第13話 仕組む燈子先輩、サカる鴨倉を走らす!(中編)

《前回のお話》

 鴨倉哲也と蜜本カレンの浮気現場を中々押さえられない優と燈子。

 二人はそれぞれ親友の石田洋太と加納一美に助力を頼んだが成果が出ない。

 そこで優は『カレンと鴨倉が浮気している時間帯』に電話をしてみた。

 そのためカレンが不機嫌になり……



「それは、マズイことをしたわね」


 燈子先輩は拳を顎にあて、険しい表情をした。


 今日は火曜日。

 昨夜のカレンとの電話の一件を話した時だ。


 俺達は今、大学からは離れた喫茶店に集まっている。

 俺と燈子先輩以外に、俺の親友である石田洋太、そして燈子先輩の親友である加納一美さんが一緒だ。


 四人が一同に会するのは、これが初めてだ。

今後の『鴨倉先輩とカレンの浮気現場』を押えるために、作戦会議をする事になったのだ。


 俺や石田が、加納一美さんに会うのは初めてだ。

 一美さんは髪を明るい茶色に染めた、一般的な美人と言った感じの人だ。

 ちなみに石田は、俺や燈子先輩、そして鴨倉と同じサークルなので、三人は面識がある。


「やっぱり、そうですか……」


 俺は沈んだ声を出した。

 あの電話の会話は「別れる直前のカップルの会話」と言ってもいいくらいだ。


「カレンさんに『毎日電話しなくていい』って言わせちゃったのはマズかったわ。彼女の中で一色君の優先順位が落ちた事を、認識させちゃっているからね」


 それを聞いて、一美さんが飲んでいたアイスコーヒーのストローから口を放した。

 俺を見る。


「燈子の言う通りだね。そういう時、女は『コイツ、ウザい。もういいや』って気分になっているから。彼氏に知られたくない事をやっていて、それを尋ねられたら、『寝てた』『頭が痛い』『もう眠い』は常套句だもんね」


「すみません。俺が先走って余計な連絡をしたばかりに……」


 俺が頭を下げると、石田がそれをかばうように言った。


「いや、仕方ないと思うぜ。彼氏が電話して彼女が出なかったら『何してた?』って聞くのは普通だろ?」


「そうね。そこで何も聞かないのは、逆に彼女も不自然に思うかもね」


 燈子先輩もそれには同意した。

 だがすぐに次の指摘が入る。


「でももうこれからは、カレンさんが哲也と一緒に居ると思われる時に、君から連絡するのは絶対に止めなさい。浮気とか何とかに関わらず、女は他の男性と一緒に居る時に彼氏から連絡が入るのは、かなり面倒臭いと思うものよ」


「わかりました」


「私たちの目的は『相手を最高に惚れさせた時に、相手を振る事』なんだから。今からカレンさんの気持ちが離れるような事は慎まないと」


 俺には返す言葉が無かった。

 だが冷静に考えてみると、『離れかけた彼女の気持ちと取り戻す』って言う事だけでも、相当に難易度が高いんじゃないだろうか?


「まぁそれはそれとして。今日の話し合いの主題はそれじゃないんでしょ。チャラ鴨とビッチ女の浮気現場を押さえる事だよね?」


 一美さんが場の雰囲気を和まそうとしてか、そう軽口を叩いた。

 だが「チャラ鴨!」と言って、その言葉に笑ったのは石田だけだった。

 燈子先輩は不満そうな顔で言った。


「そうね。今までの方法では成果が望めそうにない。それと哲也とカレンさんは別々に落ち合う駅まで来ているみたいだし。そうすると駅で監視するには、同じ場所に二人ずつ配置しないとならない。日暮里駅なら出口は三箇所だから、六人が必要な計算になるわね」


 そこで石田が俺を見た。


「俺もこの前の失敗でそう思った。それでさ、俺の妹も尾行に参加させるって言うのはどうかな?」


「石田の妹?明華ちゃんをか?」


 石田の妹・明華ちゃんは、私立市川女子学院に通う高校二年生だ。

 兄である石田はゴツイ系の容貌なのに対し、明華ちゃんの顔立ちはかなり可愛らしい。

 彼女はお兄ちゃん子な所があり、俺とも何度か一緒に遊んでいる。


「そうだよ。この話を聞いたら明華のヤツ、『その鴨倉って人、許せない!私も手伝う!』って言い出してさ」


「オマエッツ!明華ちゃんに話したのか?」


 俺はビックリして思わず大声になる。


「いや、俺が自分から話したんじゃないよ。この前、優から電話があった時、俺はリビングにいたんだ。そうしたらソファの影で寝ていた妹に気が付かなくってさ。話を全部、明華に聞かれちまったんだよ」


「おまえなぁ~」


 俺は思わず頭を抱えた。

 そこに燈子先輩が厳しめの言葉で言った。


「その案は却下よ。石田君の妹と言う事は、まだ高校生でしょ?」


「そうっすね。高校二年です」


「そんな女の子を、ラブホテルがあるような道を一人で歩かせられる?しかも時間は夜になるのよ。絶対にダメよ」


「そっかぁ。明華は『友達と一緒に手伝う』って張り切っていたんだがなぁ」


 石田は少し残念そうだ。


「石田、気持ちは嬉しいけど、燈子先輩の言う通りだ。明華ちゃんをそんな危険な目には合わせられないだろ」


 俺がそう言うと、今度は一美さんが口を開いた。


「燈子、そろそろ燈子が考えた次のプランを話してあげなよ。もう『駅で見張ってる作戦』は詰んでるんでしょ?」


「「次のプラン」」


 俺と石田は同時にそう聞き返した。



>この続きは明日(12/21)正午過ぎに投稿予定です。

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