第8話 女はみんな女優

 その夜、俺はカレンにいつも通り電話した。

 時間は夜の11時くらいだ。


 本音は、しばらくは声も聞きたくないくらいだが、計画遂行のためには必要な事だと自分に言い聞かせる。

 だがそれでも俺は15分以上、カレンの電話番号を押す事に躊躇ためらっていた。

 最後は『燈子先輩の顔を思い出して』、勇気を奮って通話ボタンを押す。


「は~い!」


 いつも通り明るい声でカレンは電話に出た。


「カレン?俺、昨日は連絡できなくてゴメン」


 俺はまず謝罪を口にした。

 浮気したビッチ女にコッチから頭を下げるなんてしゃくだが、燈子先輩の言葉を思い出して何とか口先だけでも演技する。


「そうだよぉ~、優くん、月曜の夜から全然連絡が着かないんだもん!どうしたのか心配しちゃったよぉ」


 まるで自分は浮気など全く無い、俺に一途な女の子と言った口調だ。


「ゴメン。色々あってさ」


「色々って何?カレンをホテルに放っておいて帰っちゃうような用事?」


 ちょっと拗ねたような言い方をする。

 普段ならこれも「可愛い」と思うのだが、浮気した女だと思うと「あざとい」としか思えない。

 おそらくは『自分の浮気がバレていないのか』を遠回しに探っているのだろう。


「月曜は地元の友達が車で事故ったんだ。その連絡があってさ。急いで行かないとならなかったんだ」


 これは予め考えておいた言い訳だ。


「ふ~ん、一人で?」


「いや、石田と一緒に。俺が石田に連絡したから」


 実際に月曜の夜は石田と一緒にいた。

 だから少しは真実を取り入れておかないと、どこでボロが出るか解らない。


 あ、しまった。

 石田には『地元の友達の事故』の話は伝えていなかった。

 この電話が終わったら、速攻で石田に連絡して口裏を合わせておかねば。

 でも、なんだか俺の方が浮気してるみたいだな、コレ。


「昨日はどうしたの?」


「月曜の夜が遅かったからさ。レポートやりながら寝ちゃったんだよ。気がついたら午前三時だったから、カレンももう寝てると思って連絡しなかったんだ」


「それなら良かった。もしかして浮気でもしてるんじゃないかって、心配しちゃったよ」


 一瞬、俺はスマホを投げつける所だった。

 この女、よくもまぁ、イケしゃあしゃあと。

 自分が浮気しているクセに、よくこんな事を言えるもんだ。


……と、イケナイ、いけない。燈子先輩に言われた事を思い出して……


「大丈夫だよ、俺はそんな事はしないから」


 オマエと違ってな!


「絶対だよ!カレンは優くん一筋で大好きなんだから」


 俺は怒りと呆れがほぼ同時に襲ってきていた。

 きっと顔にもアリアリと出ているだろう。

 顔を合わせていないのが、不幸中の幸いだ。


 本当によく言うよ。

 こんな風に、息をするようにウソをつくなんて。

 改めて『女って怖ぇな』って思わざるを得なかった。


「俺もカレンだけだよ。愛してるよ」


 言葉がちょっと喉の奥で引っかかったが、何とかその台詞を言う事ができた。


「カレンも!大好きだからね!」


 このカレンの言葉を聞いていると、あの『鴨倉先輩とのメッセージのやり取り』の方がウソじゃないかと思えてくる。


 俺は一つだけカマを掛けてみる事にした。


「それでさ、明日は会えないかな?授業が終わったら、どっかで食事しようよ。二日も会えなかったから、俺もカレンの顔が見たくてさ」


 一瞬の間……


「んん、明日はちょっと都合悪いかな。地元の友達とご飯一緒に食べに行く約束しちゃったから」


 やっぱりな、そういう事か。


「そっか、先約があるんじゃ仕方ないな。じゃあ次の機会だな」


「うん、また今度ね」


 そんな感じで水曜の夜のカレンとの電話は終わった。

 すぐに燈子先輩にメッセージを送る。



>(優)さっきカレンに電話しました。明日の夜は「地元の友達と食事に行く」って言ってました。


 燈子先輩からの返信もすぐに来る。


>(燈子)やっぱり。私もちょっと前に哲也とメッセージをしてたら「明日はバイト先の連中と飲み会がある」って言ってたわ。


>(優)じゃあ明日は二人は会うつもりなんですね。


>(燈子)可能性は高いわね。


>(優)どうします?


>(燈子)どうって?


>(優)二人を追跡します?


>(燈子)そうね。せっかく会う日が解っているのだから、少しだけ調べてみましょうか?


>(優)俺がカレンを追いますか?


>(燈子)それはリスクが大きいわ。女は彼氏なら、一瞬姿を見ただけでも判別できるから。彼女は私が追うわ。


>(優)じゃあ俺は鴨倉先輩を追うんですね。


>(燈子)ええ。でも決してムリはしないで。10メートル以上は常に距離を離していて。見失ったら見失ったでいいから。乗る電車が解るだけでも十分よ。明日はそこまでムリをする必要はないわ。もう少し泳がせて、完全な形で尻尾を掴まないと。


こうして俺と燈子先輩の『浮気現場パパラッチ作戦』が始まった。



>この続きは明日(12/18)正午過ぎに投稿予定です。

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