第15話 ブービートラップ(前編)

 燈子先輩達との打ち合わせから戻った俺は、すぐにカレンにメッセージを送った。


>(優)今週の土曜日さ、前から誘われていた石田の別荘に行く事になったんだ


 すると返信はすぐに来た。


>(カレン)楽しそうだね~、いってらっしゃい!!


 何となく、これで終わるのも癪だな。

 少しカマをかけてみよう。


>(優)それでさ、良かったらカレンも一緒に行く?


 こうしてカレンを誘った方が、逆に怪しまれないだろう。


>(カレン)カレンはいいよ、遠慮しとく。優くんの地元の友達と一緒でしょ?


>(優)うん、そうだけど。


>(カレン)だったら地元同士で楽しんで来て!カレンもその日は友達と会う約束があるから


 そういう返事が帰って来た。

 予想通りだ。


>(優)そっか。じゃあ仕方ないな。


>(カレン)今週はお互い、別々に楽しもうね!


 な~にが「お互い別々に楽しもうね」だ!

 オマエの言う友達ってのは、俺の先輩でチャラ男の鴨倉の事だろうが!


 だがこれ以上は突っ込む事も出来ない。

 俺はスマホをベッドの上に放り出した。

 するとしばらく経ってから、スマホが振動した。

 見るとカレンだ。


>(カレン)優くん、土曜日は何時ころ出発するの?


 ……確か燈子先輩は、お昼くらいまで鴨倉を引っ張るって言っていたな……


>(優)昼過ぎにはコッチを出る予定だけど。


>(カレン)そうなんだ?帰ってくるのはいつ?日曜は何時に帰ってくるの?


>(優)けっこう遅くなると思う。高速道路も混んでるだろうしね。夕方に向こうを出たら、家に着くのは夜遅くになるんじゃないかな


>(カレン)そうなんだ?気をつけて行ってきてね


 カレンは俺が居ない時間を確認したのだろう。

 その間、たっぷりと鴨倉と一緒に居られる、そんな考えだろうな。

 クソが、クソビッチが!

 今に見ていろ。

 必ず目にモノ見せてやるからな!



 そしてついに作戦決行の土曜日がやって来た。

 昼過ぎに俺は石田とレンタカーを借りると、カレンに「それじゃあ行ってくるよ」とメッセージを残した。

 割りとすぐに「いってらっしゃい」という返信が届く。


 鴨倉の錦糸町のアパートの近くになって、「現地到着」と燈子先輩にメッセージを送る。

 すると燈子先輩からも「あと一時間ほどで私も出る」とメッセージが届いた。

 この場合の「私も出る」は、「あと一時間で、燈子先輩と鴨倉は別れて、コッチに向かう」と言う意味だ。


 俺と石田の乗るワンボックス車は、駅から鴨倉のアパートに向かう道を監視できる場所に停車した。

 念のため、鴨倉より先にカレンが来る場合を考えてだ。


 とは言え、この時点では俺達はあまり緊張していなかった。

 まだ二人とも来る時間には早いと考えていたからだ。

 運転席の石田が言った。


「やっぱ燈子先輩ってイイよな」


「ああ」


 俺は少し投げやりな感じで返事をした。


「あんな人が彼女だったら最高だよな」


「ああ」


「なんで鴨倉先輩は、あんな美人で巨乳の彼女がいるのに、浮気なんかしたんだろうか?」


「俺が知るかよ、そんな事」


 石田にはこうして休日にわざわざ手伝って貰っていて、とても感謝している。

 それでも俺は、この話題には快い返事ができなかった。

 どうしても不機嫌な感じになってしまう。


 だが……俺も石田と同じ疑問を感じてはいた。

 容姿の度合いから言えば、顔もスタイルも、カレンより燈子先輩の方が断然上だ。

 これは男なら十人が十人とも、そう答えるだろう。

 カレンと10回ヤルより、燈子先輩と1回ヤレル方がいいようにも思う。

 もっとも男と言うのは、常に色んな女とヤリたい生き物なので、『美人の彼女がいるから、他の女に手を出さない』という訳じゃないが。


「確かにカレンちゃんも可愛いけどな。ウチのサークルでは『可愛い子ベスト3』に入るもんな」


 俺は不機嫌に押し黙った。


「正直、夏休み前にオマエが『カレンちゃんと付き合う事になった』って聞いた時は、かなりうらやましかったよ」


「それがこんな形になると、俺としては絶対値で気持ちがひっくり返るんだけどな」


「そうだよな。優としては辛い立場だよな。もう、少しは気分が晴れたのか?」


「ああ。燈子先輩のお陰で、だいぶ吹っ切れたよ。目が覚めたって感じかもな」


「そうか、それなら良かった」


 石田が安心したように言う。


「いやさ、実は今日も『鴨倉とカレンちゃんが一緒に居るところ』を見たらさ、優が逆上して飛び出したりしないかなって、ちょっと心配していたんだ」


 そうか、その心配もあって石田は朝から一緒に来てくれたのか。


「ありがとう。でも大丈夫だよ。そんな事をしたら燈子先輩に軽蔑されるだけだしな」


「俺の想像以上に優が冷静で安心したよ。燈子先輩サマサマだな」


 石田が俺の方を見た。


「燈子先輩が言う『最後の時』に、一緒にいられるのがオマエだったらいいな。俺は応援するよ。鴨倉のクズ先輩に一発ブチかましてやれよ」



>この続きは明日(12/23)正午過ぎに投稿予定です。

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