第49話
鍋には形よく切られた野菜がどっさりと入って煮られている。
「シチューと言っていたし、味付けはダタズさんを待たないと無理でしょうが、先に柔らかくなるまで煮ておこうと思いまして」
ふむふむ、そうだよね。日が暮れるか暮れないかっていう時間になったら夕飯の時間になるそうですし。シチューはじっくりに込んだほうがおいしいに決まっている!
「肉は、ずいぶん大きく切って入れてあるんだね?」
2~3センチ角のイメージだったんだけど、とんかつくらいのサイズの肉が入っている。
バーズが驚いた顔をした。
「え?そうですか?ああ、もしかしてユーキはまだ子供だから食べられる量が少ないからでしょうか?これくらい冒険者ならペロリですよ。肉だけお代わりする人もいますよ?」
ん?
もしかして、シチューってでっかい肉がどーんと中心に入った肉料理なのだろうか……。一人1枚肉、その周りに野菜シチュー……なるほど。異文化です。
「フライ、売れそうだから下ごしらえしてるね」
「おーい、おーいっ」
ダタズさんの声が聞こえる。遠くに見えるダタズさんの隣には、少し痩せてはいるが自分の足で歩いている女性の姿があった。
女性に何か話をしながら、こちらを指さしている。
「ありがとう、ありがとう!ユーキ、君のおかげで妻はこの通り」
ああ、やっぱり奥さんなんだ。
「ありがとうございます。なんと感謝を伝えればよいのか……」
深々とダタズさんと奥さんが頭を下げる。
「あの、お礼なら、モモシシを狩ってきてくれたバーヌや、ボクにレアポーションを売ってくれた出張販売所の人とか……えっと……」
あまりの感激っぷりに、目が泳ぐ。
「バーヌさん?」
奥さんがバーヌを見る。
「まぁ、奴隷……奴隷にお礼を言えと……」
ドキリ。
もしかして、私は言ってはいけないことを言ってしまった?
でも、だって、私……からすれば、人間に上下なんてなくて、奴隷だって子供だって、部下だって、誰だってしてもらったことには感謝しないといけないって……。そう、神様だと言われるお客様だって「ありがとう」って言ってくれるよ?
ぎゅっと奥さんが、私を抱きしめた。
「ありがとう。あなたのような優しい子に出会えて私は幸せだわ……」
今まで床に伏せていたとは思えない。ふわりと花の香がした。
「バーヌさん、ありがとう。あなたの狩ってきたモモシシのレバーのおかげでこうして、また自分の足で立って動けるようになりました」
奥さんは、私から離れるとすぐにバーヌにお礼を述べた。
「私は解放奴隷なの。主人が……お金をためて解放してくれた」
え?
奥さんがはにかんだ笑みを見せる。
「はは。まぁ、昔話はあとにして、準備を進めよう。下ごしらえをありがとう。うん、あと鍋にはクルルの実と、隠し味にはちみつを少し入れて、それから……」
「もう、あなた、隠し味をペラペラと人に教えないの!」
「ぷっ」
思わず吹き出してしまう。奥さんにしょっちゅう言われていたというけれど、本当だったんだ。
「あは、そうだ、そうだったな」
ダタズさんが嬉しそうに笑う。そうだろう。また、同じように奥さんの小言が聞けるようになったんだもんね。
「あら、これは何?」
私が下ごしらえしていたものに首を傾げる。
「レバーを使った料理です。ちょっと待ってくださいね、すぐできますから、食べてみてください」
揚げ焼きして奥さんとダタズさんに渡す。
「あら、美味しい!」
「本当だうまい!」
「よかったです。レバーは捨てるみたいなんで、嫌いな人が多いのかと思ったので……ほかにも何人か試食してもらったんですけど、売っても構いませんか?えーっと、材料はパンと小麦粉とニンニクと油と塩なんですけど、原価に問題なければ」
ダタズさんが首を縦に振る。
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