第47話 炎上クリスマス!(そしてゴングは鳴った)
会場であるレストランに入る。
開始時間は午後6時からだが、その手伝いのために一時間前に会場に入った。
料理はバイキング形式の立食パーティーだ。
何人かの女性陣が、持ち込みさせて貰った手料理やデザートを並べている。
さすがに持ち込みにまでレストランの食器は使えないので、やはり持参した食器やトレイに並べた。
レストランの料理の横にテーブルを出して貰い、そこに卓上コンロを乗せて手作り料理を並べる。
ふと見ると、俺の横に一美さんが来ていた。
周囲を素早く
カレンは離れた所で、他の男子と話している。
さっきから話に夢中で、手伝いはほとんどやっていない。
「タイミングはパーティの最後だから。解っているよな?」
一美さんがそう呟く。
「『ベスト・カップル』の時ですね」
俺がそう言うと一美さんは頷いた。
「燈子が君を呼んだら、前に出るんだ。そこで……」
「了解です」
俺は短く答えた。
「みんな、集まってくれてアリガトー!去年は『恋人アリ』と『恋人ナシ』で別々にパーティなんて、差別的な事をやっていたみたいだけどさぁ。今年はみんな同じサークルの仲間として、精一杯盛り上がろうぜぇ!」
一美さんがマイクで叫んだ。
クリスマス・パーティの開始だ!
みんながどっと笑う。
野次っぽいのも飛んだが。
クリスマス・パーティの司会は一美さんだ。
二年生の秋からの途中参加であるにも関わらず、一美さんは持ち前の明るさと積極さ、人見知りしない性格のお陰で、既にサークルでの中心人物の一人になっていた。
その横で司会進行を見守るがのサークルの部長である中崎さんだが、彼は警戒心を秘めた強い顔つきをしている。
もっともこれから先に起こるであろう事を考えれば、部長としては心配になるのは当然だが。
元々が『恋人の有無』でパーティを分けるくらいだから、カップルがやはり多い。
なお恋人がサークル外の人でも、このパーティは参加可能だ。
現在は恋人同士でなくても、臨時でペアになる事もOKだ。
簡単に言えば、米国の高校などで催される『プロム』みたいなものだ。
カップルの中でも一番目立っていたのは、やはり鴨倉と燈子先輩のペアだ。
鴨倉はレザー・ジャケットと細身のジーンズ、そして白い長袖Tシャツというラフ目な格好だが、やはりカッコ良く着こなしている。
燈子先輩は薄手の白いモヘアのセーターに、ウエストは背中に大きなリボンを着けた帯ベルトで締め、ボトムは膝ギリギリの紺色のプリーツスカートだ。その上にベージュのボレロを羽織っている。
キュッと締まったウエストと、薄手のセーターで強調されるバストの豊かさ、そしてプリーツスカートの下から伸びるスラリとした脚。
燈子先輩のスタイルの良さが見事に現れている装いだ。
そして多くの男子学生が彼女に話しかけている。
燈子先輩はその誰にも満遍なく、笑顔で接していた。
そんな燈子先輩に、鴨倉が「俺の女だ」と強調するがごとく、彼女の肩に手を回して抱きしめるように話す。
……今に見ていろ。そうやって浮かれていられるのも、今の内だ……
「優くん、どこ見てるの?」
いつの間にか横に来ていたカレンが聞いて来た。
「いや、別に。どこって訳じゃないけど」
「燈子先輩を見てたんでしょ」
俺は返事をしなかった。
「燈子先輩って、ああやっていつも男に
「燈子先輩がか?」
『男に媚を売っているのはオマエだろう』と胸の中でツッコミを入れる。
「そうだよ。男には解んないだろうけどさ。ああやって『自分は男なんか興味ありません』って顔して、さりげなく胸とか強調する服を着て、男の視線を意識してるんだよ。気取った感じでお嬢様っぽく振舞っているのも、男受けを狙っているんだよね。見ててイラつくよ!」
今日のカレンはやけに燈子先輩に敵意を剥き出しにしている。
その理由には心当たりがあった。
パーティの最後に行われる『ベスト・カップル投票』だ。
そして選ばれた『パーティで一番のベスト・カップル』に対しては、豪華な賞品が与えられる。
そのベスト・カップルに選ばれるのは、燈子先輩と鴨倉に間違いないだろう。
コイツはそれが気に入らないに違いない。
カレンがの俺に左腕を強く掴んだ。
「あの人たちには負けたくないね、絶対」
カレンの瞳には、正面ライトが鬼火のように反射して見えた。
食事もだいぶ少なくなって来た。
ちなみに燈子先輩が持って来た『子豚のバックリブ』『ポテトサラダ』『ショートケーキ』は非情に好評だった。
彼女の練習料理の試食係だった俺としても、何か嬉しい。
最後のバックリブを取りに行った時、そこには石田が居た。
