第14話 仕組む燈子先輩、サカる鴨倉を走らす!(後編)

《前回のお話》

 鴨倉哲也と蜜本カレンの浮気現場を中々押さえられない優と燈子。

 二人はそれぞれ親友の石田洋太と加納一美に助力を頼んだが成果が出ない。

 その作戦会議の席で一美が

 「燈子には次の計画がある」と口にした。



「燈子、そろそろ燈子が考えた次のプランを話してあげなよ。もう『駅で見張ってる作戦』は詰んでるんでしょ?」


「「次のプラン」」


 俺と石田は同時にそう聞き返した。


「そう、次のプラン。このまま二人を尾行する作戦は、続けていても効果が見えないでしょ?」


 燈子先輩はそう言って全員を見渡した。

 俺達は無言で頷く。


「だから逆に『二人が絶対に浮気する時間と場所』を特定してやるのよ」


「どうやってですか?」


 それが出来ないからこそ、こうして苦労していると思うんだが。


「今週末の土日、哲也のお兄さんは仕事で出張に出るらしいの。だから哲也は私に『土曜日に泊まりに来い』ってシツコク言ってるわ」


 不謹慎ながら俺は、アパートで燈子先輩と鴨倉がHしている所を、想像してしまった。


「でも私は行かない。『その日は家族で栃木のお祖母さんの所に行かないとならない』って言ってあるのよ。そうすると哲也はどうすると思う?」


 燈子先輩が意味深な笑いを口に浮かべた。


「代わりにカレンをアパートに連れ込もうとする、ですね?」


 俺がそう答えると、燈子先輩は笑って首を縦に振った。


「おそらくそうなるわ。浮気カップルにとって、こんなにゆっくりと過ごせるチャンスは、そうは無いはずだから」


 俺は黙って話を聞いていた。

 おそらく燈子先輩の言う通りになるだろう。

 本命彼女の燈子先輩と一夜を過ごせなかった鴨倉は、間違いなく浮気相手のカレンをアパートに呼ぶはずだ。


 そこまで考えていた時、燈子先輩が俺をじっと見ている事に気付いた。


「なんですか?」


「君は、大丈夫?」


「なにがですか?」


「だって、ホラ……私たちが見張っているんだから、目の前で哲也のアパートに彼女が連れ込まれる事になるんだけど……」


 燈子先輩は言いにくそうに、それだけを言った。

 俺がこの前「精神的ダメージが大きすぎて、浮気の証拠をじっくり見れない」と言った事から、気遣ってくれているのだろう。


「大丈夫ですよ。俺はもう、カレンを彼女だなんて思っていません。それに今さらアイツを止めたって、二人が浮気している事実は変わりませんから」


「本当に大丈夫か?ムリしてんじゃないか?」


 そう石田がツッコんで来た。


「うるせーな。ムリなんかしてねーよ」


 俺はそう言ったが、本心ではまだ一抹も二抹も不安はあった。


 ……目の前でカレンが鴨倉のアパートに入っていくのか……


 そんな俺の気持ちを見透かしたかのように、燈子先輩が言った。


「ムリならムリって言ってね。作戦がブチ壊しになるのが最悪だから。それに、こんな事が平気じゃないのは当然よ。私だってツラい気持ちは一緒だから……」


 燈子先輩のその言葉を聞くと、俺は不思議と気持ちが落ち着いた。

 そう、カレンと鴨倉の浮気で辛い想いをしているのは、俺だけじゃない。

 燈子先輩も同じ気持ちなのだ。

 ただ彼女の方が気丈に、そして冷静に事態に対処しているだけなのだ。


「本当に大丈夫です。カレンがどうなろうと、知った事じゃない!だから俺の事は気にしないでください」


 すると燈子先輩は優しい感じの笑みを浮かべた。


「それならばいいけど。でもあんまり『カレンさんは自分の彼女じゃない』って思い過ぎないようにしてね。あくまで君は、カレンさんに『一生一緒に居たい!絶対に離れたくない!』って思わせなきゃならないんだから」


 そこで再び一美さんが口を開く。


「あとさぁ、一色君も彼女、カレンさんに『自分は土日は用事があって出かける』って言わないとダメでしょ。そうでないとカレンさんは落ち着いて浮気ができないからね」


「そうね。一色君、その事は頼める?」


「解りました。俺もどこかに出かけている事にします」


 そこで石田が言った。


「それじゃあ、俺ん家の別荘に行く事にしようぜ。前々からその話をしていたし、ちょうどこの前から『釣りに行く』話もしていたから、不自然じゃないだろ」


 燈子先輩も頷く。


「そうね。それなら自然だし、石田君が口裏を合わせる事も出来るからね」


「決まりだな」


 その石田の言葉を合図に、一美さんが次の課題を口にした。


「張り込みとなると、かなりの長期戦になるよね。向こうはアパートで一晩過ごすなら、コッチは徹夜になるかもしれない。せめて二人が部屋に入る時間くらい、絞り込めないかな?」


 それには燈子先輩が案を出した。


「じゃあお昼までは私が哲也を引っ張るわ。『祖母の家に行く前に、少しでも会っておきたい』って言って。そうすれば時間は少なくとも午後からになるでしょ」


「その方が助かる。それと路上で立っている訳にはいかないから、車が必要だね。一台はアタシがウチの車を出すけど、もう一台はどうするの?燈子の家のベンツはヤバイでしょ」


「そうね、レンタカーを借りるわ。ワンボックスタイプなら、それほど窮屈でもないでしょうし」


「それなら大丈夫だね。後は長丁場になるから、見張りのローテーションか」


「盗聴器とか隠しカメラとか設置できないかな?そうすれば浮気のより確かな証拠が掴めるのに」


 そう言ったのは石田だ。

 だが燈子先輩は首を左右に振った。


「それは犯罪行為よ。見つかった時には大変な事になるわ。今は夫婦間でもプライバシー問題になるのに、交際している男女程度で、そんな事は許されないわ」


「そうっすか。いや、確実な浮気の証拠ならって、思ったんですけどね」


「それなら一色君の証拠だけでも十分だと思う。この事は、私が納得したいためにやっているの。私の中で『確かに哲也が浮気をした』という確証が欲しいのよ。だから二人でホテルやアパートに入って何時間も過ごしている事が確認できれば、それでいいのよ」


 俺はそれを聞いて燈子先輩を見た。


 ……私の中で確証が欲しい?……


 彼女はまだ鴨倉の事を信じているのだろうか?


「一色君、解った?後は君がカレンさんに言うだけなんだけど?」


 燈子先輩が急に俺に話を振ってきた。


「あ、はい。大丈夫です。さっき石田が言った事を、今日中にカレンに連絡しておきます」


 俺はそう答えた。

 一美さんがニヤリと笑う。


「策士だねぇ、燈子。さしずめ『死せる孔明、生ける仲達を走らす』って感じ?」


「私、まだ死んでないけど?」


 するとすかさず石田が突っ込んだ。


「それならこれはどうっすか?『仕組む燈子先輩、サカる鴨倉を走らす!』」


 みんながそれを聞いて大笑いした。

 燈子先輩だけは微妙な苦笑いをしていたけど。


 何はともあれ、それで重かった空気が軽くなった感じだ。

 ヨシ、やるぞ!

 後は土曜日に決行するのみだ。



>この続きは明日(12/22)正午過ぎに投稿予定です。

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