第29話 キツネとタヌキの馬鹿し合い(前編)
燈子先輩から聞いたその夜、さっそくカレンからメッセージが入った。
>(カレン)この前に話した友達と旅行に行く話だけど、11月の1日から2日になったから。
>(優)そうなんだ?いってらっしゃい。
俺はそれだけを返信した。
燈子先輩に「誰と行くのか、どこに行くのかなど、コッチからは聞かないように」と言われていたからだ。
彼女が言うには
「浮気旅行なら『どこに行くか』を聞かれるだけで、相手に怪しまれているのかと警戒する。その警戒心が『なんか面倒臭い』と言う気持ちになって、カレンの気持ちを遠ざけてしまう」
らしいのだ。
同様に「おみやげを頼む事もNG」と言われている。
浮気カップルが周囲にバレるのは、おみやげが原因になる事も多いらしい。
そりゃ二人が同時期に姿を消して、同じ場所のおみやげを持って来れば、みんな気付くわな。
そういう心理的負担を無くし、相手に警戒心を与えず、さらには気持ちが離れる要素を一つでも減らす事が大切なのだ。
>(カレン)優くんも、どこか遊びに行けばいいのに。せっかく長期に大学が休みなんだから。
俺も遊びに行った方が、心理的に罪悪感が軽くなるのか?
それとも「俺がどこに行くか把握しておきたい」のか?
>(優)俺は大学の学園祭に行くからいいよ。サークルの模擬店もあるしさ。
>(カレン)学園祭なんて、大したことやってないでしょ。模擬店だって他のみんなが居るんだしさ。そんなに大勢人が居ても、邪魔になるんじゃない?
コイツはなぜ、俺が学園祭に行くのを嫌がっているんだろう。
鴨倉が同時期に居ない事で、俺に怪しまれるのを避けたいのか?
逆にこう言う事で、俺が学園祭に居る事を確認しておきたいのか?
>(優)そうかもしれないけどな。でも大学に入って最初の学園祭だろ?やっぱり雰囲気を味わいたいじゃん。
しばらくの間があった後、カレンからの返信が届く。
>(カレン)わかった。じゃあカレンの分も楽しんで来て。後で文化祭の感想だけ教えてね。
コイツ、あくまで俺の行動を把握する気だったな。
それで文化祭にどのくらい居たか、確認するつもりだろう。
この調子だと自分の友達にも、俺が文化祭で何をしていたか、あとで聞くんだろうな。
だがこれがカレンの警戒心の現われだとすると、俺は何かヘマをしたんだろうか?
カレンから見て、『俺がカレンと鴨倉の浮気を怪しんでる』という事に気が着いたとか?
>(優)オッケー。カレンの方こそゆっくり楽しんで来いよ。
>(カレン)うん、ありがとう。それじゃあ、またね
>(優)またね
そうして俺は、カレンとのメッセージを閉じた。
それから一週間、俺と燈子先輩は何も気付かないフリをして、静かにカレンと鴨倉を見守っていた。
この前は「カレンが何か感づいたか?」と心配したが、それも特に問題なかったようだ。
二人は「これから旅行に行く」と言う事で気分が盛り上がっているのか、月曜と木曜だけではなく、土曜日にも会っていた。
その間、俺と燈子先輩は直接の接触は控えていた。
燈子先輩が
「今はあまり動かない方がいい。二人を安心させ、旅行への期待感を高めさせる事が必要」
と言うためだ。
ただし連絡だけは取り合うようにしていた。
それも予め決めた日時にだ。
それ以外の時間は、俺はカレンに、燈子先輩は鴨倉と一緒にいる可能性もあるので、不用意に連絡しないと決めていたのだ。
だが俺は……
既に『カレンが鴨倉と会っている事』よりも『燈子先輩が鴨倉と会っている事』の方が気になるようになっていた。
10月31日。
この日は学園祭の学内公開の日だ。
11月1日からが外部にも公開される。
明日はいよいよ『カレンと鴨倉が浮気旅行に行く予定日』だ。
そして計画通りなら、そろそろ……
スマホが振動した。
燈子先輩からだ。
>(燈子)計画通りTの旅行キャンセルに成功。
>(優)わかりました。Kから反応があったら、また連絡します。
>(燈子)Tは少し前に私に隠れて、Kに旅行キャンセルの連絡をしたみたい。おそらく、もうすぐKから連絡があるんじゃないかな?
>(優)そんなにすぐ来ますかね?直前まで他の男との浮気旅行に行く予定だったんですよ。俺だったら躊躇しますが。
>(燈子)たぶん来るわ。ここは私のカンを信じて。それからくれぐれも言っておくけど、Kに冷たく当ってはダメだからね。腹が立つのは解るけど、そこはグッと押えて。あくまで優しく、彼女の気持ちに寄り添って話を聞いてあげるのよ。彼女に『絶対的安心感』を与えるように」
>(優)わかりました。
>この続きは本日16時過ぎに投稿予定です。
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