第48話 炎上クリスマス!(宣言)

 『ベスト・カップル』への全員の投票が終わった。

 それぞれが入場時に渡された一人一枚の投票用紙に、『ベスト・カップル』と思われるペアを、1位から3位まで記入するのだ。


「それでは、集計が終わりました!」


 一美さんが再びマイクを持つ。


「それじゃあ4位と5位の人から発表するよ。名前を呼ばれた人は、前に出てください」


「5位から発表すんの?」


 会場から疑問の声が出た。

 俺も不思議に思った。

 だが一美さんはそんな事は気にしない。


「まず第五位。一色優君と蜜本カレンさんのカップル!」


 俺?俺とカレンが5位?

 事前の『カレンに対する女子への不評』を考えると、よく5位に入ったな。

 もっと全部でカップルは12組だから、半分程度には入ってもおかしくないかもしれないが。


「最近、一色君は女子メンバーに人気があるからね~。それが得票に影響したみたいだよ。賞品はテディ・ベアのぬいぐるみ!」


 一美さんはそう言って俺達にぬいぐるみを手渡した。

 それをカレンが受け取る。

 その表情は不満そうだ。

 プレゼントを受け取った俺達は、そのまま前方の右脇に並ばされる。


 4位は二年生同士のカップルだった。

 賞品はペアのマグカップ。

 一応、有名なブランドらしい。


 さらに一美さんの発表は続く。


「それでは第三位!お~っと、これは大番狂わせだ!見ているアタシが信じられない!」


 一美さんは集計係から渡されたメモを掲げた。


「アタシと石田君のペアだぁ~!」


 会場がドッと沸いた。


「それじゃあ石田君、前に出て来て。賞品は図書券三千円分!」


 石田が照れ笑いをしながら、前に出てくる。

 一美さんがそれを渡しながら言った。


「これ、半分はアタシの取り分だから、一人でパクるなよ!」


 そう言うと、また会場のみんなが笑った。


 第二位は『サークル内で落ち着いたカップル』として定評のある三年生同士のカップルだった。

 この二人がベスト・カップルに選ばれてもおかしくない感じだ。



「さて注目の第一位は……」


 一美さんがもったいぶって間を置いた。


「鴨倉哲也さんと桜島燈子のペアだぁ!」


 そう言って二人を掌で指し示す。

 周囲から「やっぱな」「だよなぁ」という、諦めとも賞賛ともつかない声が聞えた。


「お二人とも、どうぞ前へ」


 そう言われて鴨倉が、それに続いてうつむきき加減の燈子先輩が前に出た。


「一位の賞品は、東京湾の夜景が一望できる『ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ』の本日の宿泊券です!」


 一美さんが宿泊券の入ったチケットを頭上に高く差し上げると、会場内がざわついた。


「え、じゃあ」

「これから二人でホテル直行ってこと?」

「うわ、露骨」

「性夜か?」

「ああ、燈子先輩が……」

「クソッ、爆発しろ!」

「羨ましい」

「え~、いいなぁ」

「私もイケメンとホテルでクリスマスしたい」

「夜景を見ながらイブを二人でか。理想じゃん」


 様々な声が聞える。

 前に出た鴨倉は『勝利の笑み』を浮かべながら、一美さんから宿泊券を受け取ろうと手を差し出した。

 ところが一美さんは封筒をヒラヒラさせながら、それを渡そうとしない。


「ところでさぁ、鴨倉さん。このホテルの宿泊券、どう使うの?」


 鴨倉はちょっと驚いた表情をしたが、苦笑しながら答えた。


「まぁ燈子と一緒に泊まらせてもらうよ」


 すると一美さんは目を閉じると、人差し指を立てて左右に振った。


「チッチッチ!ダメだねぇ、鴨倉さん。それじゃあ、このサークル1のイケメンっぽくないよ。クリスマス・イブに彼女をホテルに引っ張り込むなんて、そこらの男のやる事だろ?後輩の手前、それじゃあカッコつかないんじゃない?」


「じゃあどうすればいいんだ?」


「この宿泊券、二枚とも燈子に譲りなよ。今日は二人にとって記念すべき夜になるんだ。そんな日くらい、彼女に主導権を渡してやってもいいんじゃないか?」


 鴨倉はしばらく一美さんを見つめていたが


「まぁ、結果は変わらないからな。いいよ、燈子に譲ろう」


 と言って一歩後ろに下がった。

 代わりに燈子先輩が一美さんの前に出る。


「さすが鴨倉さん。男だねぇ」


 一美さんはニヤリと笑った。


「と言うことで、この宿泊券は二枚とも燈子に送られる事になりました。みなさん、盛大な拍手を!」


 そう言って宿泊券を燈子先輩に手渡す。

 みんな何となく、気の無い感じで拍手した。


「ところで燈子、確かみんなの前で言いたい事があるんだよね?」


 そう言って一美さんが燈子先輩にマイクを渡す。

 燈子先輩は黙ってマイクを受け取った。

 みんな「何が始まるのか?」と興味を持って彼女を見つめる。

 燈子先輩はしばらく俯いていたが、やがて顔を上げた。


「みんなに、聞いて貰いたい事があるの」


 そして俺の方を見た。


「一色君、こっちに来て」


 一瞬、時が止まったような雰囲気になる。

 チラッとカレンを見ると、『意味不明』と言った顔つきをしている。


「な、なんで、優くんが?」


 そう言って驚くカレンを無視して、俺は燈子先輩の方へ歩み寄った。

 燈子先輩と並んでみんなの前に立つ。

 燈子先輩が再び口を開いた。


「私、桜島燈子は、本日この時点で、鴨倉哲也との交際を解消する事を宣言します」



>この続きは明日(1/18)正午過ぎの投稿予定です。

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