第4話 サレ彼氏とサレ彼女の会話(後編)
《この前までのお話》
大学二年・
優の先輩である
それを知った優は、鴨倉の恋人である
「自分と浮気してくれ!」と持ちかけるが……
燈子先輩は静かにコーヒーカップに口を付けた。
こういう仕草一つも絵になる女性だ。
やがてコーヒーをテーブルに置くと、彼女は静かにこう言った。
「君の気持ちは解るけど、それは出来ないわ」
「俺じゃ浮気相手としては嫌だって事ですか?」
まぁそれは当然だろう。
俺は『燈子先輩が相手なら喜んで!』だが、彼女にだって相手を選ぶ権利はある。
誰が見たって、俺と燈子先輩では吊り合わない。
だがそう言われて、やはり俺は相当に悔しかった。
……俺はそんなに鴨倉のヤツに劣っているのか?……
……俺の彼女はヤツに寝取られ、それが解っても燈子先輩は鴨倉以外に身体を許さないほど……
鴨倉に比べて、自分があまりに惨めに思えてくる。
「そんな事じゃないわ。私が浮気をしない理由は主に三つ」
燈子先輩は自分に言い聞かせるように、ゆっくりとした調子で語り始めた。
「一つ目は『哲也が本当にカレンさんと浮気したのか、まだ確認が取れていない』と言う点」
「それはもう間違いないでしょ。ここに二人がやり取りしたメッセージの画像もあるんだから」
「ええ、おそらく間違いないでしょ。でもそれが誰かの偽造の可能性もある。前にも、私と哲也を別れさせるため『鴨倉は他の女と二股を掛けている』って言ってきた男がいるのよ」
「俺はそんな事、しませんよ!」
「私も君はそんな事をする人間じゃないと思っている。だけど君自身が騙されている可能性もあるでしょ?もしこの画像がカレンさんのイタズラだったら?」
俺は沈黙した。
そんなはずは無い、と思うが、そう言い切る根拠もない。
「二つ目の理由は『ここで私とアナタが浮気したら、相手を責める根拠を失う』ため」
「相手を責める根拠を失う?」
俺は聞き返した。
「そうよ。君がこの後、カレンさんとどうするつもりかは知らないけど、私は浮気が事実だったら哲也とは別れるつもり。その時に『オマエだって浮気したんだろ』と言わせないためよ。あくまでコッチはクリーンハンドでなければ!」
なるほど、そういう理屈か。理性的な彼女らしい考えだ。
だが……
「燈子先輩は悔しくないんですか?浮気されっぱなしで、単純に別れるだけなんて。相手に仕返ししたくないんですか?」
「それが三つ目の理由よ」
「どういうことですか?」
「普通の仕返しでは許さないって事よ。相手、哲也に死ぬほどの後悔をさせてやらないと……。私と別れても、カレンさんと付き合うからそれでいい。そんな気分に絶対にならないくらい、『いっそ死にたい』と思うくらいの、後悔と絶望を味わわせてやるわ」
燈子先輩の目から、鬼火のような青い炎が出たような気がした。
同じ被害者の俺でさえ、思わず背筋がゾクッとするような凄まじい怒りのオーラだ。
俺は生唾を飲み込んだ後で、彼女に聞いた。
「それって具体的にはどうするんですか?」
「そうね……」
彼女は腕を組んで顎に拳を当てて考える。
「まずは相手に惚れさせる事。今よりももっともっと、そう私に依存症になるくらいに」
「それから」
「相手が自分から離れられなくなった時を見計らって、相手を痛烈に振るのよ。そうね、例えば浮気するならそのタイミングね。相手の目の前で『これからこの人と一緒に一夜を過ごす』って宣言してね。向こうにはそれを止める術がない。何て言っても自分達が浮気しているんだから。それに対し、コッチは正当に別れを告げてから、堂々と他の人と二人で立ち去るの。相手にとってはこれ以上ない屈辱でしょ?」
この話を聞いて俺が最初に思ったのは「怖っえぇ~」。
確かに、最高に愛する女性が目の前で『アンタとは今ココで別れる。これからこの男と一夜を過ごす』なんて言われたら、目の前から世界が崩壊するくらいのショックだろう。
しかもそれが自分の自業自得だったら、どうする事も出来ない。
ただひらすら惨めに相手に取り縋って許しを乞うしかない。
これ以上の復讐はないだろう。
「じゃあ、その時に俺と?」
思わず、そんなマヌケな事を口にしていた。
だが燈子先輩は、俺を冷たい目で見下ろすように見た。
「それはまだ解らないわね。私は自分を安売りしたくないの。そんな『浮気の復讐』くらいで、簡単に寝るような女にはなりたくない」
さすが、燈子先輩。
カッコイイと言うか、そこらの女とはレベルが違うと言うか。
ま、そうでしょうね。
燈子先輩のプライドの高さと、女性としてのランクを考えれば、それも当然だ。
俺としては一抹の寂しさがあるが……
だが燈子先輩はその後、ちょっと優しさの混じった声で言った。
「とは言え、今の段階では私と君は『同じ状況に置かれた同士』と言えるわ。お互いに協力して、相手を徹底的に後悔させる作戦を実行しましょう。最後の時に、君が私の相手になれるくらい自分を磨いていたら、その時には考えてもいいわ」
最後の時……
それは彼女の言う
『最も相手が自分に惚れている時、相手を振って別の男と一夜を共にすると宣言する』
その時だ。
俺はその瞬間を想像した。
鴨倉が泣いて燈子先輩に取り
だが彼女は、ニベもなくそれを突き放す。
そしてそんな燈子先輩の隣には俺が……
いいじゃないか!
最高の復讐だ!
あのいつもカッコつけて、偉そうに先輩ぶった鴨倉に、これ以上ギャフンと言わせる仕返しがあるだろうか?
そしてクソビッチ女のカレンにも、目の前で『カレンよりも数ランク上の女性』と一緒になる所を見せつけてやる!
「その仕返し、最高です!ぜひ俺も一緒にやらせて下さい!」
こうして俺と燈子先輩は『浮気した恋人に壮絶な後悔をさせる』ために共同戦線を張る事になった。
今に見ていろ、蜜本カレンと鴨倉哲也。
俺達を裏切って浮気したオマエらに、倍返しだ!
>この続きは、明日(12/14)正午過ぎに投稿予定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます