第28話 反撃の狼煙
翌日、月曜日。
俺と燈子先輩は、今までとは違って御茶ノ水の喫茶店に居た。
もちろん今後の計画について話し合うためだ。
ちなみに鴨倉とカレンは、今日も逢引きしているらしい。
まったくカレンのヤツ、今は俺と会うより鴨倉と会っている方が多いんじゃないか?
俺とは週一ペースだが、鴨倉とは週に一~二回は会っているようだ。
まぁそれはそれとして、あの二人が浮気真っ最中と解れば、こっちも安心して燈子先輩と話し合う事ができる。
「二人が旅行に行く日程が解ったわ」
席に着いた燈子先輩は、顔を近づけると声を潜めて言った。
「11月の1日から2日にかけて。一泊二日で出かけるみたい」
「学園祭の期間ですね」
おそらくそうだろうと思っていた。
この前後一週間は授業がないから、気兼ねなく遊びにいける。
「しかしサークルで模擬店出すって言っているのに、よく二人で旅行に行く気になれますね。サークルのみんなが噂しそうですが」
「哲也はもう三年だからね。三年生は学園祭に来ない人も多いのよ。カレンさんだって二日間程度なら『具合が悪い』って言えば、そんなに不自然じゃないでしょう」
そんなもんなのか?
「それで重要なのはここから。私は既に哲也に『旅行に行ってもいい』と言ってある。だから近い内にカレンさんから君に連絡があるはず。その時に君も『旅行に行ってもいい』と優しく言うのよ。絶対に
「大丈夫、わかってます」
「それで私が旅行の前日になったら『旅行に行っちゃダメ!』って言うわ。おそらくそれで哲也は旅行をキャンセルするはず」
……ふむふむ……
「するとドタキャンされたカレンさんは、君に連絡すると思うの。『友達がドタキャンしたせいで旅行がキャンセルになった』ってね」
「浮気旅行がキャンセルになって、そんなすぐに俺に連絡しますかね?」
俺が疑問を口にすると、燈子先輩は自信ありげに答えた。
「私の予想だと7対3で連絡が来るわ。君に不満を聞いて貰いたいのと、哲也への腹いせでね。カレンさんは哲也が自分を優先しなかった事に、相当な不満を持つはず。そこで自分を常に優先してくれる彼氏の声を聞いて安心したいのと、自分の慰めて欲しいと思うんじゃないかしら」
……ずいぶんとナメられてるなぁ、俺……
「それでカレンさんから連絡が来たら、優しく慰めてあげて欲しいの。もし来たのがメッセージだけだとしても、君から電話をして優しい声を掛けてあげて。そうすれば彼女は『やっぱりイザって時に、自分を一番に考えてくれるのは一色君だ』って思えるでしょ」
「なんか都合のいい男っすね、俺」
「仕方が無いわ。カレンさんが浮気をしているって言う事は『君以上に浮気相手が好きか』『常に複数の男性に愛されていないと気が済まないか』の、どちらかでしかないんだから」
俺が押し黙ってしまうと、燈子先輩は先を続けた。
「でもそれでいいのよ。カレンさんが『やっぱり一色君が一番!』って思えれば。彼女に『どんな事があっても、一色君の元には帰れる』って絶対的な安心感を与えるの」
「絶対的な安心感?」
「そう。そして最後の瞬間に、それが崩れ去るとしたら?」
なるほど、『最後の砦』『命綱』的な存在が消え去ってしまう。
それはかなりショックな事だろう。
「いい?ともかく今は『カレンさんを惚れさせる事』に集中して。君は『カレンさんの保護者』になるくらいのつもりでいなきゃ」
……保護者ね、マジっすか……
これで燈子先輩の言う通りだったら、俺はマジでカレンを腹の底から軽蔑するだろうな。
ふと気が着くと、燈子先輩がジッと俺を見ている。
何か言いたそうな表情だ。
俺は「???」という状態でしばらく黙っていると、やっと口を開いてくれた。
「次は……君の番……」
「俺の番……ですか?」
え、俺から何か作戦を出す話ってあったっけ?
「ホラ、約束したでしょ。私への報酬……」
あ、その話か?
