のラインなどが燈子先輩と良く似ている。

 スタイルに至ってはソックリと言えるだろう。

 ただプラチナ・ブロンドに染めた髪型と、燈子先輩に比べて緩そうな口元が、大分印象を変えている。

 俺は彼女を見つめながら、ゆっくりと呼気を吐き出すように言った。


「それで燈子先輩の妹が、俺に何の用なんだ?」


 すると炎佳はスマホの端で口元をトントンとした。


「ん~、用って言うより、要求かな?」


「何の要求だ?」


 俺は警戒しながら聞いた。

 この娘は何を言い出すか予想がつかない。


「とりあえずは二つだね」


 俺は唾を飲み込んで、彼女の次の言葉を待った。


「一つ目は、おねえとは別れる事」


「なんだと?」


 俺は耳を疑った。

 なぜこの子は、俺と燈子先輩を引き離したがるんだ?


「なんでだ?その理由を言ってみろよ」


 俺は疑問を口にした。


「まぁ理由は色々あるけど、大きな理由の一つは、一色さんじゃお姉には釣り合わないからかな」


「なに?」


「凄んでもムダだよ。実際、自分でもそう思うでしょ?」


 次の言葉が出てこない俺に、炎佳はさらに面白そうに言う。


「一色さんがもう少しカッコ良かったら、見逃してあげてもいいかな、と思ってたんだけど」


「悪かったな、カッコ悪い男で」


「あ、誤解しないで!別に一色さんがカッコ悪いなんて言ってないよ。むしろ普通の男よりは上なんじゃない?でもさ、鴨倉さんに比べるとだいぶ落ちるよね」


「ぐっ」


 俺の喉から詰まった音が漏れる。


「だって鴨倉さんは本当にカッコ良かったもん。ああいう人なら、アタシだって『お兄さん』として一緒に歩きたくなるよね。だから悪いけどアタシ、『鴨倉さん派』なんだ」


「つまり鴨倉先輩に頼まれたって事か?」


「う~ん、そこまでは言われてないけどね。でも連絡が来て『燈子とやり直したい』とは言ってたよ」


 彼女は両手を後ろに組んで、足を跳ね上げるようにして俺の周りを歩く。


「だけど鴨倉さんは、俺の彼女と浮気をしていたんだ。それで燈子先輩も彼に見切りをつけたんだぞ」


「そう、ソコがダサイんだよ、お兄さん!」


 彼女はビシッと俺を指差した。


「彼女に浮気されたのなんて、彼氏に魅力がないからでしょ?女がよりカッコイイ男になびくなんて、当然の事じゃん。そもそも結婚してる訳じゃないんだしさ。彼女の浮気ぐらいでガタガタ言うなっての!」


 ……コ、コイツ……


 俺は深呼吸の後で、呆れたように言った。


「同じ姉妹でも、姉とは随分と違うんだな。燈子先輩なら絶対にそんな事は言わない」


「なに?アタシにケチつける気?」


 炎佳は俺を睨んだ。


「オマエが先に俺にケチつけてんだろうが」


「アタシが言ってるのはただの事実。弱肉強食、自然の摂理、資本主義社会の基本でしょ。それにアタシ、お姉と比べられるのが一番ムカつくんだよね!」


 俺と炎佳の視線がぶつかり、火花を散らす。


 ……この子には何を言っても通用しない……


 俺は話題を変える事にした。


「俺の顔はどうして知ったんだ?」


 俺はこの子とは会った事がない。

 燈子先輩の家に行った時は、誰もいなかった。


「お姉が写真を見せてくれたよ。ハワイでね」


 炎佳はちょっとつまらなそうな顔をした。


「二人で房総デートしたんだって?その時にお姉を色んな所で隠し撮りしたんでしょ。その中に何枚かお兄さんが写っている写真もあったじゃない」


 ……あの模擬デートの時か……


 俺はこの子が「盗み撮り」と言っていた理由が、やっと解った。


「なんかお姉がコソコソ一人でスマホ見て嬉しそうにしてたからさ。何かと思ったら『今度付き合う事になった男子が撮ってくれた写真なの』って言って。やけに幸せそうな顔してさ。普段、滅多にそんな事を言わない人なのに」


 炎佳が口を尖らせるように言う。


「そんなお姉を見てたらムカついてさ。だから『こんなダサ男とは別れさせてやろう』って思ったんだよ」


 つまりこの子はこの子なりに『姉の事を思って』と言う事か?


「ずいぶんお姉さん想いなんだな」


 だが炎佳は首を左右に振った。


「違うよ、そんなんじゃない。ただお姉のあんな笑顔が憎らしかった……」


 ……憎らしい?……


 この子、言っている事が支離滅裂じゃないか?

 俺には彼女の思考パターンが理解できなかった。


「ともかく、一色さんにはお姉と別れてもらうから!」


 彼女は身体ごと振り向くと、俺にそう宣言した。


「嫌だと言ったら?」


 そう言った俺に、炎佳はスマホを軽く振る。


「この写真をお姉に見せるよ。あの堅物のお姉だもん。もし見られたら、どういう事になるか解るよね?」


「燈子先輩は信じるのか?」


「信じるよ。お姉は昔からアタシに甘いから。アタシが涙を見せて訴えれば、もう一色さんは桜島家の敵だよ」


 ここまで言われては、俺には反論の余地はない。

 だからと言って、このまま引き下がる訳にも行かなかった。


「俺は、燈子先輩が本当に好きなんだ。そんな『別れろ』って言われて、簡単に別れる訳には……」


 すると彼女は腕組みして言った。


「ただ別れろって言っている訳じゃない。他に彼女を作ればいいじゃない。それはアタシが責任を持って面倒見るよ」




>この続きは明日(1/29)正午過ぎに投稿予定です。

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