第49話 炎上クリスマス!(告白)

「私、桜島燈子は、本日この時点で、鴨倉哲也との交際を解消する事を宣言します」


 会場が一瞬、し~んとなった。

 横目で見ると、鴨倉でさえ目を丸くして唖然としている。


 その隙に燈子先輩が俺にマイクを渡した。

 マイクを受け取った俺もハッキリと言った。


「俺、一色優も、本日この時点をもって、蜜本カレンとの交際を終了し、縁を切る事を宣言します!」


 俺のその言葉を聞いて、それまで静まり返っていた会場が、ざわつき始めた。


「ちょ、ちょっと、何を言ってんだ」

「どうしたんだ、あの二人」

「なにが起こった?」

「どうしてこの場で?」


 アチコチで異口同音に同じような疑問の声が囁かれる。

 そこで初めて鴨倉が動きを見せた。


「おい、燈子。おまえ、何を言ってるんだ!」


 そう言って燈子先輩に近寄ろうとした時……


「近寄らないで!」


 燈子先輩の厳しい言葉がその動きを止めた。


「哲也、アナタ、自分が何をしたか解っているの?」


 鴨倉はうろたえながらも言い返した。


「な、なんだ?俺が何をしたって言うんだ?」


「それを燈子先輩に言わせる気ですか?鴨倉先輩」


 そう口にしたのは俺だ。


「なに?」


「女性である燈子先輩に全てを言わせる気ですか、と言ったんです」


「な、なんの事だ?」


「じゃあ俺が代わりに言ってあげましょう。鴨倉さん、アンタは俺の彼女だった蜜本カレンと浮気してたんだっ!」


 会場内がざわつく。

 いや、どよめいた。

 鴨倉の表情と動きが凍りついた。

 だがそんな中、ヒステリックな金切り声が別の方向から響いた。


「ウソ、ウソ、ウソ!カレン、そんなことしてない!」


 俺はその声の方を振り返る。

 そこには必死で訴える蜜本カレンの姿があった、


「カレン、浮気なんかしてない!本当だよ、信じてっ!」


 その必死に声を震わせて叫ぶ姿は、何も事情を知らないヤツなら信じてしまうだろう。


「ウソを言ってるのはオマエだ!カレン!俺はちゃんと証拠も持っているんだ!」


「証拠って何?」


 この女、あくまでシラを切り通すつもりか?


「10月最後の週の土曜日、俺が『石田と旅行に行った』と言っていた日。カレン、おまえはあの夜、どこに居た?」


 一瞬、カレンの目が泳ぐ。


「そ、そんなの知らない。覚えてないよ!」


「じゃあ俺が言ってやる。あの夜、オマエは鴨倉先輩のアパートに居たんだ。一晩中な。それは俺も燈子先輩も知っているんだ」


 周囲から「え~」と言う声が漏れた。

 何人かの女子が非難の目でカレンを見る。


「違う!そんな事ない!」


 そしてカレンは憎しみの籠った目で燈子先輩を睨みつけた。


「優くんは、その女に騙されているんだよ!カレンは知ってる。前からその女が優くんをチェックしていた事を!」


 それを聞いて、俺の怒りは倍増した。


「俺を騙し続けていたのはカレン、オマエだろ!あの夜、オマエが鴨倉先輩の部屋に入ったのはな、石田と一美さんも見ているんだよ!写真もある!」


 だがカレンは怯まなかった。


「その時は、先輩の家でお茶飲んで帰っただけだよ!」


「何時間もお茶飲んでたのか?終電も無くなった後まで!」


 それまで迫真の演技を振るっていたカレンが、初めて動揺した。


「カレン、そんなつもりじゃなかった……お酒飲まされて。それで気が着いたら……そんな事に……そう、レイプされたの!カレンの所為じゃない!カレンは悪くないっ!」


 コイツ、なんて事を!


 そう思ったの同時に、鴨倉が叫んだ。


「おまえ、何を言って!」


 だが俺は鴨倉を無視してカレンに向かって言った。


「見苦しいマネはやめろ!他にも証拠があるんだよ!オマエと鴨倉のSNSのやり取りがな!」


 俺はスマホにカレンと鴨倉のやり取りを表示させ、それをカレンに突きつけた。

 それを見て、カレンの顔色が変わる。

 同様にそれを見ていた女子達が、口々にカレンを非難し始めた。


「あれって」

「間違いないよ」

「本当に鴨倉さんと浮気……」

「ヒドイ、ずっと一色君を騙していたの」

「それであの態度って」

「信じられない」

「人としてありえないよ」


 それらの声を聞いたのか、聞いていないのか。

 カレンは見る見る内に、表情を一変させていった。

 そして先ほどまでとは、声色さえ変えて叫ぶ。


「なに勝手に人のスマホ見てんだよ!最っ低ー!信じられない!オマエのやってる事の方が最低じゃんよ!ストーカー男!キモッツ、キモ過ぎ!死ねよ!」


 カレンはそのまでの『ぶりっこ』『可哀そうな犠牲者』の仮面を脱ぎ捨て、その本性のままに夜叉の形相で叫んだ。


「だいたいな、アンタだって燈子と浮気してたんだろうが!全部解ってんだよ!だからアタシも仕返しで浮気しただけなんだよ!悪いのはソッチじゃん!」


 もはやカレンの言っている事は支離滅裂だ。


「それは違うぞ」


 そう言って遮ったのは一美さんだ。


「燈子はあくまで『アンタら二人の浮気の証拠』を掴むために、一色君と会っていただけだ。それはアタシが保証するぜ」


「そうだ。俺は一番最初にカレンちゃんの浮気を優に相談された。そしてそれから優は、燈子先輩と相談していただけだ。それまで二人に接点なんて無かった。優と燈子先輩が浮気したなんて事は絶対にない!」


 石田も一美さんに続いて、そう言い放つ。


「カレン!あんた、いい加減にしなよ!」


 そう怒鳴ったのは美奈さんだ。


「そうだよ。アンタが一色君を裏切ったのは明白じゃん!それなのに謝るどころか逆切れするなんて!」


 続けて叫んだのは綾香さんだった。

 他の女子も口々にカレンを非難し始める。

 だがカレンは彼女達もギロッと睨むと、吠えるように喚いた。


「ざっけんな!クソ共!キモイんだよ!オマエラだって色んな男に色目使ってんだろうが!キモッツ、キモい!こんな所、いられっか!バ~カ!死ね!」


 カレンはそう言いながら、自分の荷物を手に取ると、荒々しく店を出て行った。


 ……最後まで、反省も謝罪もない、本当に最低の女だったな……


 ……あんな女を『彼女』だと思っていたなんて。俺が愚かだったとしか言い様がない……


 それまで黙って事の成り行きを見守っていた燈子先輩が口を開いた。


「これで全て解ったでしょう、哲也」


 静かに、さとすように語り掛ける。


「私はアナタと別れる。もう恋人関係は解消よ。そして今日の夜は、ここに居る一色君と過ごすわ……」



>この続きは明日(1/19)正午過ぎの投稿予定です。

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