鴨倉とカレンへの報復計画の話をしていたから、すぐに結びつかなかった。
でも……満足に話せる事は無いんだよなぁ。
「あ、はい。『可愛い女の子』について、ですよね」
燈子先輩はコクンと首を縦に振った。
……さて、何から話そう……
やっぱりこういう場合、『女性の内面的な部分』を言う方が好感度が高いよな。
「そうですね。やっぱり『優しい』女性ですね」
燈子先輩は何も言わずに、俺を見ている。
「あと自分を持っていると言うか、芯がしっかりしていると言うか」
やはり燈子先輩は何も言わずに、俺を見ている。
「でもたまには甘えてくれると嬉しいかなって。ツンデレとかクーデレってヤツですね」
まだ燈子先輩は何も言わずに、俺を見ている。
「お淑やかとか、そういう感じいいですよね」
な、なんか沈黙が怖いんですけど。
「やっぱり家庭的な女性って癒されますよね」
ヤバイ、もう言う事が尽きてきた。
「あ、あと大切な条件で『浮気しない』」
「それは当然でしょ」
燈子先輩はボソッとそう言った。
ヤベッ、なんかムッとしてないか?
後は思いつくのって、外見とか容姿に関する事しかないんだよな。
でもこのまま何も言わないよりマシか?
「見た目はやっぱり美人の方がいいですよね」
燈子先輩の視線の温度が下がったような……
「あとやっぱり胸が大きいって、男にとって憧れかも」
燈子先輩が胸を隠すように腕組みした。
マズイ、これは地雷だったか?
「髪型も印象に残るかもしれませんね。金髪ツインテールとか……」
燈子先輩がジト目で俺を見ている。
もはや視線は氷点下だ。
「……バカなの?」
燈子先輩がポツリと言った。
「へっ?」
もしかして俺、完全に間違った?
燈子先輩は深いため息をついた。
「もういいわ。これ以上聞いても意味無いみたいだし」
俺は無言で押し黙るしかなかった。
マズいな。
これは燈子先輩にかなり軽蔑されたかもしれない。
でもこれ以上、何かを言わされたら、後は石田の言った条件くらしか出てこなかった。
「『優しい』『自分を持っている』『お淑やか』なんて、何の参考にもならないわ。その上で『美人』だの『胸』だの言い出すなんて。挙句の果てが『金髪ツインテール』?私が知りたい事について、何も理解してなかったのね」
俺はうな垂れて、その言葉を浴びていた。
いや、でも仕方が無いでしょ。
『可愛い』の定義なんて人それぞれだし。
同じ仕草だって、ある人がやれば可愛くても、別の人がやればムカつくだけかもしれない。
「君なら私の言いたい事を察してくれて、適切な意見を出してくれるかと思っていた。期待した私が間違っていたみたいね」
さすがに俺も、その言い草にはムッと来た。
俺だってそれなりに一生懸命考えたんだ。
だけど今の俺が考える『可愛い子』って、全部燈子先輩に結びついてしまうような気がしたんだ。
だから一般的な男子が『可愛い』と思える要素を言っただけなのに……
こんな言われ方をするなんて。
だが俺もこのまま引き下がる訳にはいかない。
「ちょっと待って下さい。俺も『可愛い子の条件』について、自分の口で語る事が出来ていませんでした」
燈子先輩が再び俺を見つめた。
「もう一度、チャンスを貰えませんか?俺なりに、自分の頭で考えた『可愛い女の子の条件』を自分の言葉で伝えます。その上で、その回答に燈子先輩が納得できないと言うなら仕方がありません」
燈子先輩はやはり黙っていた。
「頼みます。もう一度だけ挑戦させてください」
俺はそう静かに、だが真剣にお願いした。
しばらく俺を見つめていた燈子先輩は、やがて腕組みを解きながら言った。
「いいわ。再レポートのチャンスを上げる。今回は私も時間を急ぎすぎた気もするしね。もう一度、君なりに考えてみて」
「わかりました。ありがとうございます」
俺はその言葉に決意を込めた。
燈子先輩は口にしないが、この回答に満足するかしないかが、『Xデーで最後の時に、彼女と一緒に一夜を過ごせる相手になるかどうかの条件』になる気がする。
だとしたら、俺は何が何でも、この問いに正解を出さねばならない。
>この続きは明日(1/3)正午過ぎに投稿予定です。
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