第9話 浮気現場パパラッチ作戦(前編)

 昨日の夜、俺はカレンに、燈子先輩は鴨倉にそれぞれ連絡を取った所、今日は二人が会う可能性が高いと判断した。

 俺達はメッセージをやり取りし、俺は鴨倉先輩を、燈子先輩はカレンを尾行する事になった。


 と言っても、とりあえずは大学の最寄り駅で見張っている程度だ。

 俺も燈子先輩も、鴨倉もカレンも通学時には中野駅を利用している。

 よって駅なら俺達が居たとしても不自然ではない。


 そして俺は4限が終わった段階で、理工学部校舎の出入り口を見張っている事にした。


 情報工学部3年のカリキュラムは確認してある。

 実習ではないので、すぐに鴨倉先輩も出てくるはずだ。


 俺が理工学部校舎の正面口を見ていると、予想通り割りとすぐに鴨倉は出てきた。

 そのまま駅に向かって歩いて行く。


 カレンの方も、今日は4限まで授業があるはずだ。

 経済学部校舎は理工学部校舎とは反対側にあるため、校舎を見張っている事は出来ないが、駅までの距離は同じくらいだ。


 俺は他の学生の集団の後ろになるようにして、鴨倉の後をつけた。

 鴨倉は特に周囲を警戒している様子はない。

 ただスマホを取り出して何か操作している時、チラッとだけ背後を見渡した。

 しかし俺に気が付いた様子はない。


 ……カレンからの連絡か?……


 俺はそう考えたが、ここからでは確認のしようがない。


 校門の近くまで来ると、4限が終わった学生が一斉に外に出ようとしている。

 この人の多さなら、たとえ俺が居たとしても不自然ではないだろう。


 駅でも同じ状況だ。ホームには学生が溢れている。

 鴨倉はここでもスマホを操作していた。


 俺は時折周囲を見回していた。

 鴨倉は俺に気付いていないが、もしかしたら近くにカレンがいるかもしれない。

 そこで俺の姿に気がついたら、カレンは当然鴨倉に連絡するだろうし、二人とも警戒する事は間違いない。

 だが俺の見える範囲にカレンの姿はなかった。

 カレンはパステルカラーの明るい色調の服装が多いため、見逃すことはないだろう。


 やがて千葉方面に向かう総武線の列車が来ると、ヤツはそれに乗った。

 俺も同じ電車の隣の車両に乗る。


 鴨倉のアパートは錦糸町のはずだ。

 錦糸町もラブホテルは多い。

 そこで落ち合うのか?

 燈子先輩の推理だと、自分の地元駅は浮気の密会には使わないはずだが?


 四谷あたりから電車が急激に混んできた。

 鴨倉の姿も見えたり見えなかったりする。

 俺は車両を移動しようかと思ったが、それは逆にヤツの注意を引き易いと考え、思い留まった。

 人影の中に見え隠れする鴨倉の姿を隣の車両から監視する。


 秋葉原駅に着いた時だ。

 鴨倉の姿が見えない。

 さっきまでヤツがいた場所に、鴨倉は居なかったのだ。


 そう思った時、人ごみに紛れてホームを歩く鴨倉の姿が見えた。


「すみません!降ります!」


 俺は車内の人を掻き分けて、急いで列車を降りる。

 だが俺がホームに出た時、鴨倉の姿を見失っていた。


 今の感じだと、鴨倉は山手線ホームに向かったはずだ。

 ヤツが行ったのは、東京方面か、それとも上野方面か、どっちだ?


 俺は上野方面に向かうホームへ走った。

 理由は『カレンの通学経路だと上野方面』だからだ。


 しかし俺がホームへの階段を降りて行く途中、ちょうど山手線の発車ベルが鳴った。

 ダッシュするが間に合わない!

 俺がホームにたどり着いた時、無情にもドアは閉まった。


 走り去ろうとする山手線の列車を、俺を見つめた。

 中に鴨倉がいないかを探したのだ。


 すると……居た!鴨倉哲也だ!


 ヤツはやはり秋葉原から上野方面に向かう電車の乗っていたのだ。

 俺はスマホを取り出し、燈子先輩にメッセージを打った。


>(優)Tの追跡に失敗。ただアキバから山手線に乗り換え、上野方面に向かったのは確認しました。


 『T』とは鴨倉哲也の事だ。

 あまり意味がないかもしれないが、人に見られた時のためにイニシャルで書くようにしている。

 しばらくして燈子先輩からの返信が届く。


>(燈子)了解。コッチはKを発見できず。もうすぐ秋葉原に着くので、少し話しをしましょう。


>(優)わかりました。先に店を探しておきます。店が決まったらまた連絡します。


 そう返信を打った俺は、さらに階段を下りて電気街口に向かった。



「待たせてごめんなさい」


 そう言って燈子先輩が現れた。

 今日は白い薄手のロングカーディガンに、薄い茶色のワンピースだ。

 シンプルながらもセンスの良いその装いは、彼女の美貌と相まって周囲の人間の注目を浴びた。


「いえ、そんなに待ってないですから、大丈夫です」


 俺はそう返事を返す。


 ここは秋葉原駅近くのオフィスビルにある喫茶店だ。

 雰囲気が落ち着いている上に、テーブル同士の間隔が広く、ゆったりとしている。

 あまり他人に聞かれたくない話をするには好都合だ。

 燈子先輩は席に着くと、ウェイトレスにカプチーノを注文した。


「まず最初に謝っておくわ。私の方はカレンさんを見つける事が出来なくて、今日は何の収穫も無かった。ごめんなさい」


「いいですよ、そんな事。最初から燈子先輩の方が難しい『カレンの追跡』を担当していたんですから。ところで話と言うのは?」


「うん、君の連絡のお陰で、二人が会いそうな行きそうな場所の目途が着くと思うの。それを話しておきたくて」



>この続きは明日(12/19)正午過ぎに投稿予定です。

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