「いよいよだな」
石田が小声で話しかけてくる。
「ああ、これでもうしばらくしたら『ベスト・カップル』の投票が始まるからな」
「ここまでは計画通りだが……問題はこの後だよな」
「ああ」
石田はちょっと間を置いてから、俺の耳元に口を寄せた。
「ところで『例のアレ』、優に決まったのか?」
石田が言う『例のアレ』とは、『今夜燈子先輩と一夜を共にする相手』の意味だ。
「よく解らない。連絡が無いからな」
「『連絡が無い』ってどういう事だよ。あと数時間後の事だろ。それなのに……」
「解らないモノは解らないよ。どうしようもないだろ?」
俺がイラだったように言うと、石田はさらに声を潜めた。
「他に、誰かアテはあるのか?」
『アテ』、つまり俺以外で、燈子先輩が今夜を一緒に過ごす相手の事か。
それは俺も考えないではなかった。
燈子先輩に言い寄った男は多い。
このサークルにも何人かいるし、部長の中崎さんも一度告白して断られたって噂だ。
OBの中にも燈子先輩を狙っている人がいたし、同じ学科で二年にも、燈子先輩と割りと仲が良い男子学生がいるはずだ。
ただその誰とも、燈子先輩は個人的な接触は持っていないと聞いている。
燈子先輩をデートに誘う事に成功したのは、唯一鴨倉だけらしい。
俺はその意味では二番目という事になる。
「俺は知らないが、まったくいないという事も無いだろう」
すると石田はガッカリしたように言った。
「そうだよな。別にこのサークル内だけが、燈子先輩に言い寄る男の全てじゃないだろうしな。学科の男友達、中学高校時代の知り合い、バイト先の仲間。燈子先輩なら出会いなんていくらでもあるだろうからな」
石田の言う通りだ。
現に俺達だって「城都大に入ったら、燈子先輩に交際を申し込む!」って言っていたしな。
パーティも終盤に近づいて来た。
最後に、それぞれのカップルが『自分達に投票して貰えるよう、自己アピール』をする。
12組のカップルがそれぞれ一言スピーチをした。
意外な事に、ここに『石田と一美さん』がペアとして名乗り出ていた。
しかもスピーチする一美さんは堂々と
「アタシさぁ、ここでは臨時で石田君とペアになってるけど、本当はフリーだから。だから素敵な男子のアプローチ、待ってるぜ。ヨロシク!」
と言って会場を沸かせていた。
まぁこのパーティのカップルは恋人同士と決まっている訳じゃないので、別に構わないが。
そして俺達の番が来た。
一言スピーチなので、全てカレンに任せる。
「ハ~イ!メリー・クリスマス!今日はみんなハッピーだよね~。恋人がいればハッピーだし、恋人いなくても友達がいればハッピー!でね、クリスマスくらいは定番な感じじゃなく、意外性って欲しいよね?だから今日は楽しいカップルを祝福しようよ!それでカレン達に投票してくれるとウレシイな!そんな感じで、みんなヨロシクね~」
カレンのスピーチは一部の男子からは評判が良かったようだが、女子の大半が白けた感じで彼女を見ていた。
俺はカレンの背後から、会場全体の様子を眺める。
……この調子だと、一部の男子はともかく、ほとんどの女子はカレンには同情しないだろうな……
なんか『元カレ』としては、少し複雑な感じもしたが、これも自業自得だろう。
最後は大御所である、鴨倉と燈子先輩だ。
鴨倉がマイクの前に立っただけで、一部の女子から「鴨倉せんぱ~い!」という黄色い歓声が聞える。
確かに長身細身でライトを浴びてマイクの前に立つ鴨倉は、まるでアイドルかスターのようだ。
「メリー・クリスマス!今日はサークル・メンバーのほとんどが集まって楽しかった!今夜のラスト・イベントだ。みんな何も言わずに投票用紙には『鴨倉哲也と桜島燈子』と書いてくれ!最後に一言言うと『カップルには二種類しかない。俺のカップルか、それ以外のカップルか』だ!」
どっかで聞いたようなセリフを吐きやがって。
俺はここがレストランでなければ、ツバを吐いていた所だ。
だが会場はけっこう沸いていた。
やはり鴨倉は人気者と言うことだろう。
一方カレンは、不満そうに頬を膨らませ気味に正面を見ている。
カレンの視線の先には燈子先輩がいた。
その燈子先輩はと言うと……
伏し目がちに両手を腰の前で組んで床を見つめている。
何かを考えている?
いや、何かに迷っているような……
……まさか、燈子先輩……
俺の心の中で、不安がさらに強く沸き起こっていた。
>この続きは本日(1/17)17時に投稿予定です。
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