第2話 祈りの日常
暇な休日のことです。
『ワールドクラッシャー』のタイムポイントを使いきり。することを無くしていた。
ベッドに横になり天井を見上げる。そうだ、昔の趣味のスケッチに出かけることにした。
バスに乗り大き目の公園に出かける。湖が広がり、空は晴れていた。ベンチに座り線を描く様にスケッチを始める。
ふと、色を入れる作業に入ると手が止まる。それは赤を使いたくなったからだ。
通りがかりのお爺さんに「この湖は赤くなることが有りますか?」と聞く。
「無いなー」
簡単な答えであったが、わたしは赤を使うのを止める。青い世界にしよう。迷いは消えて青を手にする。
お爺さんに挨拶をして描き始める。
しだいに雲が重なり天気が悪くなってくるが、わたしは青を描き続ける。アイタ、降ってきた。
傘の持ち合わせはなく、バス停に走る。ペンダントとして持ち歩いている『祈りの石』が光る。
わたしの不幸を吸い取っているのだ。バスが来る頃にはずぶ濡れになるがスケッチブックだけは濡れないようにする。
『祈りの石』の輝きが薄れていく。どうやら、たいした不幸ではないらしい。
「にゃー」
公園に住んでいるのか猫があわれてよってくる。わたしは猫に挨拶をしてバスに乗る。席に座ると今日のスケッチを確認する。
湖も空も青の世界である。
明日は検査だ、一日病院に行く事になる。
今日のスケッチは有意義な時間であった。
今日は一日、病院で検査であった。レントゲン検査に採血、その他もろもろ。
細くてきゃしゃな腕は病人そのものであった。髪型は日本人形なので恋も関係ない。
「採血ですよ」
検査入院ではないので待合室から呼ばれる。こんなわたしでも憧れの人はいた。
隣の部屋に入院していた一つ年上の青年であった。彼はいつも窓の外を見て、自分の死を待つようであった。
検査入院を繰り返していたわたしの憧れの人であった。病室に遊びにいくと、笑顔で迎えてくれて色んな話をした。
その思い出は白に例えられた。
そう、彼は死をむかえたのだ。初めて号泣したのは、その死を知った時である。
絶望的な無力感に襲われて泣き続けた。大人達はアンバランスな恋と慰めてくれたが余計に切なくなった。
彼を失って一人で立てるのであろうかと本気で悩んだ。彼への想いはわたしの弱さそのものであった。
採血の途中でそんな思い出が重なる。
「あら、痛かった?」
「少し……」
わたしは誤魔化すのであった。この看護師さんも彼のことは知らない。
帰り道に『祈りの石』が輝く。わたしの不幸を吸っているのだ。
自宅に着くと部屋に籠りリストカットを思いつく。この『祈りの石』に生き血を吸わせたい気分である。
うん?
携帯が鳴っている。
『グッドモーニング』
真由美ちゃんからの電話であった。病院にいる間は電源を切っていたからな……。きっと、今起きたと思ったらしい。
『祈りの石』
わたしはこの石のおかげで新しい人生を歩んでいるのかと思うのであった。
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